ーー私は嘘はつきませんーー心の浮気は絶対にしませんーー常に本気ですーーこれまでもーーこれからもーーずっとーーずっとーー
軋むベッドの上で男の身体をきつく抱き寄せ,汗ばんだ肌を密着させたままお互いの唇を重ねた。
不潔な男の体臭と煙草の臭いが鼻についたが,それ以上に部屋は汚れ,もし明るい時間にベッドを見たら誰もがそこに横になることを拒むほど茶色く変色していた。
こうして暗い部屋なかで見知らぬ男に抱かれている間だけは嫌なことを忘れられるような気がして,毎晩のように名前も素性もわからぬ初対面の男の性を無条件に受け入れた。
若すぎた愛といえば耳障りがよいが,かつて一緒になることを夢見て誓い合った男の声はもう聞こえない。
何度も一緒になろうと誓い合い,二人でたくさんの夢を語ったはずが,いまはその夢を思い出すと心の奥底がひどく傷つくだけになってしまった。
何度も「愛してる」って言ってくれたあの唇の感触はもはや思い出せず,何度も「愛してる?」と聞いた自分の口は何人もの男たちに汚された。
愛する男に教えられたのは身体的な痛みだけでなく,拘束されて身体の自由を奪われることに快楽を感じるようになったのはいつからだったかわからない。
そして独りになり,いつの間にか知らない男にきつく拘束されることに喜びを覚えた。
あれだけ激しく,あなたとの愛なしでは生きてゆけないと誓ったはずなのに,もはやその記憶さえ曖昧になっていた。
腐った落葉に埋もれて雨に濡れた段ボール箱のような臭いのする暗い部屋で,知らない男に抱かれながらきつく目を閉じた。
こうして知らない男に抱かれている間だけでも,かつて一人の男を愛して夢を語った自分が存在したことを忘れぬようにと何度も心の中で「あなただけを愛してる」と呟いた。
ーー何度も言いますがーー私は絶対に浮気はしませんーーするときは本気ですーー
愛を誓った男がいるにもかかわらず,たった一度の過ちを犯してしまったことですべてを失った。
愛されていると思い込み,多少のことは許されると甘えていた自分がいた。酒のせいとはいえ,愛する男を試して裏切った代償は大きかった。
そしていま,何もかもから逃れるようにして辿り着いたこの薄暗い部屋の片隅に置かれた小さな箱には,かつて愛した男が小さく折り畳まれて収められている。
ーーすみませんでしたーー試すようなことをしてーー許してくださいーーもう二度とあのようなことはいたしませんーーお酒も飲みませんーー私は嘘はつきませんーー捨てないでくださいーー
滑り落ちるようにしてベッドから出ると,汗ばんだ身体からベッドで仰向けになっている疲れた中年男と同じ異臭を発した。
さっきまで自分の上に乗って腰を振っていた名前も知らない男がベッドに横たわっていたが,自分が隣にいないことは男にとって,もう関係なかった。
素足で歩くには危険な床を這って部屋の片隅に移動すると,愛する男が収められた小さな箱を抱き抱えた。
ーーあなただけを愛していますーー
愛する男に何度も殴られて折られた細い腕で小さな箱を抱きしめると,箱に装飾された冷たい金具に唇を重ねて仔猫のような鳴き声で「あなただけを愛してる」と呟いた。
ーー身体なんてただの器ーー心こそがすべてーー
ベッドの上では,さっきまで自分の傷だらけの手足を縛っていた縄を首にきつく巻き付けて,真っ白になった知らない男が横たわっていた。
ーー私が愛しているのはあなただけですーー本気なのはあなただけですーーだからこれからもずっと一緒にいてくださいーーお願いしますーーなんでもしますー一生懸命やるからーーこれからもーーお願いーーお願いしますーーどうかよろしくお願いしますーー
小さな箱を優しく抱き抱え,何度も折られて歪んだ指をそっと這わせて箱に耳を当てると,箱の角から脂っぽい汁が垂れた。
真っ黒い汁が指先を伝って肘まで垂れて来ると,突然人が変わったかのように箱を睨みつけ明らかに表情を変えて箱を叩いた。
ーーねぇーーこんなに愛してるって言ってるのに,どうして応えてくれないの?ーー無視したあなたが悪いのよーーねぇーー私の心を無視をするからいけないのよーー私は一度だって嘘はついてないのにーーこんなにこんなに愛してるのにーー
不機嫌な様子で立ち上がり,乱暴に部屋の片隅に箱を置くと,小蝿が飛び交う汚物の臭いが充満する部屋の中で,床一面に拡がる縄が巻きつけられた大勢の男たちの遺体を踏み付けた。
ーー心から愛してるのはあなただけーーこれらかも,ずっとずっとーー私があなたのお世話をしてあげるからーーこれからもずっとーー永遠に心の底からあなただけを愛してるーー私が行くまで待っていてーー
床に転がる何人もの男たちの遺体を踏みつけ乱暴に扱うと,月あかりが差し込む窓際で手を合わせた。
「わたしを捨てないで。これからも尽くすから。これからも一生懸命頑張るから。私が愛する唯一の男のところへ堕ちてゆくまで側にいてほしい。私は一人じゃいられないの。これからも,よろしくお願いします。お願いします。お願いします。私がそっちに行くまで待っていて欲しいの」
