彼は六人部家の屋敷の正門へとたどり着いた。
周囲は高い塀に囲まれ、目の前に立つと中を伺いみることが出来ない。神社はここよりも少し高い位置にあったのか、庭の中を少し伺いみることが出来た。
門に目をやれば、鉄の金具が錆びつき、年月を感じさせた。門の上部には、かつて鮮やかだったであろう「六人部」の表札が色褪せた状態で掲げられていた。まるでここが長い間放置され、忘れ去られてきた場所であることを象徴しているようだった。
霧谷は門に近づき、その表札をそっと撫でた。触れた感触はザラザラとしていて冷たく、まるでそれ自体が「近寄るな」と警告しているようだった。
「これが……六人部家……。」
霧谷は一歩下がり、門の前に立ち尽くした。風が吹き抜け、木々の葉がざわめく音が耳に届く。どこかで幼い子供が遊んでいるのだろうか、細く、小さく甲高い歌声がうっすら聞こえる。
何度も何度も繰り返し読んだせいで、すっかり覚えてしまった千璃ぬるのブログが頭をよぎる。
――庭はやけに静かで、虫の声さえも消えてしまいました。
――庭に琥太郎の墓を作りました。なんとかもってくれてよかったです。
――焼いて塩でいただきました。
風が吹き抜け、木々の葉がざわめく音が耳に届く。その音だけが、彼とこの屋敷を繋ぐ唯一の「命あるもの」のように感じられた。
彼は決意を込めて呟き、門を押そうと手を伸ばした。
門は重く、予想通りびくともしなかった。鍵がかかっているのだろう。
「そりゃそうだよな」
霧谷はがっくりと肩を落とす。
しかし、落ち込んで時間を浪費するわけにはいかない。
スマホを取り出し、六人部家の写真を何枚か撮る。門、高い塀、表札。そして六人部家の門から立ち、逆に彼らが家から出た時の視線の写真も撮っていく。
門傑神社が見える以外は、近くには民家もない。整備されていない道路と、見渡す限りの打ち捨てられた田畑。
ここは、終わった場所なんだ。
唐突に霧谷の頭にそんな言葉が浮かんだ。



