※メモの順番は霧谷によって整理されたもの。
1枚目
私の声には人心を掌握する力がある。「まじないの声」と呼ばれ、六人部家の家系の人間はみんなある程度の声を有して生まれてくるが、私の持つ声の力は特に強い、と小さなころから母に言われてきた。
声の力は成長するにつれ自分でも制御できなくなった。
中学校に上がってからは、学校に行くこともやめた。
私が言葉を発すれば、クラスメイトも、教師も、私の言う通りに動いた。
この力は生まれつき備わったものであり、逃れることはできない。
2枚目
ただし、声だけではその力を完全には発揮できない。
小学校のころ、私のことを「気持ち悪い」といった男子に、小さく「死ね」と囁いてみた。彼は呆けたようになり、縄跳びを持ち出し鉄棒に結び付け、首を括ろうとしたが、途中で我に返って逃げ帰ってしまった。
3枚目
母にこの話をすると、私にだけ六人部の秘密を教えてくれた。
弟には内緒だ、と言われたが、すぐに弟にも話した。
弟は六人部の家の人間とは思えないほど、普通の子だ。そんな弟の視点からの話を聞くことを、私はいつも大事にしている。
母によると、六人部の声と、生き物の死の間際の声――断末魔の声を組み合わせることでより強力な力を生み出すことが出来るらしい。
4枚目
弟が野良猫を連れてきた。
長年寝たきりになっていた祖母が死んだ。
5枚目
いつしか、母はこの声の力を使い、人々を救う商売を始めた。
祖母が死んだ理由について、感づいていたのかもしれない。
最後まで母とその話をすることはなかった。
もともとは村の中の相談に乗っていただけだったが、母はインターネット上にサイトを作り、村の外の人からも悩み相談や様々な依頼を受けるようになっていった。
学校に行くのもやめていた私は、母に言われるままに声の力を行使した。
6枚目
「まじないの声」で商売をすることを問題視する声が、次第に村の人たちから上がっているようだ。ときどき、母が村の人たちと対立している声を聴くことがある。門傑の神主さんもいい顔をしていない。
黒煉と六人部は断絶してしまった。
別にそんなことどうでもいいけれど、
うるさくて、静かにしてほしかった。
母が自分の声で村の人たちの考えをどうにかすればいいのに、母にはそれほどの力はないようだ。母は私に村の人をどうにかしてほしかったようだが、私はそれを拒絶した。
依頼は、ひっきりなしにやってきた。
断末魔の声を用いた力を使うことはほとんどなかった。
それでも、3度ほど、その力を使ったことがある。
誰もいない山の中に入り、生きものの断末魔の声と私の声を録音し、それを依頼者に渡す。
依頼者からは感謝の連絡が届いた、と母から聞いた。
7枚目
世界の人々はこんなにも苦しんでいます。
なのに、わたしはこんな小さな田舎で、母の言われるままに声の力を使っています。
千景が久々に帰ってきて、私のことをほめてくれました。
人を救うのはいいだ、と千景は言いました。。
千景がそう言うのならば、きっとそうなのでしょう。
もっと、救いを。
この苦しみに満ちた次元から、次の次元へ。
8枚目
琥太郎の声を使った、プロトタイプ作品を作成し、母に聞かせました。
特定の人ではなく、広く誰にでも通じるような音声にするために作ったせいか、母は死を迎えることはなく、ただ優しくなってくれました。
一日中じっとして、優しく私に微笑んでくれます。
琥太郎の声では足りなかったのでしょう。
それは残念ですが、優しくなってくれた母を見ていると、よかったなあと思います。
9枚目
世界に救いをもたらすためには、もっと力のある声が必要なのでしょう。
人間の断末魔。
それも、六人部の人間ならば。
10枚目
千景へ
必要な情報はパソコンに全て残してあります。よろしくお願いします。
1枚目
私の声には人心を掌握する力がある。「まじないの声」と呼ばれ、六人部家の家系の人間はみんなある程度の声を有して生まれてくるが、私の持つ声の力は特に強い、と小さなころから母に言われてきた。
声の力は成長するにつれ自分でも制御できなくなった。
中学校に上がってからは、学校に行くこともやめた。
私が言葉を発すれば、クラスメイトも、教師も、私の言う通りに動いた。
この力は生まれつき備わったものであり、逃れることはできない。
2枚目
ただし、声だけではその力を完全には発揮できない。
小学校のころ、私のことを「気持ち悪い」といった男子に、小さく「死ね」と囁いてみた。彼は呆けたようになり、縄跳びを持ち出し鉄棒に結び付け、首を括ろうとしたが、途中で我に返って逃げ帰ってしまった。
3枚目
母にこの話をすると、私にだけ六人部の秘密を教えてくれた。
弟には内緒だ、と言われたが、すぐに弟にも話した。
弟は六人部の家の人間とは思えないほど、普通の子だ。そんな弟の視点からの話を聞くことを、私はいつも大事にしている。
母によると、六人部の声と、生き物の死の間際の声――断末魔の声を組み合わせることでより強力な力を生み出すことが出来るらしい。
4枚目
弟が野良猫を連れてきた。
長年寝たきりになっていた祖母が死んだ。
5枚目
いつしか、母はこの声の力を使い、人々を救う商売を始めた。
祖母が死んだ理由について、感づいていたのかもしれない。
最後まで母とその話をすることはなかった。
もともとは村の中の相談に乗っていただけだったが、母はインターネット上にサイトを作り、村の外の人からも悩み相談や様々な依頼を受けるようになっていった。
学校に行くのもやめていた私は、母に言われるままに声の力を行使した。
6枚目
「まじないの声」で商売をすることを問題視する声が、次第に村の人たちから上がっているようだ。ときどき、母が村の人たちと対立している声を聴くことがある。門傑の神主さんもいい顔をしていない。
黒煉と六人部は断絶してしまった。
別にそんなことどうでもいいけれど、
うるさくて、静かにしてほしかった。
母が自分の声で村の人たちの考えをどうにかすればいいのに、母にはそれほどの力はないようだ。母は私に村の人をどうにかしてほしかったようだが、私はそれを拒絶した。
依頼は、ひっきりなしにやってきた。
断末魔の声を用いた力を使うことはほとんどなかった。
それでも、3度ほど、その力を使ったことがある。
誰もいない山の中に入り、生きものの断末魔の声と私の声を録音し、それを依頼者に渡す。
依頼者からは感謝の連絡が届いた、と母から聞いた。
7枚目
世界の人々はこんなにも苦しんでいます。
なのに、わたしはこんな小さな田舎で、母の言われるままに声の力を使っています。
千景が久々に帰ってきて、私のことをほめてくれました。
人を救うのはいいだ、と千景は言いました。。
千景がそう言うのならば、きっとそうなのでしょう。
もっと、救いを。
この苦しみに満ちた次元から、次の次元へ。
8枚目
琥太郎の声を使った、プロトタイプ作品を作成し、母に聞かせました。
特定の人ではなく、広く誰にでも通じるような音声にするために作ったせいか、母は死を迎えることはなく、ただ優しくなってくれました。
一日中じっとして、優しく私に微笑んでくれます。
琥太郎の声では足りなかったのでしょう。
それは残念ですが、優しくなってくれた母を見ていると、よかったなあと思います。
9枚目
世界に救いをもたらすためには、もっと力のある声が必要なのでしょう。
人間の断末魔。
それも、六人部の人間ならば。
10枚目
千景へ
必要な情報はパソコンに全て残してあります。よろしくお願いします。



