「毒キノコによる集団食中毒……?」

 「と、新聞には書いてあっけど、結局原因は不明だ」

 新聞に書かれた文章を、霧谷はもう一度読み直した。「症状や状況から、毒キノコによる集団食中毒の可能性が高い」と書いてある。それよりも、おかしなことがある。
 20**年4月30日朝に六人部千里とおそらく彼女の母である六人部万里が亡くなっている。しかし、「unknown:あなたが聴く最後の音声」の発売日は、20**年5月31日だ。
 六人部千里が死んだ一か月後に、発売されている。
 これはどういうことだろう。「聴いたら死ぬ催眠音声」の作者は六人部千里ではないのだろうか。
 混乱しながらも、霧谷は管理人に新聞の一部分を指さして尋ねる。

 「この、重症の千景さんというのは……?」

 「ああ、千里の双子の弟だ。あれから結局村には帰ってくることはねがっだ」

 そう言うと管理人は遠い目で天井の方を見上げた。先ほど出会った老婆も六人部について、「みんな死んだ」と言っていた。
 管理人は霧谷から新聞を取り上げると、「まあ、もういいんでねが? 六人部について大体わかっただろ。そろそろ時間だし、おめさん、夕方のバスで戻るんでねな? 乗り遅れだら大変だ」と言う。
 スマホを取り出して確認すると、時刻は16時2分前だ。
 民俗資料館は、16時まで――と入り口に書いてあった。

 「あっ、すいません。いろいろとありがとうございました」

 霧谷は頭を下げると、荷物をまとめだした。
 毒キノコによる集団食中毒。
 食中毒の主な症状と言えば、嘔吐や下痢、だろうか。どこかでそんなことを読んだ気がする。

 「あっ」

 霧谷は思わず声をあげる。

 「どした?」

 「いえ……」

 嘔吐や下痢。
 そうか、頭の中に引っかかっていたのは、例の「聴いたら死ぬ催眠」こと「unknown:あなたが聴く最後の音声」を聴いた、キャロットくるりのブログだ。

 ――全身から液体が溢れ出てきます
 ――涙も、汗も、よだれも、吐瀉物も、精液も、尿も、無意識に垂れ流されてしまっています

 まさか、な。