「好きな人ができてもさ……約束だけは,破らないで欲しかった……裏切らないで欲しかった……」


「あの……ごめん……」


 優と別れることよりも何年も信じてきた男に最後の最後で裏切られたことがショックで,なにを言ってよいのかわからなかった。必死に気持ちを伝えようと思っても唇が震え,頭が真っ白になり,思ってもいない言葉だけが感情のないまま口から洩れた。


「あんなに……あんなに何度も約束したのに……」


「えっと……ごめんって……」


 周りの目など気にならなかったが,これ以上一緒にいても自分が惨めになると思い,ファミレスを出ることにした。


「もう……さようならだね……」


「ああ……そうだな……」


「寂しくなるね……」


「おう……」


「嘘ばっかり……今は他に好きな子がいて,楽しい時なんでしょ……」


「…………」


「もう……いいよ……バカみたいじゃん,わたし……」


 そのまま黙って店を出ると,タクシーに乗って自分のマンションへ帰った。

 タクシーの中では,いままで優と過ごした楽しい思い出が頭の中いっぱいに広がり,寂しさと懐かしさで胸が張り裂けそうになった。そしてこれから先,どうしたらよいのかわからず,感じたことのない不安に包まれ全身が震えた。