軋むベッドの上で男の身体をきつく抱き寄せ,汗ばんだ肌を密着させたままお互いの唇を重ねた。
不潔な男の体臭と煙草の臭いが鼻についたが,それ以上に部屋は汚れ,もし明るい時間にベッドを見たら誰もがそこに横になることを拒むほど茶色く変色していた。
こうして暗い部屋なかで見知らぬ男に抱かれている間だけは嫌なことを忘れられるような気がして,毎晩のように名前も素性もわからぬ初対面の男の性を無条件に受け入れた。
若すぎた愛といえば耳障りがよいが,かつて一緒になることを夢見て誓い合った男の声はもう聞こえない。
何度も一緒になろうと誓い合い,二人でたくさんの夢を語ったはずが,いまはその夢を思い出すと心の奥底がひどく傷つくだけになってしまった。
何度も「愛してる」って言ってくれたあの唇の感触はもはや思い出せず,何度も「愛してる?」と聞いた自分の口は何人もの男たちに汚された。
愛する男に教えられたのは身体的な痛みだけでなく,拘束されて身体の自由を奪われることに快楽を感じるようになったのはいつからだったかわからない。
そして独りになり,いつの間にか知らない男にきつく拘束されることに喜びを覚えた。
あれだけ激しく,あなたとの愛なしでは生きてゆけないと誓ったはずなのに,もはやその記憶さえ曖昧になっていた。
腐った落葉に埋もれて雨に濡れた段ボール箱のような臭いのする暗い部屋で,知らない男に抱かれながらきつく目を閉じた。
こうして知らない男に抱かれている間だけでも,かつて一人の男を愛して夢を語った自分が存在したことを忘れぬようにと何度も心の中で「あなただけを愛してる」と呟いた。
ーー何度も言いますがーー私は絶対に浮気はしませんーーするときは本気ですーー
愛を誓った男がいるにもかかわらず,たった一度の過ちを犯してしまったことですべてを失った。
愛されていると思い込み,多少のことは許されると甘えていた自分がいた。酒のせいとはいえ,愛する男を試して裏切った代償は大きかった。
そしていま,何もかもから逃れるようにして辿り着いたこの薄暗い部屋の片隅に置かれた小さな箱には,かつて愛した男が小さく折り畳まれて収められている。
ーーすみませんでしたーー試すようなことをしてーー許してくださいーーもう二度とあのようなことはいたしませんーーお酒も飲みませんーー私は嘘はつきませんーー捨てないでくださいーー
滑り落ちるようにしてベッドから出ると,汗ばんだ身体からベッドで仰向けになっている疲れた中年男と同じ異臭を発した。
さっきまで自分の上に乗って腰を振っていた名前も知らない男がベッドに横たわっていたが,自分が隣にいないことは男にとって,もう関係なかった。
素足で歩くには危険な床を這って部屋の片隅に移動すると,愛する男が収められた小さな箱を抱き抱えた。
ーーあなただけを愛していますーー
愛する男に何度も殴られて折られた細い腕で小さな箱を抱きしめると,箱に装飾された冷たい金具に唇を重ねて仔猫のような鳴き声で「あなただけを愛してる」と呟いた。
ーー身体なんてただの器ーー心こそがすべてーー
ベッドの上では,さっきまで自分の傷だらけの手足を縛っていた縄を首にきつく巻き付けて,真っ白になった知らない男が横たわっていた。
ーー私が愛しているのはあなただけですーー本気なのはあなただけですーーだからこれからもずっと一緒にいてくださいーーお願いしますーーなんでもしますー一生懸命やるからーーこれからもーーお願いーーお願いしますーーどうかよろしくお願いしますーー
小さな箱を優しく抱き抱え,何度も折られて歪んだ指をそっと這わせて箱に耳を当てると,箱の角から脂っぽい汁が垂れた。
真っ黒い汁が指先を伝って肘まで垂れて来ると,突然人が変わったかのように箱を睨みつけ明らかに表情を変えて箱を叩いた。
ーーねぇーーこんなに愛してるって言ってるのに,どうして応えてくれないの?ーー無視したあなたが悪いのよーーねぇーー私の心を無視をするからいけないのよーー私は一度だって嘘はついてないのにーーこんなにこんなに愛してるのにーー
不機嫌な様子で立ち上がり,乱暴に部屋の片隅に箱を置くと,小蝿が飛び交う汚物の臭いが充満する部屋の中で,床一面に拡がる縄が巻きつけられた大勢の男たちの遺体を踏み付けた。
ーー心から愛してるのはあなただけーーこれらかも,ずっとずっとーー私があなたのお世話をしてあげるからーーこれからもずっとーー永遠に心の底からあなただけを愛してるーー私が行くまで待っていてーー
床に転がる何人もの男たちの遺体を踏みつけ乱暴に扱うと,月あかりが差し込む窓際で手を合わせた。
「わたしを捨てないで。これからも尽くすから。これからも一生懸命頑張るから。私が愛する唯一の男のところへ堕ちてゆくまで側にいてほしい。私は一人じゃいられないの。これからも,よろしくお願いします。お願いします。お願いします。私がそっちに行くまで待っていて欲しいの」



