これは一九九〇年代,アメリカ東部にあるバーモント州の小さなモーテルで実際にあった話。

 いくつもの大きな有名スキー場があるバーモント州は冬になるとウインタースポーツを楽しむ人で賑わいをみせるため,スキー場の近くには個人経営のモーテルが数多く存在した。

 ニューヨークやボストンからも日帰りで行ける場所のため,日帰りで楽しむ人も多くいるが,週末をモーテルで過ごすカップルや家族も多い。

 そんな小さな古い建物のモーテルの一室で,昔から少女のゴーストが現れるとネットでも有名な話があった。

 そのモーテルのある一室に泊まると,深夜遅く部屋の窓に人影が見えるという。幼い女の子の姿をしているときもあれば,思春期の少女のような姿のときもあるという。

 宿泊客がその人影に気付き黙って見ていると,少女は窓に手をかけて部屋に入りたそうにするそうだ。

 そのまま少女の影を見続けると,窓がカタカタと鳴り始め,小さな声が部屋のなかで微かに聞こえてくる。それでも黙って少女を見続けると,やがて声が頭のなかでハッキリと聞こえてくるらしい。

「ねぇ,お部屋に入れて。そこは私のお部屋なの。ねぇ,私のお部屋に入れて」

 既にネットでもよく知られている話であるため,この話を知っている宿泊客はそれでも黙って少女の言葉を聞いていると少女は悲しそうに訴えてくるという。

「ねぇ,お願い。私はジェニファー。私のお部屋に入りたいだけなの。お願いだからこの窓を開けてちょうだい」

 それでも黙って聞いていると,ジェニファーは必ず宿泊客に同じ質問をするそうだ。

「ねぇ,私はジェニファー。あなたのお名前はなんていうの?」

 ここで答えずに黙っていると,ジェニファーは消えてしまう。それはネットに動画がアップされているほど有名な話でもある。

 しかし,ここでジェニファーに名前を答えた宿泊客がどうなったかは,ネットのどの書き込みをみても見つからない。それが気になってこのモーテルに宿泊する客もいるのだが,何年経ってもジェニファーに名前を名乗った宿泊客がどうなったのかは誰も知らないし動画も残っていない。

 唯一,名前を答えた宿泊客がその後どうなったかを知っていそうなモーテルのオーナーは,宿泊客にこの質問をされると決まって同じことを答えるそうだ。

「そもそもジェニファーなんて名前の少女は存在しないんだよ。いったい君たちは誰と話しているんだい?」