次の文章は、登山愛好家を対象としたSNSに掲載されていた活動記録である。そのSNSでは、スマートフォンのGPSを用いて登山中の軌跡を地形図に残せる他、撮影した写真の投稿、全体を総括した文章を活動記録という形で残すことが出来る。ユーザーによって投稿に対する熱量には差があり、『〇〇に登ってきました。曇りで残念でした』程度のものから、かなり細かく活動詳細を残すものもいる。

 尚、投稿者や具体的な場所を特定できる部分については伏せ字に修正することをあらかじめお断りしておく。

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活動日 2021年10月〇日
タイトル A岳〜I山 日帰り縦走
本文
かねてより行きたかったA岳に挑戦してきました。コースタイム9時間の長丁場で私一人では不安でしたが、今回はベテランの〇〇さんがご一緒してくださるということで、大船に乗った気持ちで出発します。

7時前に登山口の駐車場で〇〇さんと合流、手早く身支度を整え、いざ入山です!

歩き始めはだらだらとした林道。約半年ぶりにご一緒する〇〇さんから、今年の夏山のお話をたくさん聞かせてもらいました。雲の平でクマに遭遇したとか。今年は本当にクマが多いみたいですね。

ここもツキノワグマの生息域なので、時々立ち止まりホイッスルを吹きながら歩きます。

小一時間で最初の分岐に。直進するとB岳の方に続いていくらしいです。正しいルートは小さなピンクテープが巻かれているだけで、私一人なら見落としていました…。ここから登山道は沢沿いの道に。ぐんぐん標高を上げていきます。沢沿いの石はぬめぬめして滑りやすい!危険です!

やがて水も枯れて、尾根に詰めあげます。この道(?)がとにかく険しかった。角度も急だし、シャクナゲが道を塞いでて引っかかるし、ゆっくり登っていきます。〇〇さんに時々引っ張ってもらいながら、なんとか尾根に到着。後から聞いたんですが、今通った道はいわゆるバリエーションルート(筆者注:一般登山道ではない難易度の高いルート)だったそう。早めに教えて欲しかった…。

尾根に出たところで大休憩!風もなく、天気も晴天。バーナーでお湯を沸かし、いつものカップ麺。下界で食べると味気ないですが、山で食べると本当に美味しい!

30分ほど休んだ後、再出発します。前方にはこれから登るA岳が!こうやって見るとすぐそこに見えるんですが、歩いているとなかなかつかない…。アップダウンを繰り返し、ようやくA岳に登頂です。周りには別の登山口から登ってきた人たちもたくさん。記念撮影をしあいながら、続くI山に向けて縦走開始です。

晴天の縦走路は最高で、さっきまでヒイヒイ言いながら歩いていたのが嘘のよう。I山はまだまだ向こうですが、軽い足取りで進んでいきます。

20分ほど進んだところで〇〇さんが立ち止まります。どうやら尿意を催したよう…。とはいえ狭い登山道で、いつ人が来るかも分からないので、登山道からちょっと離れ、少し降ったあたりで済ましてくると藪を掻き分けていきました。

待つこと数分、〇〇さんが首を傾げながら戻ってきました。「変なものがあった」と言ってスマホで撮った写真を見せてくれました。地面に、白米が盛られたお茶碗が置かれている写真でした。少し降りたところにある大きな岩で用を足したあと、さあ戻ろうと登り始めると、足元に白米があったとのこと。別にお地蔵さんとか、祠とかがあってそれのお供えという訳ではなく、本当に突然白米が現れたそう。最初に気付かなかったのも不思議…。しかも湯気が出るくらい、炊き立てだったそう!〇〇さん、それがあまりにも美味しそうだったので、一口食べてしまったそう!ありえない!「すごい美味しかったよ」とケラケラ笑いながら言う〇〇さん…山男は神経が太すぎる。

そんなハプニング(?)を交えながら、一時間半ほどでI山の山頂に!A岳に比べると人気がないのか、登山客は私たちだけ。山頂の小さな祠に手を合わせてから、少し休憩。今日は天気も良く空気も澄んでるからか、E湾まではっきり見えました。海の見える山、好きです。

ここから登山口までは大きな見所もなく、サクサクと降っていきます。謎のご飯をつまみ食いした〇〇さんがお腹を壊さないか心配でしたが、最後まで元気いっぱい。さすが、山歴30年のベテランはたくましい!

結局下山してきたのは15時過ぎ。コースタイムより一時間早く降りてくることができました。
それもこれも、この山域を知り尽くした〇〇さんの名ガイドのおかげです。ありがとうございました!

またご一緒できるのを楽しみにしています。夏場はアルプスにも一緒にいきましょうね〜!

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 本文はここまでである。次に、この投稿に対するコメント欄を抜粋していく。

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ユーザー名 〇〇
2021年10月〇日
コメント
●ちゃん、お疲れ様でした!険しいルートを歩かせてしまってごめんネ。でも楽しんでくれたようで何よりでした!ご飯は本当になんだったんだろうネ?でも炊き立てでおいしかったです(笑)お腹も壊してないよ。また誘ってください。

ユーザー名 ●
2021年10月△日
コメント
>>〇〇さん
バリエーションルート、こちらも下調べが足りてなくてごめんなさい!スリリングで楽しかったです!
またよろしくお願いします!

ユーザー名 △△
2021年11月〇日
コメント
>>●様、〇〇の息子です。
この日の父の行動について、詳細をお聞きしたいので、お手数ですが
*********@******.ne.jp
までご連絡いただけないでしょうか。

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 このA岳〜I山縦走の日まで、週1回ペースで活動記録を投稿していた〇〇だが、この日以降、当該SNSからは姿を消している。投稿者の●はこれ以降も山行記録を投稿してはいるが、こちらからのDMやコメントには一切反応がない。記載されているメールアドレスについては、メールの送信は出来るが何か返信が来ることは今のところない。

 尚、A岳〜I山付近では、2021年10月〜11月において遭難事件等は確認されていない。