チリリン! チリリン! とうるさいぐらい目覚ましの音が部屋に響く。
 「ふわぁ……。もう朝か……。おはよう奈那」
 欠伸で出た涙をパジャマでぬぐう。
 「おはよう! 冷斗!」
 奈那は満点の笑顔だ。
 相変わらず朝からテンションが高いヤツだな。
 階段を降り、リビングに向かった。
 リビングに着くと、香ばしい目玉焼きのにおいが漂う。
 「あっ! おはよう! れいにぃ! 奈那ちゃん!」
 「「おはようー(!)奏(ちゃん!)」」
 チン! とトースターが鳴る。
 「トースト出来た!」
 奏がトースターのもとにお皿を持って向かう。
 「そういえばれいにぃ、かなで今日学校休みじゃん?」
 「うん」
 「委員長さん家に呼んでねー」
 「了解―」
 ……しまった……。アイツ普通に言うからつい「了解」って言ってしまった……。
 陰キャの俺にそんなこと出来ないって……マジでぇ……。
 「珍しく冷斗が失言かー!」
 「奏の願いなら聞くしかないかぁ……」
「そだねー!」
 奏が出来立てのトーストと目玉焼きを持ってくる。
 「けどれいにぃが委員長さんをお家に誘えるかな……」
 頼む! 俺が誘えるわけないのに気づいてくれ!
 「う~ん……奈那ちゃんいるから大丈夫か!」
 いや、そうじゃねぇよ……。
 額に手をあて、大きなため息をついていると、奏が朝食を持って来てくれる。
 「どうしたのれいにぃ? ため息なんかついてさ」
 「いや、なんでもない。いただきまーす」
 奏は委員長がうちに来る気満々だし、奈那にアドバイス貰いながら誘うかぁ……。
 「相変わらず奏ちゃん相手には優しいなー! わたしがアドバイス出すから任せといて!」
「頼んだぞ」
 トーストを一口噛み、サクッ! と音をたてる。
 「今日はいっぱい掃除して美味しいお菓子作るぞー!」
 奏が腕をあげる。
 「すごいやる気だねー」
 「あのやる気に応えてやらないとな」
「そうだね!」
 奈那が笑顔を見せてくれた。
 
 学校に着くと俺はいつも通り席に着いた。
 「具体的にどうすんだよ?」
 「とりあえず冬李ちゃんのことだから話してくれるよ!」
 「本当かー?」
 最近全く委員長と話してないけど。
 クラスはいつもどおり、賑やかに話している。
 「ま! 気楽に待てばいいよ! ねね! 窓開けて!」
「はーい」
 窓を開けるといつも通り登校した生徒たちの声が聞こえる。
 いつも通り寝る準備をする。
 「おはよう!」
 体が少しビクッとなる。
 「あっ、委員長おはよう」
 「冷斗今だよ!」
 委員長に気づかれないように小さくうなずく。
 「委員長に、ちょっと言いたいことがあるんだけど……」
 「うん?」
 委員長があの不思議そうな顔をする。
 「今日俺の家来てほしい。奏が委員長の顔見たいって言ってるから……」
 段々声が小さくなっていくのが自分でもわかった。
 「六時までしかいられないけど、いいよ! キミの家に行くのとっても楽しみだなー!」
 よし言えた!
 見えないように机の下で、小さくガッツポーズをする。
 「帰り、先に降りて待ってるから」
 「OK! 楽しみだなー!」
 委員長が体を伸ばす。
 「そろそろ自分の席戻るね! 奈那ちゃんと話したいと思うし! じゃあね!」
 委員長は自分の席に戻った。
 委員長が俺の席から離れた瞬間、一気に体の力が抜ける。
 「疲れた~」
 「お疲れさま! よく頑張ったじゃん! 奏ちゃんも嬉しいと思うよ!」
 奈那が俺の肩を優しくたたく。
 「それにしても冬李ちゃんはいい子だなー! あんな子あんまりいないよー!」
 確かに。この俺に話しかけるって人だからな。
 外からテニス部とサッカー部の大きな掛け声が聞こえる。
 「奏ちゃんどんな反応するかなー?」
 「正直俺もわからん。想像もつかない」
 教室には生徒たちの笑い声が響く。
 その中心には委員長がいた。
 奈那が委員長を目を細めて見ている。
 「冬李ちゃんなんかムリして笑ってない?」
 「周りの空気読んで笑ってるだけだろ。人気者だからな」
「そうかな~」
 外からはぬるい風が吹いてくる。
「そういえば奈那の妹の名前ってなんだ?」
 「夏海(なつみ)だよ! 今は小学一年生かー! 想像つかないなー!」
 奈那が窓越しに空を見上げる。
 空はカラッと晴れていた。
 
 「委員長号令―」
 「はい! 姿勢! 起立! 礼!」
 「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」
 いつも通り誰よりも早く、教室を出て生徒玄関に向かう。
 校庭にあるベンチに座り、スマホをつけ、動画視聴サイトで、心霊動画を検索し、早速見る。
