由香子の胸が締め付けられるように苦しくなり,自分でも驚くほど体が震えていた。節々が痛みだし,指先が激しく震えて全身から力が抜けた。これまで経験したことのないショックに,呼吸が正しくできなくなり,このまま死んでしまうんじゃないかと怖くなった。


「ね……ねえ。前に約束したよね……。あ,あの……お互いに……もし好きな人が……他にできても……浮気だけは絶対にしないって……私達……付き合い長いし……裏切るような行為でだけは関係を終わらせないようにしようね……って……約束したよね……」


 由香子は震える声で,冗談であって欲しいと願った。息ができずに何度も深呼吸をしたが,頭が真っ白になるだけで息苦しさは増すだけだった。


「あ,あの……もし冗談だったら……早く言ってね……。まだ,私……今だったら許してあげられるから……」


「ごめん……」


「あ,あの……私……どこが悪かったの? 悪かったとこがあれば,なおすから……」


「ごめん……もう他に好きな人ができちゃったんだ……」


「あ……あの……。私に……もう一度……チャンスもらえない? ぜ……絶対に……頑張るから……ちゃんとやるから……」


 電話の向こうで優が黙っているのが辛かった。


「ごめん……」


「ねぇ……どうすればいいの? 私……優と結婚まで考えていたのに……」


「…………」


「私……絶対にやり直せる自信あるから……ねぇ……私,頑張るから……もう一度チャンスが欲しいの……」


「ごめん……無理だよ……もう……」


 由香子の全身が激しく震えていたが,不思議と涙は出なかった。頭が割れるように痛み,どこを見ても焦点が合わなくなっていた。空気が肺まで届かないのか,呼吸が浅くなり目の前が霞んで見えた。


「で,でも……どうしてあんなに二人で決めたのに……約束したのに……なんで……なんで裏切ったの……?」