――撮影終了。
 お疲れ様、もう大丈夫だよ。

「やったー! もうヘトヘトっすよ……演技って大変すね」

 まあね。
 特に今回は長回しのシーンが多かったし。
 なるべくNGを出さないように注意したけど、それでも結構時間がかかったね。

「大内さん、普段からこういうの撮ってるんすか?」

 いや、よくあるドラマとか映画の依頼が多いよ。
 今回は趣味を全開にした感じだね。
 ●●君、付き合ってくれてありがとう。
 サイコパス役、迫真の演技ですごく良かった。

「へへっ、昔は役者志望だったんで。お役に立ててよかったす。というか、まだカメラ撮ってません?」

 ああ、これ?
 メイキング動画みたいなものさ。
 せっかくだから残しておこうと思ってね。

「なるほどっす。それにしても面白いアイデアすね。殺人鬼の日常をノンフィクションみたいに撮るなんて」

 モキュメンタリーとかフェイク・ドキュメンタリーと呼ばれるジャンルだね。
 最近は特に人気だよ。
 せっかくだから流行りに便乗したくてさ。

「売れるといいっすね。ちなみに動画はどこのサイトで見れるんすか?」

 実はまだ検討中なんだ。
 色々迷って決め切れなくてね。

 ところで●●君。
 ちょっとこっちに来てくれるかな。
 見せたいものがあるんだ。

「はいはい、何すかね……痛っ!?」

 ほら、動いたら危ないよ。
 ちゃんとまっすぐ立たないと。

「あの……大内さん? ほ、包丁が……刺さってるんすけど……嘘です、よね……」

 どっちだと思う?
 現実逃避するのも結構。
 君は信じたいことを信じればいい。

 私は好きに生きたいだけなんだ。
 窮屈な現代社会が肌に合わなくてさ。
 楽しいから拷問するし、人を殺すし、スナッフフィルムを撮る。

 付き合いの浅い君は知らなかったろうけどね。
 私はずっと、こういう人間だよ。
 とうとう我慢できなくなったから、自分の本性を肯定することにしたんだ。

「うぎゃっ、やめ、てっ! 大内さんっ!? いだだだだだだっ」

 前向きになると心が軽くなる。
 濁り切っていた視界が急に晴れて明るくなるんだ。
 昔、パワハラ上司を始末した時は最高だったな。
 生まれ変わったと言っても過言ではない気分だった。

「だ、だれか……たす、けて……」

 撮影中に登場したエキストラは、道端でスカウトした素人だよ。
 謝礼を渡して顔出しNGの条件だと簡単に承諾するんだ。
 安心して、彼らは殺していないから。
 ニュースで●●君の顔を見たら驚くだろうね。

「うっ、ああぁ……」

 さて。
 もう虫の息だし、終わらせようか。
 ●●君だって楽になりたいよね。

「い……や……だ……しに、た、くな……い……」

 ははは、わがままだね。
 残念だけど君はもう助からない。
 それにこんな状態じゃ、たとえ生き延びても苦しいだけだよ。

 君には本当に感謝している。
 おかげで良い映像を撮ることができた。
 恨むなら己の不運を恨むといい。
 じゃあ、さようなら。



◆◆◆



 以上が被害者の●●さんの最期を記録した映像です。
 大内の自宅には、他にも数十人分の殺人動画が保管されていました。
 現在、大内の行方は分かっていません。
 皆様の情報提供を求めます。