その後、湊家の特別警戒はすぐに中止となりました。しかも、ホームセキュリティも解約となったことで、最後に母親と会話した日から私は湊家に関わることはありませんでした。
会社としては支払いのよかった湊家との契約が解約となったのは痛手かと思いましたが、どうやらすぐに解約になってほっとしているようでした。
湊家については、現在別の警備会社がホームセキュリティを担当しているようで、今でも美智子はあの家で母親の思惑に操られながら、存在しない泥棒に怯えているそうです。
「高橋さん、湊家の件はあれでよかったんでしょうか?」
湊家の件が落ち着いた頃、私はそれとなく高橋さんに聞いてみました。
「さあな。所詮俺たちはただの警備会社だ。契約先のプライベートに口を挟む資格はない」
「でも、その割には結構首をつっこんでるように見えましたよ」
「ん? どういう意味だ?」
「いえ、プライベートに口を挟まないと言いながらも、湊家のことを調べてましたし、しかも誰にもわからないように隠しカメラを仕掛けたりと、高橋さん結構積極的だったと思いますけど?」
「ばか、あれは嘘に決まってるだろ」
「はい?」
「隠しカメラなんか仕掛けて、もしなにか映っていたら大変だろ」
さも迷惑そうな表情を浮かべた高橋さんが、とんでもないことを口にしました。
「じゃあ、あのとき言ってたのは――」
「そう、カマをかけたんだ。まあ状況からして母親が仕組んでいるのは間違いなかったからな。その裏付けさえ取れたら後は解約に持ち込めるから、母親に認めてもらいたかっただけだ」
当たり前のように説明する高橋さんに、私はしてやられたと思いました。母親との対面の場面で、顔色変えずに嘘をついた高橋さんはやはりただものではなかったようです。
「結局、全ては母親が描いだ絵図だったってことなんですね」
「そうだな。いや、そうとも限らないか……」
「どういうことです?」
「物が移動する現象は母親の仕業で間違いない。けどな、説明つかないこともある」
「説明つかないこと、ですか?」
「美智子は、『誰もいない家の中で誰かの気配を感じた』と言っていた。誰もいないというのは、母親が出かけている間のことだよな? だとすれば、誰も侵入できない家の中で美智子は誰の気配を感じていたんだ?」
ぽりぽりと頭をかきながら、高橋さんは誰に言うわけでなくどこか独り言のように呟きました。
「こういう案件はな、真相を知る前に離れたほうがいいんだ。長くつきあうとこっちにも影響が出るからな」
だから、高橋さんは真相を知るよりも契約が解約になるように動いていたと明かしました。そういうわけですから、会社は解約になったにも関わらずほっとしていたのでしょう。あのまま長く湊家と関わっていたら、なにかとんでもないことに巻き込まれるかもしれないと、会社や高橋さんは考えていたとのことでした。
いかがだったでしょうか? 以上が私の体験した全てとなります。結局、事件の真相そのものについては今も高橋さんが触れようとしないためわかりません。湊家の家で起きた現象の真実については、今後もあきらかになることはないと思います。
私としては、本当に恐ろしいのは欲に目が眩んだ人間ではないかと思っていました。しかし、高橋さんや会社にしたら、あの母親以上に怖いなにかがあったということなのでしょう。
それがなにを意味するのかは、ぜひみなさんにも考えていただけたらと思います。
さて、これを書き上げたのは深夜も深夜、世間では丑三つ時になります。全てが寝静まる時間帯だというのに、今日も誰かの気配を背中に感じ、吐息を首すじに感じます。
これも、湊家の件が気になって体験したことを書いてしまったからでしょうか。もしかしたら、高橋さんが言っていたとおり、長く関わったせいで影響が出ているのかもしれません。
ですから、みなさんも謎解きはほどほどにお願いします。
でなければ、私のように毎夜苦しむことになりかねませんから――。
〜了〜
会社としては支払いのよかった湊家との契約が解約となったのは痛手かと思いましたが、どうやらすぐに解約になってほっとしているようでした。
湊家については、現在別の警備会社がホームセキュリティを担当しているようで、今でも美智子はあの家で母親の思惑に操られながら、存在しない泥棒に怯えているそうです。
「高橋さん、湊家の件はあれでよかったんでしょうか?」
湊家の件が落ち着いた頃、私はそれとなく高橋さんに聞いてみました。
「さあな。所詮俺たちはただの警備会社だ。契約先のプライベートに口を挟む資格はない」
「でも、その割には結構首をつっこんでるように見えましたよ」
「ん? どういう意味だ?」
「いえ、プライベートに口を挟まないと言いながらも、湊家のことを調べてましたし、しかも誰にもわからないように隠しカメラを仕掛けたりと、高橋さん結構積極的だったと思いますけど?」
「ばか、あれは嘘に決まってるだろ」
「はい?」
「隠しカメラなんか仕掛けて、もしなにか映っていたら大変だろ」
さも迷惑そうな表情を浮かべた高橋さんが、とんでもないことを口にしました。
「じゃあ、あのとき言ってたのは――」
「そう、カマをかけたんだ。まあ状況からして母親が仕組んでいるのは間違いなかったからな。その裏付けさえ取れたら後は解約に持ち込めるから、母親に認めてもらいたかっただけだ」
当たり前のように説明する高橋さんに、私はしてやられたと思いました。母親との対面の場面で、顔色変えずに嘘をついた高橋さんはやはりただものではなかったようです。
「結局、全ては母親が描いだ絵図だったってことなんですね」
「そうだな。いや、そうとも限らないか……」
「どういうことです?」
「物が移動する現象は母親の仕業で間違いない。けどな、説明つかないこともある」
「説明つかないこと、ですか?」
「美智子は、『誰もいない家の中で誰かの気配を感じた』と言っていた。誰もいないというのは、母親が出かけている間のことだよな? だとすれば、誰も侵入できない家の中で美智子は誰の気配を感じていたんだ?」
ぽりぽりと頭をかきながら、高橋さんは誰に言うわけでなくどこか独り言のように呟きました。
「こういう案件はな、真相を知る前に離れたほうがいいんだ。長くつきあうとこっちにも影響が出るからな」
だから、高橋さんは真相を知るよりも契約が解約になるように動いていたと明かしました。そういうわけですから、会社は解約になったにも関わらずほっとしていたのでしょう。あのまま長く湊家と関わっていたら、なにかとんでもないことに巻き込まれるかもしれないと、会社や高橋さんは考えていたとのことでした。
いかがだったでしょうか? 以上が私の体験した全てとなります。結局、事件の真相そのものについては今も高橋さんが触れようとしないためわかりません。湊家の家で起きた現象の真実については、今後もあきらかになることはないと思います。
私としては、本当に恐ろしいのは欲に目が眩んだ人間ではないかと思っていました。しかし、高橋さんや会社にしたら、あの母親以上に怖いなにかがあったということなのでしょう。
それがなにを意味するのかは、ぜひみなさんにも考えていただけたらと思います。
さて、これを書き上げたのは深夜も深夜、世間では丑三つ時になります。全てが寝静まる時間帯だというのに、今日も誰かの気配を背中に感じ、吐息を首すじに感じます。
これも、湊家の件が気になって体験したことを書いてしまったからでしょうか。もしかしたら、高橋さんが言っていたとおり、長く関わったせいで影響が出ているのかもしれません。
ですから、みなさんも謎解きはほどほどにお願いします。
でなければ、私のように毎夜苦しむことになりかねませんから――。
〜了〜



