あれから五年,由香子は仕事中心の生活を送っていた。誰とも付き合うこともなく,呑み会があってもほとんど酒を呑まず,人とかかわること避けた。

 酔って優とのことを思い出すのも,他の男に言い寄られるのも嫌だった。年齢のことや,彼氏がいないことを必要に聞かれ,やたらと口説いてくる男がいると死ねばいいのにと本気で思った。

 あの日以来,優とは一切連絡を取らなかったので,彼が今何をしているのかはわからなかった。ただ,それでも毎晩のように夢の中で優に会っていた。夢の中の優は誰よりも優しく誰よりも大切にしてくれた。

 そんな日々を送っていたある日,偶然街で優が女性と一緒に歩いているのを目撃した。何度か街で優に似た雰囲気の男性を見て驚いたことはあったが,いま目の前を歩いているのは由香子がよく知る優だった。

 見覚えのあるジャケットは五年以上前から着ているし,少し痩せたように見えたが髪型もほとんど変わっていなかった。

 唯一由香子が知らないのが、優と一緒に歩いている女性だった。

 由香子は激しく鳴り続ける胸の高鳴りに我慢ができず,距離をとって優の後をつけた。

 優の変わらない歩き方が昔を思い出させた。陸上に役立つからと,普段からつま先に重心をおいた独特な歩き方をしていた。

 二人の楽しそうに歩く姿を見て,かつて優に言われた「もっと一緒にのんびり寛いだり,ゆっくり映画を観たり,リラックスしたいんだよ……」という言葉が何度も頭の中で繰り返された。それくらい優の笑顔は自然で,自分と一緒にいたときに見た記憶がないほど,気が抜けてリラックスしてるように思えた。


「なんなの……」


 由香子の足は速くなり,追いついてしまうのではないかと思えるほど二人に近づいて行った。