花雪りんごとミルキーの、試験期間。たった一週間の物語。脳内に直接りんごの絶望が叩き込まれるような特殊な映像は、上映時間にして数分だっただろう。
運営側も最終的に回収したエネルギー量だけでなく、こうして期間中の魔法少女の絶望を検知して試験結果に反映させているのだろうか。
そんなどこまでも事務的に、短時間で凝縮された絶望に、ボクは吐き気を催した。
「……」
こんなこと、やっぱり間違っている。
憧れや夢は既に歪んだ現実に汚された。そのショックを乗り越えてまで、誰かを不幸にしてまで、叶えたいとは思わない。
けれど、知ってしまった。不幸が約束された魔法少女たちの存在。それを当たり前とした同胞たちや世界の認識。
この常識を壊せるのは、そして魔法少女たちを救えるのは、きっと間違いを間違いと理解して立ち向かおうとするボクしか居ない。
まずはボクのパートナーの少女、桜樹いちご。彼女を守り抜こう。
それから、アポロをはじめとした他の受験者たち、そのパートナーも。ボクに出来る限り救おう。
アポロの話のように、他の受験者から妨害を受けるかもしれない。いっそ己の破壊衝動を正当化するために悪意をもって試験に参加するやつも居るかもしれない。魔法少女の中にも、同じように手段を選ばない子が居るかもしれない。
それでも、ボクがやるしかないのだ。
深呼吸して、覚悟を決めたボクは人間界へのゲートをくぐる。
血の雫のような赤いそれは、ボクをパートナーのもとへ迷わず導いた。
荒れ果てた暗い室内。蹲る怪我をした長い髪の少女。彼女はボクに気づき、驚きの声をあげる。
「……あなた、だれ?」
「ボクはメルティー。桜樹いちごちゃん。ボクが必ずきみを救うから……魔法少女にならない?」
「魔法少女……?」
いちごちゃんは驚きながらも、ボクを信じて差し出した手を取ってくれる。
出発前に見たりんごたちの映像を思い出し、思わず握る手に力が籠る。
「わたしを、助けてくれるの……?」
「うん……約束する」
触れた確かな温もりと、浮かぶボクを神様か何かのように見上げるまっすぐな瞳。きっと他の魔法少女たちも、同じなのだろう。それが食い物にされるなんて微塵も思わずに、願いが叶うという希望を抱く。
そんな彼女をこれから絶望の纏わりつく運命に巻き込んでしまう罪悪感。それを必ず守りきるという誓いに変えて。ボクは彼女と、魔法少女の契約を交わした。