空が薄暗くなると，私以外誰もいない公園の街灯に灯りがともった。このまま夜を迎える不安と恐怖が私を包み込んだとき，視界の端に黒いブーツが見えた。


「ねえ……大丈夫？　あなた，家出じゃないよね……？」


　突然声をかけられ驚いて顔を上げると，目の前に長い黒髪を片方に垂らし，全身タトゥだらけのガリガリの女が立っていた。


「え……あ，あの……」


「あのさぁ……二時間くらい前に犬の散歩をしていた女がこの公園を通ったんだけど，その女が公園に泣きそうな顔をした中学生くらいの女の子が一人でベンチに座ってたって言ってだんだよね。それで私が確認させられに来てんだけど」


「え……と，あ，あの……」


「で，あんた，家出少女なの？　全然荷物とか持ってないけど。単に失恋してベンチで泣いてるだけなら用はないんだけどさ」


　タトゥだらけの女は私を値踏みするかのように全身を何度も見ると，大きくため息をついた。


「あんたが家出少女だったら，あんたの居場所を提供してあげる。別に身体を使って稼げとか，薬漬けにして知らない男に抱かせたりとかはないから。ほら，私の見た目，タトゥとピアスだらけだし，いきなり声をかけてきてそんな印象あるでしょ？」


　私がなんて答えたのかは覚えていないが，気がついた時にはタトゥだらけの女に連れられて歩いていた。

　路地を抜けたところにあるマンションのエントランスに入った瞬間，歪んだ空気を感じまるで別世界に迷い込んだかのような錯覚に包まれた。