「まじないの声……」

 霧谷絋一は、古びた紙面に刻まれた「六人部家の記録」の文字を追いながら、思わず声をあげた。
 美しく、人を操る声――まさに、催眠音声そのものではないか。

 資料をむさぼるように読みふけっていると、不意に背後から声がした。

 「六人部の資料は、それぐれえしか、ねなだ。書いてあることは、まあまあ本当だ。俺だって六人部の声は聴いたことがある。テレビの中の女優さんなんか比べ物になんねぐれえ、きっれいな声しでたっけぇ」

 突然の言葉に驚きながらも、霧谷は声の主――管理人らしき男性を振り返った。その言葉が方言混じりで少しわかりにくかったが、「それぐれしがねなだ」という部分は、「それくらいしかない」という意味だろうと察する。

 霧谷は息を飲む。千璃ぬる――いや、六人部千里のその声の力が、例の催眠音声にも使用されたのだとすれば……。

 「あの、管理人さん。六人部の家のみなさんは、なぜ亡くなってしまったんでしょうか……?」

 霧谷の問いに、管理人は一瞬、顔をしかめた。しかし、次の瞬間には深い溜め息をつき、肩を落とした。

 「まあ、おめさんは真剣なようだし。ちょっと待ってなさい」

 彼は資料館の奥にある管理人室へと向かい、しばらくすると、黄ばんだ古い新聞を手に戻ってきた。その新聞は、端がわずかに破れ、時間の経過を物語るように色褪せていた。

 「これ、読んでみなさい」

 管理人が静かに手渡してきた新聞を受け取った瞬間、霧谷はその重み以上に、中に秘められた過去の闇を感じ取った。