あら、刑事さん。お勤めご苦労様です。

小林さんとこのご夫人、まだ見つかっていないの?……そう……。よほど煮詰まっていたのかしら。

ほら、なんとかっていう人気の小説家さんだっていうじゃない? 人気ゆえの苦労もきっとあるわよね。

わたしの息子もね、読んでいるのよ。異世界? とかなんとかそういうの。ラノベっていうんだったかしら。最近人気なのよね?わたし全然知らなくって。

もっとちゃんとした本を読んだほうがいいと思うんですけれどね。あんな幼稚なものではなくて。

あのご夫人も、なんだか少し、子どものように感じるときがあったのよねえ。え?ああいや、たいしたことではないのだけれど……。

公園にいる子どもと話しているところをたまたま見かけたのよ。ちょうどうちの子もいたから、あとで何を話していたのか聞いてみたの。そしたら……異世界はきっとある、と繰り返し言っていたみたいで。

はあ、ぞっとする。まるで子どもに洗脳しているみたいでしょう?

子どもってなんでも信じてしまうじゃないですか。信じたいものを、そうだと信じて疑わない。本当に怖いですよね。

うちの子、一時期ずっと、ぼくも異世界でヒーローになるんだ!って言っていたんですよ。今でもそういう話の本ばかり読んで……。

その話を聞いてから、あのお宅とかあまり関わらないようにしていたんです。でも、行方不明となると、やっぱり心配ですね。早く見つかってほしいです。うちの子のためにも。

いやあね、うちの子、恥ずかしながら、逆にはしゃいじゃってるんですよ。本当に異世界転生したんだよ! って。バカですよねえ、ほんと。そんなこと言ってないで勉強しなさいっていつも叱ってばかりで。

だから早く現実を知ってほしいですね。


――あ、あらぁ、美波(ミナ)ちゃん。こんにちはぁ。学校から帰ってきたの?おうち大変なのにえらいわねえ。

……ん?なあに?刑事さんと何を話していたのかって?それは……もちろん、美波ちゃんの、お母さんの話よ。

きっともうすぐ帰ってくるわ。ほら、お母さんがいつでも「ただいま」って言いやすいように、美波ちゃんおうちにいてあげて?