以下は、当時その住宅街に住んでいたAさん(仮名)の証言を基に構成しています。Aさんは20代の女性で、家族とともに一軒家で暮らしていました。

「毎晩、深夜2時になるとヒールの足音が家の前を通り過ぎるのが聞こえるんです。普段は寝ているので気づかないこともあるんですが、不思議とその時間に目が覚めると必ず耳に入ってくるんです。しかも、足音がうちの玄関の前で必ず数秒間立ち止まるんですよ。最初は怖くて玄関を見に行く勇気なんてありませんでした」

Aさんが住む住宅街は古くからある閑静な地域でした。夜はひっそりとして人通りもなく、昼間でもその静けさに不気味さを覚えるほどだと言います。

彼女は次第にその足音に怯えるようになりますが、同時に奇妙なことに気づきます。

「その足音が立ち止まる時間が、だんだん長くなっている気がしたんです。そしてある晩、ついに足音が玄関の前で完全に止まりました。そのとき、ドアをノックする音が聞こえてきたんです」

ノックの音の後、Aさんは耳を澄ませます。すると――。

「ドア越しに、低い声が囁いているのが聞こえました。しかも一人の声じゃない。何人もの声が重なっているような感じでした。『この家に、若い娘さんは、いませんか…』って囁いているんです。その瞬間、全身が凍りつきました」