何も見えない分厚い目隠しの下で目を見開き,何度も瞬きを繰り返した。それがどれほど無意味なことかを理解しているが,自分の意思で動かせる数少ない場所を動かすことで,得体の知れないなにかに抵抗している気分になれた。

 目蓋が目隠しに擦れるたびに,睫毛が抜け,皮が擦りむけるのがわかった。目隠しで締め付けられた革製のベルトが耳のすぐ上で擦れて出血しているのを感じた。

 真っ暗闇でなにも見えないはずが,瞬きを繰り返すことで目の奥のほうで小さな優しい光が点滅した。最初は小さく,ふわふわした柔らかい優しさを感じる光だったが擦り切れる目蓋の痛みが増すたびに暴力的な激しい光へと変わり脳みそを焼き焦がした。

 痛みに耐えきれずに目蓋を閉じると,ゆっくりと点滅する光のなかに小さな小さな手が見えた。小さな手は握り締めては開き,まるでなにかを掴もうとしているようにも見えた。

 繰り返し閉じたり開いたりしている小さな手を見つめているうちに,その動きから自分になにかを伝えようとしているかのように思えた。それがなにかはわからないが,懐かしさを感じる小さな手を凝視して,自分になにを伝えようとしているのか必死に考えた。

 小さな手はゆっくりと成長しながら,不器用に手を広げた。目の前で大きく広がる柔らかそうな優しい手は神秘的で決して汚してはいけないように思えた。

 その手は誰かを求めるかのように目の前で優しく開いて,まるで握りしめて欲しいと言っているかのように見えた。何度も目の前で繊細で美しい指先がゆっくりと閉じては開き,開いては閉じた。