電車のアナウンスが東京に着いたことを知らせると,どこに行ったらよいのかわからないまま電車を降りて駅から吐き出されるように知らない街へと出た。

 人の多さに気持ちが悪くなったが,それよりも街の臭いが鼻につき吐き気を催した。


「どうしよう……どこに行けばいいんだろう……」


 人混みを避けるように歩き出し,無意識のうちに人の少ない道を選んで歩き続けた。まだ明るい時間だったので,どこを歩いても人とすれ違い,細い道路ですら車の通りが激しいことに恐怖を感じた。

 大人たちの視線を感じると隠れるように道を変えて歩き,気がついたときには大きな公園にたどり着いていた。公園の木々を見ると不思議と安心し,誰もいないベンチに腰掛けると風に吹かれて音を立てる葉が擦れ合う音が私を包み込んだ。


「お願い……誰か私を見つけて。私を助けて……誰か私を迎えにきて……」


 公園の端を犬を連れて散歩する若い女性と目が合った気がしたが,女性は何事もなかったように犬に引かれるように道路へと消えていった。

 私の不安を誰にも気づいてもらえない悲しさと,この後どうなってしまうのか想像もできない恐怖がゆっくりとオレンジ色に染まる空の下で膨れ上がっていった。


「もうやだ……なんで私ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの……私はなにも悪いことをしてないのに……誰か迎えにきてよ……」