これからも ずっとずっと キミと幸せでいれますように

 どこにでもありそうな一本の横断歩道に、白い花が添えられていた。
 半年ぐらい前に女子高校生がトラックにはねられて、死亡した事故現場だったことを思い出す。
 花を添えたのはきっと遺族か友人だろう。
 俺はその歩道橋を少し見る。
 手を合わせ、目的地に行く道を歩いた。
 少しすると、尋常じゃない吐き気が襲ってくる。
 俺は急いで口元を抑えながら、トイレに駆け込んだ。
 母さんと奏が一緒に作ったオムライスが想像もしたくない形で口から出る。
 『はぁ……はぁ……食中毒か? だけど食中毒にしてはうっ……!』
 またオムライスが出てくる。
 俺は目的地に行くのをやめ、帰ることにした。
 段々と吐き気が収まる。
 『ただいま……』
 『お帰り。冷斗大丈夫? 大分、顔色悪いけど……』
 『とりあえず寝る……』
 またも吐き気が襲ってきた。
 急いで洗面台に向かう。
 『はぁ……はぁ……なんなんだよこれって……!』
 鏡を見ると後ろにジャージ姿の髪をいじっている女子が立っていた。
 『誰だお前⁉』
 『うわっ! びっくりしたー!』
 女子が驚きをを隠せない表情になる。
 少しし、女子が髪を整える。
 『わたしの名前は飛鳥奈那! さっきキミが通った事故現場で死んだ女子高校生だよ!取り憑いたからこれからよろしくねー!』
 『取り憑いた⁉ おい! 塩かけて成仏させるぞ!』
 俺はポケットにしまっている清めの塩を取り出した。
 『ちょいちょいちょい! ちょっと待って! 一回わたしの話聞こうよ! ね!』
 とりあえず、二階にある自分の部屋に入った。
 『わたしずっとあの場所でとある子を待ってたんだ。だけど来ないからあなたに取り憑いて探すことにしたんだ! あとあそこの生活に飽きちゃった!』
 絶対後半の理由が大半を占めてるだろ。
 俺は大きくため息をついた。
 『キミの名前は?』
 『水間冷斗』
 『冷斗かー! いい名前じゃん!』
 奈那がポンッと肩を叩いてくる。
 ウッザ……。
 『とりあえずこれからよろしくねー! 水間冷斗くんっ!』
 奈那が太陽のような笑顔になった。
 この日を境に、俺の人生はまるっきり変わっていった。
 
 ゲロゲロゲロと、田舎の夜でしか聞けないカエルの鳴き声が外から聞こえる。
 俺はその鳴き声のせいか、珍しく起きてしまった。
 「こんな真夜中に起きるなんて何年振りだろ。うん……あれは……?」
 ベランダに一人寂しく奈那が座っていた。
 ベッドから降りて、何も言わずに奈那の横に座った。
 奈那は一度こちらを見つめ、さっきと同じようになる。
 夜空にはキレイな星空が広がっていた。
 「キレイだな。星空」
 「うん。実はわたし天気のいい日は毎日こうしてるの」
 「どうして?」
 「寝ようとしたらあの頃のトラウマが蘇るの……。机に死ねやアホとかの暴言は当たり前で、トイレで水かけられて制服びちょびちょになったな……」
 奈那がため息をつき、星空を見上げる。
 「突然なんだけどさ、冷斗は、わたしのこと好き?」
 「うん。大好きだよ。とっても」
 奈那の頭を優しく撫でる。
「やった!」
 奈那が子供のような笑顔を俺に見せる。
 「お前が生きてたら俺と、付き合ってたかもな」
 「わたしには悠くんいたからそれはないよ~」
 風鈴のチリリンという音が響く中、二人で一緒に笑う。
 「俺もたまにされてたこと思い出すな。めちゃくちゃ怖い」
 「わかる。怖いよね」
 カエルの鳴き声が収まる。
 「冷斗をいじめてた子って何て言うの?」
 「山形学(やまがたまなぶ)」
 あのことを思い出し、少し「うっ……」となり、口元を抑える。
 「ごめん! 思い出せちゃって!」
 「ううん……大丈夫だから……」
 奈那が背中を優しくさすってくれていると吐き気が大分落ち着き、一緒に星空を見上げる。
 「奈那は思い出して気持ち悪くなったりしないのか?」
 「ううん。するよ。今は我慢してるだけだよ。普段はこうやってしてる時にずっと気持ち悪くなってるよ。あと泣いてる」
