うっ……………………

うっ……………………

うっ……………………

うっ……………………


 頭の中で何かが,微かな声が聞こえたような気がした。振り向いてみても誰も由香子を見てもおらず,行き交う人々は由香子をまるで障害物を避けるように流れていた。

 立ち止まって困惑していると,人混みのなかで由香子の頭の中に直接,誰がか……というよりも,なにかが語りかけてきたように思えた。

 声になっていない微かな声が誰のものか,どのから聞こえてくるのかわからず辺りを見回した。


うぁっ……………………

うぁっ……………………

うぁっ……………………


 目の前の二人は相変わらず適度な距離を保ちながら,誰が見てもカップルだとわかる距離のまま歩いていた。呼吸ができず一歩も歩けないでいると,目の前が真っ白になり,すぐに由香子との距離が開き二人の背中が小さくなった。

 得体の知れない気持ち悪さを堪えながら,必死に見失わないように歩き始めた。しばらくして二人が交差点で立ち止まると,突然,由香子の頭の中で悲鳴なような,絶叫のような禍々しい声が響き渡った。


ヴガァァァァァ……ヴァ……ヴガァァァァ……


 あまりに突然のことに驚いて頭を抱え,すぐに両手で耳を塞ぐようにしてしゃがみこんだ。どうしたらよいのかわからず,かといって言葉も出ず,ただただしゃがみこんで耳を塞いだ。

 なにもできないまましゃがみ込み,ただただ悲鳴のよう絶叫が頭の中で響き渡った。


「なに……これ……? 怖いよ……怖い……助けて……助け…て……」


 耳を塞いだまま,固く目を閉じて助けを求めた。通行人は誰も由香子に声をかけようともせず,うずくまる姿を横目に通り過ぎていった。


「誰か……お願い……助けて……助けて……」


「なに……ねぇ……怖いよ……なんなの………」