六人部の興り
　寛永六年（1629年）、六人部家の祖先が黒煉村に現れた。
　黒煉村における六人部家の興りは、寛永六年（1629年）に一人の女が村を訪れたことに端を発する。この女の名は伝わっていないが、彼女が「六人部」と呼ばれる家系の初代となったとされている。

　当時、黒煉村は豊かな鉄鉱石の産出によって栄えていた。しかし、村に埋蔵されていた鉄鉱石は次第に減少し、村人たちは鉱脈を探す術もなく困窮の兆しを見せ始めていた。そのような状況下で村を訪れた女は、占いによって新たな鉄鉱石の在処を正確に言い当てた。その占い見事に的中し、村人たちは驚愕するとともに、彼女の力に深く敬意を抱くようになった。

　占術と呪術による支配
　六人部家の初代は占術だけでなく、呪術の使い手でもあった。村人たちは彼女の助言を頼る一方で、その力を恐れたとも伝えられる。六人部は村の鉄鉱石採掘を支配する立場となり、その影響力を背景に村の指導的地位を築いていった。しかし、彼女の異様な力を恐れ、あるいは反発する村人たちの一部は、次第に村を離れるようになっていった。この頃より黒煉村は少しずつ過疎化の兆しを見せ始めたとされる。

　六人部の「まじない」
　六人部の初代が持っていた最も特異な力は、「その声」にあったと言われる。彼女の声は尋常ではない美しさを持ち、人ならざる存在の言葉を聴き取る能力を備えていたという。その声で歌や言葉を発すると、人々は魅了され、心を奪われた。この「まじないの声」は彼女の呪術の中心にあったと考えられる。

　以降、六人部家に生まれる者たちは皆、この「まじないの声」を受け継ぐとされる。その声の美しさは恐れと敬意をもって語り継がれ、村人たちは彼らに深く依存しつつも距離を置くようになった。

　旅の僧の逸話
　六人部の力を怪しみ、その正体を確かめようとした者も少なくない。その中でも有名なのが、ある旅の僧にまつわる逸話である。彼は六人部家に一晩泊まり、彼女の力を見極めようとした。しかし、その美しい声に完全に魅了され、翌日には僧職を捨てて六人部家に仕え始めたとされる。その僧は以後、六人部家の護り手として一生を終えたという。

　六人部家と黒煉村の未来
　六人部家の興隆とともに、黒煉村の歴史は大きく変わった。彼らの力は村の発展を支える一方で、恐怖や反発を生み、村の過疎化を招く一因ともなった。この奇妙な均衡は、六人部家が村に根を張り続ける限り、未来永劫語り継がれることだろう。