 やっぱり奈那も思い出して気持ち悪くなったりするのか。
 「そういう時はいっつも悠くんのことを思い出してるよ」
 「いい彼氏だったんだな」
「とってもねー!」
 奈那がウィンクをする。
 「ウィンクかわいいじゃん」
 奈那は照れ笑いをする。
 「そういえばお前が俺に取り憑いたときに言ってた、『とある子』って悠のこと?」 
 「うん! だから地縛霊になってたんだ!ま! 今はこんな感じで冷斗の守護霊みたいな感じになってるけどねー!」
 涼しい風が吹き、俺らの体を冷やす。
 「そうだ! 来週買い物行くか?」
 「え⁉ いいの⁉」
 奈那がさっきとは全く違う、キラキラした目になる。
 「服とか見たいんだったら誰か誘った方がいいと思うけど……」
 「だったら奏ちゃんと冬李ちゃんを誘おう!」
 奈那が手を星空に向ける。
 奏と委員長か。絶対服買うな。
 「わたしも服変えたいなー」
 「ずっとジャージだよな」
 「死んだときの服装がジャージだからね」
 カエルがまた大合唱を始めると、俺は大きく欠伸をする。
 「ごめんね! こんな真夜中に話しちゃって」
 「いいよ。たまには。ふわぁ……すまんけど今日はもう寝るわぁ」
 欠伸で出た涙を服でぬぐう。
 「うん!」
 放った声のテンションとは裏腹に、奈那が少し寂しそうな表情になる。
 ……仕方ないか。
 「一緒に寝るか? いつも床で寝てるんだし」
 奈那が目を輝かせる。
 「いいの⁉」
 「うん」
 「やった! 冷斗と一緒に寝るー!」
 まるで幼稚園児のように俺の部屋を駆け回る。
 昔の奏を思い出すな。昔はよく奏「れいにぃと一緒じゃないと寝れないー!」って言ってたな。
 俺はいつもより左によった。
 奈那が空いたスペースに横になる。
 「じゃ、おやすみ」
 「うん。おやすみ」
 俺は目を閉じ、あのことを思い出しそうになり、必死に別のことを考える。
 少しし、目を開ける。
 目の前にはすやすや眠る奈那がいた。
 「ふっ、ウィンクと一緒で寝顔もかわいいじゃん」
 俺はゆっくり目を閉じた。
 開けていた窓から、湿った風が部屋に入って来た。
 
 奏と母さんが作った朝ごはんを食べ終え、椅子に座ってゆったりとココアを飲む。
 「れいにぃ! お買い物行くときの衣装どっちがいいと思う?」
 「え?」
 奏が両手で緑色の服と黒色の服を持っている。
 自分の前に出し、「どっち?」と聞いてくる。
 「え~奈那がどっちがいいと思う?」
 「わたしは黒色の服の方が奏ちゃんに似合ってると思う!」
 「黒色の服だってー」
 「わかった! 奈那ちゃんアドバイスありがと!」
 奏が柔らかな笑顔になる。
 「いえいえー!」
 奈那も同じような笑顔になる。
 奏は「お買い物楽しみだなー!」と言いながら、自分の部屋に向かった。
「今日はどこに行くの?」
 「前に言った冬李って言う友達と買い物に。母さんは?」
 「私はフライトで疲れたから、ゆっくり家で過ごしとくわ。楽しんでね」
 母さんがバッグから財布を取り出した。
 「はい。お金いるでしょ?」
 「いやいいよ! 俺だってお金あるし!」
 「いいのいいの。お母さんも使わないし。たまには友達に何か奢りなさい」
 「う~ん……わかった……」
 頭の後ろをかきながら、椅子に座り、ココアを飲む。
 「いいお母さんだねー!」
 「そういうお前もな」
 ココアを飲み干した・
 「俺もそろそろ準備するか」
 「時間までもうちょっとだしねー」
 立ち上がり、母さんに一声かけて、歯磨きと着替えをすましてかから、奏と同じように自分の部屋に向かった。
 黒色の帽子をかぶり、いつもの小さなカバンを肩にかけイヤホンを着けた。
 「準備完了」
 「たまには違う服着たらー? ほら! この黒色の服とかさ! 奏ちゃんとお揃だよ~」
 「黒と黒だけどま、いっか」
 こういう時は奈那の言うこと信じよう。
 さっきまで着ていた服を脱ぎ、奈那が選んだ黒色の服を着た。
 「どう?」
 「似合ってるじゃん!」
 奈那が俺の肩を叩く。
