車内は人がいなくなり,まばらに空いた座席に腰を降ろした。鞄を抱き締めるようにして身体を小さく丸め,目を閉じて電車の車輪の音を聴きながら唇を噛み締めた。


『いつまでこんな生活なんだろう……。毎日毎日毎日毎日……電車に乗って職場でPCのモニタを見続け……また電車に乗る……。毎日毎日,同じことの繰り返し……』


 共働きの両親が実際に働く姿を見たことはないが,今の私と同じように頑張っているのだろうか。子供を育てるために,自分達の趣味や楽しみをすべて捨て,子供のために毎日満員電車に揺られ定年までずっと頑張るのだろうか。

 現役で働いている両親を凄いと感じ,どうして両親はこんな生活に耐えられるのだろうかと不思議な気持ちになった。


『お父さんは,ずっとこんな生活を送りながら子供を……家族を……養っているのだろうか……』


 痛いほど強く,跡が残るほど顔を押し付けている鞄の隙間に涙が流れた。

 さらに唇を強く噛み締め,これ以上涙が出ないように必死に堪えた。


『いつから……いつまで……こんな毎日を過ごすんだろう……』


 鞄に爪が喰い込み,指先に力が入った。

 人の少なくなった電車の揺れは,私の心を痛いほど不安にさせた。