 「冷斗って心霊系ばっかり見るよね。怖くないの?」
 「怖いわけがないだろ。霊と四六時中一緒にいる生活をかれこれ二年してるんだから」
「確かに!」
 どんどんと生徒玄関から生徒が出てくる。
 委員長はまだ出てこない。
 一人、二人また三人と出てくる。
 「冬李ちゃん遅いねー」
 「そうだな。委員長だからなんかしてるんじゃないのか?」
「大変だなー」
 奈那は俺のスマホをのぞき込む。
 「そういえば奈那って、習い事していたのか?」
 「水泳とバスケぐらいかな~」
「へぇー」
 水泳もしてたんだ。
 奈那と話していると、気づくと、もう、三十分経っていた。 
 「ちょっと見に行ってくるか」
 「冷斗はやっぱり優しいなー!」
 優しいって言うか多分、心配性な、だけな気がするけど。
 「今日は帰ったら何食べれるかなー!」
 「お前霊だから何にも食べれないだろ」
「まあそうだけど!」
 奈那が怒った口調になる。
 ガラッ
 「委員長―。遅いから気になって来たけど……。掃除か」
 「……あっ! ごめんね! ちょっと掃除してただけ! もう終わるから!」
 委員長マジメだなー。さすが委員長。
 「もうそんな時間経ってた?」
 「うん。三十分も」
 「ごめん! 時間すっかり忘れてたー!」
 委員長は深く頭を下げ、集めたゴミをちりとりに入れ、ゴミ箱に捨てた。
 「いやー! 時間って経つのって早いねー!」
 委員長は、掃除道具入れを綺麗に掃除してから、掃除道具を入れた。
 「ささ! 早くキミの家行こう!」
 少し小さくうなずき、イヤホンをカバンにしまった。
 委員長やけにテンション高くないか……?
……いつもこんなもんか。

 「これがキミの家?」
 「うん」
「へぇー! とっても中気になる!」
 きっと奏が掃除してくれてるだろ。
ガチャ
 家に入ると、お菓子の甘いにおいがし、床はピカピカで、埃の一つもない。
 「「ただいまー(!)」」
 奏がエプロン姿で顔を出す。
 いつもと違い、髪型がポニーテールになっていて、そのポニーテールが動いた反動でかわいく揺れる。
「お帰り! れいにぃ! 奈那ちゃん!」
「奏ちゃんポニーテールも似合うねー!」
「それ。ポニーテールとっても似合ってるぞ」
奏に笑顔を見せる。
「本当⁉ えへへ~ありがとうれいにぃ!」
奏が柔らかな笑顔になる。
「そうそう! 委員長さん連れて来た?」
「うん。委員長入ってきてー!」
「はーい!」
委員長が家に入り、ドアを閉める。
奏は急いでエプロンを脱ぐ。
「うわー! 綺麗―!」
委員長が家を見渡す。
「あっ! いつもれいにぃがお世話になってます! 妹のかなでです!」
奏が勢いよく頭を下げる。
「こっちもお世話になってますー! 私の名前は清水冬李! よろしくね! 奏ちゃん!」
委員長がとびっきりの笑顔を見せる。
「奏ちゃんってお料理得意なんでしょ? 前に玉子焼き食べさせてもらったけど、とってもとっても! 美味しかったよ!」
 「ホントですか⁉」
 奏が目を輝かせる。
 「うん! また食べてもいい?」
 「ぜひ! ていうかもう冬李さんように作るぐらいですよ!」
 奏が胸をポンッと叩く。
 「本当⁉ うれしいなー!」
 実際そうなったら奏、絶対に体壊すな。
 「あっ! チーズケーキ作ったんですけどよければ……」
 「いいの⁉ 食べたい!」
 今度は委員長が目を輝かせた。
 奏と委員長が話している間に、洗面所に向かった。
 「ねぇねぇ冷斗」
 「うん?」
 「さっき掃除してた時の冬李ちゃんの表情覚えてる?」
 「え? 普通に笑顔だったけど……」
 俺が続けて言おうとすると奈那が「いや」と遮る。
 「なーんかどことなく暗かったんだよね。自分から掃除したいとかじゃなくて仕方なくしてるだけっていうか……」
 奈那が「う~ん」と言い、頭を抱える。
 「誰かに押し付けられた的な?」
 「委員長なら引き受けそうだけど、ダメなことはしっかりダメって言いそうだしな」
 誰かに押し付けられたって言っても、誰も放課後居残りで清掃なんて言われてなかったぞ。
 奈那に続き、俺も頭を抱える。
 「ダメだわかんねぇ……」
 「あんまり深く考えない方がいいのかも」
「それもそうだな」
 洗面所から戻ると、チーズのにおいが漂っている。
 「あっ! れいにぃも食べる?」
 「うん」
 笑顔でそう言うと、委員長が開けたが口が塞がらない表情を浮かべる。
 「え⁉ キミって笑顔になるんだ⁉」
 委員長の声が、部屋中に響く。
 「なるよ。人なんだから」
 まぁ、学校とかでは全く笑顔にならないけど。
 「キミの笑顔初めて見たかもー! かわいい!」