 ピンポーンと家のインタホーンの音が家中に響く。
 「やばっ!」
 急いで階段を下った。
 玄関を開けると、花のような笑顔で委員長が立っていた。
 「あっ! おはよー!」
 「おはよう委員長。奏はまだ準備中」
 少しすると、奏が急いで顔を出す。
 「あっ! おはよー!」
 俺の時と全く同じテンションで奏に言う。
 「おはようございます! 冬李さん! すみませんが、もうちょっと持ってください!」
 「はーい!」
 姉妹のような仲の良さだ。
 「髪下ろしてる奏ちゃん初めて見たかもー! かわいい!」
 そっか。委員長、奏のポニーテールの姿しか見たことないのか。
 「あなたが冬李ちゃん?」
 母さんが顔を出した。
 「お母さんですか⁉ いつもお世話になっております!」
 「いえいえー。冷斗と奏と奈那ちゃんの三人と仲良くしてね」
 「はい! わかりました!」
 奏が準備を済ませて出て来た。
 「よし! できた!」
 奏が見慣れない服装になっている。
 「じゃあ母さん行ってきますー」
 「気をつけていってらっしゃい」
 母さんに手を振られながら、玄関をゆっくりしめた。
 外は梅雨なのにカラッと晴れている。
 「お母さん綺麗だねー!」
 「ありがと。ていうか悪いな。ここまで来てもらって」
 「ううん! しかしキミが買い物に私を誘うとはねー! 意外だったよ!」
 「ま、そっちの方が奈那とか奏的には楽しめるからな」
 委員長が奏のお団子を見つめる。
 「奏ちゃんお団子も似合ってるー!」
 「えへへ~普段はお団子なんですよ~」
 奏がほんわかとした笑顔を見せる。
 俺たちは駅の方向に歩いた。
 大切に植えられているバラが、気持ちいい風に吹かれて、揺れていた。
 駅に着き、スマホを改札にかざし、ピコン! と鳴った改札を通り抜ける。
 休日だけあって、駅のホームには結構な人がいる。
 「列車が到着します。黄色い線の外側までお下がりください」というアナウンスがホームに響き渡った。
 すぐに列車の椅子に座り、イヤホンとスマホを接続させた。
 十駅も先だからなんか動画でも見るかー。
 動画視聴アプリを開いて、心霊動画と調べる。
 「相変わらず好きだねー冷斗は」
 「いいだろ別に。奈那も見るか?」
「うん! 見る!」
 奈那が見やすいように画面を傾けた。
 奈那が目を細めて動画を見る。
 さっきまでああ言ってたくせに。
 「うわ……怖っ……」
 「幽霊のお前が何言ってんだよ」
 「幽霊でも幽霊は怖いんだよー!」
 人間が人間のこと嫌ったりするのと同じ……か?
 見ていた動画が終わり、俺は違う動画を再生する。
 「よく見てて飽きないねー」
 「だって面白いからな」
 好きな曲とかないし、これぐらいしか見るもんがないんだよな。悲しいことに。
 電車内に次の駅のアナウンスが響き渡る。
 俺はスマホを閉じる。
 「奈那、武田真央って子、どんな子だった? 言いたくないんだったら全然いいけど」
 「いや言うよ。一言で言っちゃえば、誰とでも仲良くできる子。そのせいで、取り巻きがたくさんいてねー。それには困ったものだよ」
 奈那が大きなため息をつく。
 「アイツの性格は妹の真那にも完全に遺伝してる」
 奈那が握りこぶしを作る。
 「やめよやめよ。こんな話。俺から振ってなんだけど」
 「そだねー」
 俺はスマホをつけ、ネットニュースを適当に見る。
 興味あるヤツはない……な。
 スマホをポケットにしまい、電車の電光掲示板を見る。
 あと……三駅か。
 肩が急に重くなる。
 まーた、奈那が俺にちょっかいかけてんのか。
 「奈那―ちょっかいかけるなー」
 「え? わたし何にもしてないよ」
 「え?」
 俺は両横を見る。
 委員長と奏が俺の体に寄りかかり、すやすやと眠っていた。
 「二人とも寝顔もかわいいねー!」
 「委員長とか絶対見られないよな。こんな寝顔」
 学校では隙を全く作らない委員長が、隙だらけで寝ている。
 電車が目的地の前の駅に止まった。
 「おーい委員長、奏起きろー」
 俺は二人の肩を優しく叩く。
