「ふう、無事に顧客情報を吐いてくれてよかったねー。割と粘るからびっくりしたよ」

 そうですね。
 普段はもっと簡単に吐かせられるのですか?

「だいたい一時間もあればいけるよね。まさか夜までかかるなんて思わなかったな」

 終盤は死なせないように調整するのが大変そうでした。
 あちこちの断面から出血していたので……。

「そうそう! 大内さんが止血を手伝ってくれなかったらアウトだったかも。ありがとね」

 いえいえ、お役に立てて光栄です。
 ちなみに●●さん、もうカメラ回ってます。
 このシーンがラストです。

「あれ、もう終わり? あっという間だったね。他にも楽しそうなことがあるけどいいの?」

 ちょっと気になるのですが、尺がちょうどいいので区切ります。
 今回がもし好評なら第二弾をやるので、またその時に色々見せてください。

「はいはーい。人気が出るといいね」

 私は絶対いけると思いますよ。
 現役のサイコキラーの日常に密着するなんて前代未聞ですからね。
 企画を通すのは大変でしたが、始動すれば必ずウケると確信していました。

「実際に撮ってみた感想は?」

 予想は間違っていませんでした。
 それどころか見込み以上の人気も夢ではないと思っています。
 これもすべて●●さんのおかげです。
 ありがとうございました。

「こちらこそ楽しかったよー。あっ、チキン食べる? さっきのコンビニで買ってきたんだけど」

 ……ちなみに確認ですが、人肉ではないですよね。
 さすがにカニバリズムは遠慮したいというか。

「あはは、大丈夫だって。正真正銘、ただのチキンだから。そんなに気になるなら先に食べようか?」

 いえ、疑ってすみません。
 ありがたくいただきますね。

「まあ、それくらい警戒心が強い方が良いと思うけどね。世の中の人ってなんか無防備すぎるし」

 それは殺人の標的として考えた場合の話ですか?

「うん。自分だけは平穏に生きていけるって無意識に考えてるよね。その認識でいるから隙だらけなんだよ」

 なるほど。
 ●●さんが仰ると説得力が違いますね。
 逆に殺人の標的になりにくい人にはどんな特徴がありますか。

「それはもちろん大内さんみたいに警戒心が強いタイプだよね。あと人の言葉を素直に信じないとか、他人との間に壁を作る人はやりにくいかなー」

 まとめて用心深いということですかね。
 とても参考になります。

 では大変名残惜しいのですが、今回の撮影はここで終わろうと思います。
 ●●さん、本日はありがとうございました。

「いえいえ、またいつでも来てね。歓迎するよ」

 恐縮です。
 それではテレビの前の皆さんもここまでご視聴下さりありがとうございました。
 第二弾があればそちらでお会いしましょう。

「あっ、ちょっと待って。大事なこと忘れてた」

 何でしょう?
 ●●さんも視聴者に何かコメントしますか。

「そうじゃなくて、この取材が始まる前に決めてたことがあるんだ。最後にサイコキラーっぽいことをしたくてさー」

 あの、●●さん?
 どうして斧を持っているのですか。
 危ないから置いてください。

「——ねえ、大内さん。カメラマンが殺されて終わる番組って面白くない?」

 いや落ち着きましょう。
 とにかく話し合って、そんなエンディングは望んでませんからっ。
 だめですよ、●●さん!
 お願いですからやめてくださいっ!

「アハッ、命乞いされると興奮するなあ。ごめんね、もう止められないや」

 そんな……!
 ●●さん、助けてください!

 うわっ。



 しにたくな