……よし。
 撮影再開しました。
 引き続きよろしくお願いします。

「あっ、カメラ止めてたんだ。食事シーンはいらないの?」

 お店に許可を取らないといけませんからね。
 他のお客さんが映りそうなのもあってやめておきました。

「頑張って食レポとかしたのになぁ……」

 ああ、あれって食レポだったんですね。
 すごく丁寧に感想を教えてくれると思っていました。

「そりゃテレビだからね。多少は気遣うよ」

 ありがとうございます。
 ですが撮影についてはあまり気にしなくていいですよ。
 こちらは●●さんのリアルな日常を知りたいので。

「でもさー、気にしないって難しくない?」

 それは分かります。
 まあ、そのうち慣れると思うので細かいことは一旦置いておきましょう。
 この後の予定はなんですか?

「あー、そろそろ人を殺したいね」

 なるほど。
 標的は決めてあるのですか?

「あそこのカップルとかちょうどよさそうだよね」

 カップル……自動販売機の前にいる二人ですね。
 何か選定の基準はあるのですか?

「幸せそうな奴を狙うことが多いかな。台無しにしたくなるんだよね。ちょっと殺してくるから撮っててよ」

 分かりました。
 ご健闘を祈ります。

 えっと、●●さんが標的のカップルに近づいていきます。
 人通りの少ない公園なので、犯行を目撃される心配は少ないですね。
 ただ、悲鳴を上げられたら騒ぎになりそうです。
 どうやって仕留めるのでしょうか……。

 ●●さんがカップルに話しかけました。
 スマホを見せながら何か尋ねていますね。
 おそらく道を訊いているようです。
 彼氏さんが身振り手振りを加えて説明してくれています。
 彼女さんは暇そうにしていますね。

 あっ。
 ●●さんが彼氏さんのお腹を何度も刺しています。
 ナイフ、ナイフです。
 ポケットに隠し持っていました。
 彼氏さんは苦しそうな顔です。

 彼女さんが驚いてますね。
 叫ぼうとした瞬間、喉を切り裂かれてしまいました。
 そのまま血だらけで倒れています。

 カップルは動きません。
 二人とも死んだのでしょうか。
 ここからでは確認できませんが、致命傷なのは間違いないですね。

 ●●さんがこっちに戻ってきます。
 どこにも返り血が付いていませんね。
 上手く避けながらナイフを使ったみたいです。

「ただいまー。しっかり撮れた?」

 はい、ばっちりと。
 死体は放置していいんですか?

「うん。いちいち処理すんの面倒くさいし」

 その辺りは大雑把な感じなんですね。
 証拠を残したら警察に捕まりそうですが……。

「心配しなくても大丈夫だって! いざとなったら逃げればいいからねえ。本気で隠れれれば意外と見つからないもんだよ」

 そうなんですね。
 とりあえずメインになるシーンが撮れました。
 ご協力に感謝します。

「どういたしまして! 次も迫力満点だから楽しみにしててねっ!」

 何から何まで助かります。
 では一度、カメラを止めますね。
 移動後に再開しましょうか。