 「う~ん……あれ……? れいにぃ寝てなかったの?」
 「奈那といろいろ話してたりしてたからな」
「そっか~」
 奏は大きく体を伸ばし、スマホ開き、SNSをチェックしている。
 委員長はまだ起きない。
 「委員長―もう着くぞー」
 「ううぅ……ねみゅいよぉ……」
 こんな委員長学校では絶対見ないな。
 ゆっくりとまた目を閉じる。
 「おーきーろー」
 「ううぅ…………キミのことだ~いすきだよ~」
 「何言ってんだー。委員長寝ぼけてんのかー?」
 体を揺さぶると、もう一度目を閉じる。
 「起きろー!」
 目を擦り、起きた。
 「う~ん……おはよう~」
 委員長は体を伸ばす。
 「なんかわたしヤバいこと言った気がするな……」
 手を組んで考え始める。
 確かに言ってたな。気にしないけど。
 「ま! いっか! どうせキミにしか聞こえてないしねー!」
 電車が目的の駅に着いた。
 俺らは順に席を立ち、電車から降りる。
 「ふー! 着いたー!」
 駅は休日だけあって、人でごった返していた。
 さっきまで乗っていた電車が新たな人を乗せて発進する。
 駅の改札にスマホをかざし、ピコン! と鳴った改札を通り抜け、駅から出る。
 駅の外は完全に都会の街並みだ。
 四方八方にビルがあり、人がわんさか歩いている。
 俺らは買い物をするためにショッピングモ―ルに行った。
 「奏ちゃんはお昼何食べたい?」
 「えーとね! パスタ!」
 「パスタかいいね! よし! 決まり!」
 俺の意見はなしかよ。ま、パスタでいいけど。
 ショッピングモールの中も休日だけあって人がたくさんいる。
 さっきまで汗が出るほど暑かったが、中に入った瞬間体が冷える。
 「あそこの服見たい!」
 奏が一目散に洋服屋に入る。
 「いらっしゃいませ―」
 店員さんに軽く会釈をする。
 「うわー! 久しぶりに服屋さん入ったなー!」
 奈那が少し興奮気味になる。
 洋服屋の店内にはオシャレな洋楽が流れている。
 「ねね! これとかどう?」
 奈那が服を指さす。
 俺がその服を奈那の体の前に差し出す。
 「おー結構似合ってるじゃん」
 「だよねー! 他になにかないかなー!」
 奈那がスカートのコーナーに行く。
 俺は服を元の位置に戻し、椅子に座った。
 少しすると奈那が俺を呼んだ。
 俺は奈那の方に歩く。
 「これどう⁉」
 さっきと同じように奈那の体の前に差し出す。
 「う~ん、やっぱり奈那はズボンの方が似合ってる」
 「ホント⁉ 冷斗がそう言うならそうなんだろうなー!」
 奈那は勝手に店の中を歩く。
 服を片付け、自分の服を探しに店の中を探った。
 奏と委員長が楽しそうに会話をしている。
 それを横目に椅子に座る。
 奈那がとても満足した顔で横に立つ。
 「冷斗って人多い所苦手だよね?」
 「ご名答。よくわかったな」
 「わたしと一緒だね」
 奈那が少し寂しそうな表情になる。
 「もしかしたらアイツがいるかも……ってなるんでしょ?」
 「そそ。今もちょっとだけ体震えてる」
 「なんで連れてってくれたの?」
 「行きたいって言ってたじゃん。あと、お前のこと好きだし」
 それを聞いた奈那はいつもより長めに俺の頭を撫でる。
 「やーめーろってー!」
 「あんなこと言うのが悪いんだぞー!」
 奈那が子供のような笑顔になる。
 つられて俺も笑顔になる。
 「れいにぃ服決まったー!」
 奏が嬉しそうに俺の元にきてそう言う。
 「はいよー」
 奏と委員長が四着の服をかごに入れ、レジに持っていく。
 会計を済ませる。
 「ありがとうございましたー。またお越しくださいませー」
 紙袋に入った服を奏と委員長に渡す。
 「ごめんね。私の分も払ってもらって」
 委員長が申し訳そうになる。
 「いいよいいよ全然。買い物行ってないからお金あるし」
 俺らはショッピングモールをぶらぶら歩き気になる店を探す。
 「あのお店行きたい!」
 奏が指をさしたのは下着屋だった。
 「俺は向かいのお店いるからー。委員長、奏の世話見ててー」 
「了解!」
