「ほら,由香子は平日はいつも遅くまで働いてるし,週末だって出張とか休日出勤とか忙しいことが多いじゃん……」


「そうだけど,その代わり会えるときは時間を無駄にしないように頑張ってるじゃん……優だって仕事の後に陸上の練習で遅いし」


「お前の頑張ってるって,朝からディズニーシーに行ったり,夜景の綺麗なレストランで食事をしたり,マニュアル本に載ってるような場所に行くだけじゃん……。俺はもっと一緒にのんびり寛いだり,ゆっくり映画を観たり,リラックスしたいんだよ……それにもう随分とレスだし……」


 優の言葉に刺があった。由香子は自分が精一杯頑張っていることを否定されたみたいで,どうしたらよいのかわからなかった。


「それにお前,映画を観るって言っても,六本木ヒルズでチケットを予約してから行かないと嫌がるし,食事だって高級な店ばかり行きたがるじゃん……。星がいくつだの,評価が何点だのってさ……」


「だって……せっかくだから,優と一緒に美味しいレストランに行きたいじゃん……」


「なんで一緒にのんびり寛げないの……? 一緒に駅前でラーメン食ったっていいじゃん」


 由香子にとって優と一緒にいるときは楽しむ時間であって,のんびり寛ぐのは毎日のお風呂と寝る時だけで十分だと感じていた。

 しかし優に言われたことは,由香子の価値観を否定しているとしか思えず辛かった。


「だって……せっかく一緒にいるんだから,もったいないじゃん……」


「俺は2人だけで,のんびり一緒に過ごしたいって言ってるんだけど……」


「…………」


 どう応えてよいのかわからず,黙ったままなにもいい返せなかった。優もそれ以上なにも言わず,黙ってしまった。

 空気が重く,いままでこんな時間を過ごしたことがなく,どうしてよいのかわからなかった。