22:00
再生を開始する
音声のファイル名は「final_voice.wav」。始まりは無音。でも、無音のはずが、耳鳴りのような低い音がずっと響いている。……いや、違う。これは音ではない。

22:04
風の音……と思ったけど、違う。何かの呼吸音。誰かが近くで息を吸ったり吐いたりしてる。だんだんその呼吸が耳元で感じられるようになってきた。誰かが俺の後ろに立っているみたいだ。

22:07
低い振動音に、声が混ざり始めた。最初はただの囁き。だが、その囁きが次第に変わり、言葉になっていく。「聴いて」「もっと」「最後まで」。
あまりにも明瞭だ。これ、本当にイヤホンから聞こえているのか?後ろに人がいる気がしてならない

22:10
声が変わった。若い女の声に。
これは千璃ぬるの声だ。間違いない。どこかで聴いたことがある気がする。
もしかして、黒煉村でこの声がずっと聞こえていたんじゃないか?

低い声の中に彼女の声が混ざってくる。少し高い、美しい声。ああ、これは、本当に美しい。まじないの声と言われるわけだ。
なんて言っているんだろう、聞き取れない……。笑い出した。壊れたような笑い声が続いてる。
なんだ、突然彼女の悲鳴が響いた。

22:12
彼女の悲鳴が鮮明に聞こえる。断末魔。恐ろしい。苦しい声。なのに、なんだ、きれい。ああ、彼女が、消えていく、生命が。声がだんだん近づいてくる。叫びが鼓膜を突き刺すみたいだ。
身体が震える。
吐き気が

22:14
映像が浮かんでくる。
いや、これは目を閉じているのに見える……千璃ぬるだ。会ったこともない染みたこともないのに確信できる。黒い髪の、色が白い、女性、笑顔、優しい、笑顔のまま、口からは、苦しみの、断末魔が、千璃ぬるの背景が、ぐにゃり、まがって、世界は、ああなるほどな、これが世界の反転、吐いた、わからない、自分の体、どうなってるか、耳、聞こえる

22:17
息ができない。

22:20
突然呼吸が楽になった

22:23
リピート設定をしていないはずなのに、音声が続いている。
続いている?いやいない?
イヤホンが耳と一体化している。
どこから聞こえている?耳の奥?
ああああああ鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜鼓膜
なんだろう、なにかがわかってしまいそうだ
わかる


22:25


22:30
わかった