軋む骨の音

 人混みのなかで雑談をしながら,寂しそうな顔をする集団があった。彼らは手に花を持ち,六年前にこの交差点で同僚が交通事故で命を落としたことをいまでも気にして,命日になると花を供えるために集まった。

 当時の彼女を知る同僚は,部署にも片手で数えられる程度しか残っていなかった。それでも,四十九日,一周忌,三回忌には集まってこのガードレールに花を供えた。


「もう……七回忌になるな……。ちょうど六年前ってことか……。由香子は幸せになると思ってたんだけどな……」


 彼らはガードレールに花を固定すると,何度か花の向きとバランスを確認し、静かに手を合わせてその場を去った。

 近隣の商業ビルに入るテナントはこの交差点近くに花が供えられるのを知っていたので何も言わなかったが,度々花が供えられるのを見て,あまりよい反応をしなかった。

 何人がこの交差点で交通事故の犠牲になっているのかはわからなかったが,こうやって定期的に花が新しくなるのは誰もが知っていた。

 やがてこの交差点では,事故で命を失った若い女性が度々現れて,カップルの後ろを恐ろしい形相でぺったりとくっ付いて歩くとの噂が広まった。その女性の霊を見たという話がネットで溢れ,ちょっとした心霊スポットとして有名になっていた。

 そんな噂を耳にした元同僚たちも心苦しさと,なんともいえない罪悪感のようなものから解放されたく花を供え続けていたが,七回忌の今回を最後にしようと話し合っていた。

 そしてその日も,由香子は交差点の近くを徘徊し,優とよく似た背格好の男とその彼女を見つけると,憎しみを込めて後をつけた。

 その姿は誰にも気付かれることも,由香子自身が自覚することもなく,繰り返されていた。



なんで……私を裏切ったの……あんなに約束したじゃない……


裏切らないって言ったのに……