 委員長が奏の手を繋ぎ店に入った。
 やっぱり姉妹にしか見えないな。
 向かいのお店って適当に言ったけど、陶芸ショップか。
 とりあえずお店に入ることにした。
 「いらっしゃいませ―!」
 若い二十代ぐらいの店員さんが商品を陳列しながら、元気よく挨拶をする。
 名札を見ると初心者マークが貼っていた。
 バイトの子か。
 軽く会釈を済ませ、俺はとりあえず備前焼のコーナーに入り、いろいろと見て回る。
 「値段やっぱり高いなー」
 「しょんにゃことよりしゃ! 由海(ゆみ)ちゃんがしゃ! 店員しゃんやってってるよー!」
 奈那がとても興奮し、ところどころ噛みながら言ってくる。
 目も眩しいぐらいキラキラ輝いている。
 「落ちつけ落ちつけ」
 深呼吸をし、目を輝かせた。
 「お前の友達か?」
 「そそ! 小学校の時の同級生! おっきくなってるなー! おじいちゃんが焼き物の職人さんなんだよね! 相変わらずかわいいなー!」
 そんなに仲のいい友達いたんだ。
 「話してやろうか?」
 「うんっ!」
 奈那がかわいい笑顔を見せた。
 少しして、店員さんに話しかける。
 「あの~」
 「はい!」
 「飛鳥奈那ちゃんって覚えてます?」
 「なーなのことなら覚えてますよー! かわいくて! 誰とでも仲良くできて! あとめっちゃくちゃバスケしてたら性格変わるんですよー!」
 奈那と同じで興奮気味で言う。
 へぇー奈那「なーな」って、呼ばれてるんだ。
 「よく頭撫でてもらってましたよー! ところでお客様、なんでなーなのこと知ってるんです?」
 「水泳サークルが一緒でよく泳ぎ方教えてもらってたんですよ!」
 「あー! そうなんですね! なーな面倒見よくて、人懐っこいからなー!」
 面倒見いいって……けど夏海があれぐらい奈那のことが好きだってことは面倒見いいのか。
 「なーなとまた会ってみたいなぁ……」
 由美さんが少し小さな声で呟く。
 「成人式行けなかったから、なーなの連絡先知らないんですよねー。なーなの連絡先知りません?」
 俺は少し苦笑いを浮かべる。
 「僕もそれ探してるんですよねー」
 この感じだったら、奈那が死んだこと知らないのか。
 「わかったら、いつでもこのお店来てくださいね!」
 「はい!」
 笑顔で、お店から出ようとする。
 「あっ! よかったらなーなの話聞かせてくれたお礼に! 私が焼いたお皿もらってください!」
 「いいんですか⁉」
 「まだまだ見習いの素人が作ったやつですけど! よかったら使ってください!」
「ありがとうございます!」
 俺が頭を下げると、奈那も一緒に頭を下げる。
 「割れやすいのでご注意ください! またのお越しを心からお待ちしております!」
 嬉しそうに言いながら手を振った。
 笑顔で手を振り返し、近くの椅子に座ると体の力が抜けた。
 「どうだった?」
 「夢のような時間だったなー!」
 奈那の興奮はまだ冷め切ってなくて、まだキラキラと輝いた目をしている。
 「言わなくて……よかったよな?」
 「うん! どうせ小学校の同窓会とかでいつかわかるよきっと! 言わないでくれてありがと!」
 「なんで?」
 「わたしが死んだってこと知ったら多分由海ちゃんなら大分落ち込むから。それで仕事に支障与えたくないんだよね……」
 さっきとは一転し、少し寂しい口調と、目になる。
 「それだけ仲よかったんだな」
 「うん! 『なーな』って呼ばれてるぐらいだしねー!」
 奈那がまた目を輝かせる。
 あだ名で呼ばれることなんて、俺には一生訪れなさそうだな。
 「そういえば今日、冬李ちゃんから『好き』って言われてたじゃーん!」
 奈那が「このこのー!」と言いながら肩にぐいぐいとちょっかいをかけてくる。
 「あんなのただの寝言だろ」
「そうかなー?」
 俺はポケットからスマホを取り出し、時計を見る。
 もう十二時か。奏たちの買い物が終わったら昼ご飯だな。
 「れいにぃー! なにそれ?」
 奏が俺が持っていたお皿を指さす。
 「お皿。貰った」
 「え⁉ どうやって?」
