「犬神様、そんなことを言ったら可哀想ですよ。マーブルくんも不安になるじゃないですか」
私が嗜めると、犬神様はフンと鼻を鳴らして腕組みする。
「こいつにはこれぐらい言い聞かせておいた方がいい。自分の飼い主のことも心底舐め切っているようだからな。あんまり余裕ぶっていると足元をすくわれる典型的な勘違い猫だ」
三毛猫はうにゃうにゃと何か反論していたので、それも猫神様が通訳してくれる。
「『あんな色気のカケラもない女に男ができるはずがない。それに今頃は吾輩を探して慌てふためいているだろう。新しい猫なんざ迎え入れる余裕はないはずだ』……とのことです」
改めてマーブルくんの言い分を聞いてみると、確かになかなかの自信家だった。
それに飼い主さんに対する評価も辛辣で、これでは犬神様が横槍を入れたくなる気持ちもわからないでもない。
犬神様とマーブルくんが睨み合っている隣から、猫神様は「まあまあ」と穏やかに割って入る。
「とりあえず今は、マーブルさんのお家の場所を突き止めるのが先決でしょう。飼い主さんのことは、本人に直接お会いすればわかることです」
二人とも返事をしなかったので、代わりに私が「そうですね!」とちょっとだけ声のトーンを上げて応える。
すると、ようやくマーブルくんは猫神様の方へ視線を向けた。
「それでは、マーブルさんにお聞きしますね。あなたは天狗に攫われる際、窓辺にいたそうですが……その窓から見えた外の景色のことは覚えてますか?」
「うにゃにゃ、にゃにゃ」
また猫語で喋られて、私だけが会話に置いてけぼりになる。
さすがにここで話の腰を折るわけにはいかないので、会話が一段落するまで私は大人しくしていた。
最終的に、猫神様は五分とかからずマーブルくんの家の場所に目星を付けることができた。
「窓の外に見えた景色は、車道と、その向こうに教会があったそうです。建物の屋根には十字架が立てられてて、この十二月に入ってからは夜はイルミネーションも始まったようですね」
マーブルくんから聞き出した情報を、猫神様は改めて私に説明してくれる。
「車道沿いには他にも洋風の建物がいくつも並んでて、最近は夜の人通りが特に多くなってたそうです。クリスマスのイルミネーションで、多くの人が訪れる場所のようですね」
教会や洋館が建ち並び、煌びやかな光に包まれる光景。
想像しただけでもうっとりするような雰囲気だ。
「この京都のどこかに、そんな場所があるんですか?」
私が尋ねると、猫神様はこくりと頷く。
「おそらく、『北山ウエディングストリート』でしょう。この先斗町からずっと北へ行った所にあります。教会や結婚式場が並んでて、とても素敵な雰囲気の所なんですよ」



