「私……今から優のところに行く……」


「え……? 今から……?」


 時計を見ると,まだ電車はあったので由香子は急いで洋服に着替えてタクシーで駅に向かった。

 通い慣れた優のアパートに着くと,見慣れたスウェット姿で由香子出迎えた。自分だけの特別だと思っていた匂いを感じた瞬間,胸が締め付けら心が張り裂けそうになった。それと同時に,いままで当たり前だった優の匂いに知らない女の匂いが混じっているように感じ困惑した。

 慣れ親しんだ優のアパートから少しでも離れ,ゆっくり話ができるところに行きたいと伝え,近くの二十四時間営業のファミレスに行くことにした。


「ごめん……。なんか……こんなことになっちゃって……」


「いいよ……もう……」


 優に会った瞬間,すべてが過去の出来事のように感じられ,目の前の光景ですら薄っすらと見えた。すでに陸上で輝いていた優は目の前にはおらず,そこにいるのは自分に嘘をついて裏切って他の女のところにいった男でしかなかった。


「取り敢えず,これ返すね………」


 由香子は優から貰ったリングと時計を返すと,寂しそうに長いことリングがあった指を触っていた。そこには今まであって当たり前だったリングはなく,いつもと違う感覚の指が冷たくなって小刻みに震えていた。


「これ……返されても……どうしていいのかわかんないんだけど……」


「いいよ……捨てて……」


「捨ててって,この時計十五万円もしたし,リングだって安物じゃないんだぞ……」


「もう……私のじゃないから関係ないよ……新しい女にでもあげたら……」


「…………」


 二人の間に気まずい空気が流れた。