 「店員さん奈那の親友だったから奈那の話したら貰った」
「へぇー」
 今度絶対奏が作ったお菓子でも持っていくか。
 「パスタ食べに行く?」
「うん!」
 奏が笑顔で、委員長の手を握った。
 握られた委員長は笑顔で「いこっか!」と言った。
 俺は二人の後をついていく。
 「もう一回、由海さんに会いに行くかー」
 「うん! 絶対会う!」
 奈那がさっきと同じ、興奮気味になる。
 「うわっ! あの猫かわいいー!」
 前にはペットショップがあり、ガラス越しに猫や犬が鳴いている。
 「わー! かわいい! ねdえれいにぃ! ちょっとよっていい?」
 「うん」
 のぼりには「ふれあいフェア開催中」と書かれている。
 店内には柵の中でネコたちが遊びまわっている。
 「よければふれあってみますか?」
 「「はい!」」
 二人の声が重なった。
 柵の中に入る。
 「にゃー!」
 「うおっ!」
 ネコたちがぞろぞろと俺の方に集まってくる。
 「お兄さんめちゃくちゃ好かれてますね!」
 「なんか昔から好かれるんですよー」
 俺は集まって来るネコたちの頭を撫でる。
 「れいにぃいいなー! かなでにも撫でさせて!」
 「はいよー」
 ネコを一匹渡す。
 「うー! かわいいー!」
 「ほんとにねー!」
 委員長にもネコたちが集まっている。
 「委員長も好かれてるな」
 「ま! キミには勝てないけどねー」
 奏に撫でられていたネコが委員長の方に行く。
 「さっ、奏、満足したか?」
 「うん!」
 奏たちが出口に歩き出す。
 「早くしてよー! キミ!」
 「はいはい」
 膝の上にいるネコたちをそっと下ろし、出口に歩く。
 「お兄さん本当に好かれてましたね!」
 「まあ……。また来ますね」
 「はい! お願いします!」
 店員さんが深く礼をした。
 奏と委員長が歩き出したのを確認し歩く。
 奈那が少し立ち止まり、スポーツショップに売っているバスケットボールを見つめる。
 「奈那ってバスケ本当に好きだな」
 「うん! とっても好き!」
 奈那が目を輝かせる。
 バスケットボールでも買ってやろうかな。
 奈那と雑談をしていると、生パスタ専門店に着き、お店の中に入った。
 「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
 「三名です」
 「了解です。あちらのお席どうぞー」
 店員さんがテーブル席を案内してくれた。
 奏と委員長は隣同士に座る。
 「奏ちゃんは何食べたい?」
 「迷うけどミートスパゲッティ!」
 「なら私はー!」
 委員長が楽しそうにメニュー表をめくり、奏と話す。
 「私も奏ちゃんと同じミートスパゲッティにしよ! キミは?」
 「カルボナーラで」
「了解―!」
 委員長が呼び出しボタンを押す。
 すぐに店員さんが来て、お冷をテーブルに置く。
 委員長が注文を済ませる。
 奏が委員長にスマホの画面を見せ、姉妹のように会話をする。
 「冷斗カルボナーラ好きだっけ?」
 「お前が好きなんだろ。だから頼んだ」
 「やっさしー! 頭撫でちゃおー!」
「やめろってー!」
 お店にはたくさんの人が入って来る。
 厨房は大忙しだ。
 
 「お待たせいたしました。ご注文のミートスパゲッティとカルボナーラです」
 「待ってましたー!」
 奏と委員長がパスタが置かれた瞬間スマホで写真を撮る。
 お冷を一口飲む。
 「「「「いただきまーす(!)」」」」
 フォークにパスタを、上手に巻き付け、黒い服に落とさないよう慎重に口に運んだ。
 やっぱり専門店だけあって美味しいな。
 だけど、南海さんが作ったカルボナーラも負けてない。
 「うん! これ美味しい!」
 「美味しいねー! 奏ちゃんと同じのにしてよかった!」
 委員長が笑顔になり、パスタを食べる。
 一人、二人とお客さんが入って来る。
 「奈那はこうやって悠とご飯食べた?」
 「うん! 悠くんとはいっぱいスイーツ食べた!」
 奈那が嬉しそうに話す。
「そっか」
 やっぱり悠のこと話すときは嬉しそうに話すな。