 委員長が少し興奮気味に目を輝かせる。
 自分の席に座り、テレビをつけた。
 おもしろそうな番組はやってないか。
 とりあえずニュース番組にチャンネルを変えた。
 「はいれいにぃ!」
 奏がフォークと少しおしゃれなお皿に乗せたチーズケーキを持って来てくれる。 
 「ありがと。いただきまーす」
 フォークで一口サイズに切って、食べた。
 「うん! 美味しいじゃん!」
 「ホント⁉ やった!」
 奏が幼稚園児のように跳ねる。
 「かなでもっと美味しいお菓子作れるように頑張る!」
 「期待してるぞー!」
 奏の頭を撫でる。
 「兄妹仲いいねー!」
 委員長がジュースを飲み、チーズケーキを食べる。
 奏は台所に行き、冷蔵庫を開ける。
 チーズケーキを食べ進める。
 「れいにぃ! 中華と和食どっちがいいー?」
 「中華―」
 「はーい!」
 奏が冷蔵庫からラーメンを取り出し、IHコンロの電源を入れ、調理をし始めた。
 「そういえば委員長。俺と一緒に屋上でいたことなんか言われなかったのか?」
 「言われたよー! 女子からは、『なんであんな地味な子といるの⁉』とか、男子からは『まさか……あんなヤツと付き合ってるのか⁉』とかねー! 大変だったよー!」
 「すまん委員長!」
 委員長に向かって頭を下げる。
 「ううん! 気にしないでよ! とりあえず『たまたまいて話しただけ』って誤魔化したからさ!」
 「ありがとう」
 委員長がにこっと笑った。
 「気になるんだけど、キミって髪の毛白いよね」
 委員長が俺の髪の毛を見てすぐに、奏の髪の毛を見る。
 「うん。霊感あるからか白いんだよな。奏と母さんは全く白くないんだけど」
 ピロンッ! と委員長のスマホがなる。
 「やばっ! そろそろ帰らないと!」
 委員長が慌てて荷物の整理をする。
 「委員長急にどうした?」
 「いやー! そろそろ帰ってペットに餌やらないといけなくてねー」
 スマホを起動させ、時間を確認する。
 もう十八時過ぎか。
 「奏―。委員長帰るってー」
 奏が急いで冷蔵庫から何かを取り出した。
 委員長と一緒に玄関に向かう。
 「ごめんね! お邪魔しちゃって」
 「いやいや」
 首を横に振る。
 「冬李さん! もしよければ……」
 奏が委員長に何かを手渡す。
 「かなでが作ったブルーベリーパフェです! ぜひ食べてください!」
 奏は頭を下げる。
 それにつられて俺も頭を下げる。
 「作ってくれてありがとう! 今日はとっても楽しかったよ! 今度来るときはまた休日とかにお邪魔していい?」
 「はい! いつでも大歓迎です!」
 俺の意見はなしかよ。
「じゃあねキミ! また明日!」
 委員長は手を振りながら、ドアを閉めた。
 「冬李さんすごいいい人じゃん! てっきり酷いオカルトマニアかと思ってたけど」
 「委員長はオカルトマニアなんかじゃないぞ」
 「今日でそれがわかったよ!」
 奏と俺はリビングに向かう。
 「今日はありがとうな。奈那」
 「全然いいよこれぐらい! わたしも普通に冷斗に友達出来たこと嬉しいからねー!」
 奈那が俺の頭を撫でる。
 「あれ? 何にも言わない……冷斗大丈夫⁉」
 「ちょっと疲れただけ~。奏、お風呂入って来るから、ご飯出来たら起こしてー」
 「はーい! おやすみれいにぃ!」
 お風呂に入り、ベッドに飛び込み寝た。
 「れいにぃ! 夜ご飯出来たよー!」
 「ううう……。はーい……」
 眠い目を擦りながら、一階に降りる。
 一階には奏の得意料理の味噌ラーメンの匂いが広がっている。
 「冷斗気持ちよさそうに寝てたねー! 寝顔かわいかったよ!」
 「なんかやったのかよ」
 「さあねー!」
 絶対なんかやられたな。写真撮ったとか。
 手を洗い、椅子に座る。
 「へいお待ち! かなで特製味噌ラーメンと餃子だよ!」
 奏の頭にははちまきが巻かれていて、髪型もポニーテールになっている。
 「気合入ってるなー」
 「一番自信がある料理だからねー! お茶入れるからちょっと待ってね!」
 冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出し、コップに注ぎ、椅子に座る。
 「「「いただきます(!)」」」
 食べた瞬間味噌の芳醇な風味が一気に口の中に広がり、後から香辛料の辛みがくる。
 「相変わらず美味しいなー!」
 「ありがとれいにぃ!」
 続けて、チャーシューの代わりの甘辛く煮詰めた豚バラ肉を食べ、餃子を食べる。
 「どうどう手作り餃子⁉ たれのお酢と醤油の配分からこだわってるんだからー!」
 「さすがだな!」
 食べる手をやめ、奏の頭を撫でた。