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うにゃうにゃと幸せそうな声を漏らしながら、三毛猫はごはんを完食した。
徹頭徹尾、私の膝の上で。
「さて、それでは三毛猫さん。まずはあなたのプロフィールを伺いましょか」
猫神様はいつもより微妙に低い声でそう声をかける。
対する三毛猫は、けぷ、と小さなゲップで返事をしてから何やら語り始めた。
「うにゃにゃ。にゃあ、にゃあ」
私にはただニャーニャーと鳴いているようにしか聞こえないので、内容は理解できない。
「なんて言ってるんですか?」
会話が一度途切れたのを見計らって、猫神様に尋ねた。
「そうですね……『吾輩の名はマーブル。誇り高き日本男児だ。生まれはどこだかとんと思い出せぬが、気づいた時には冴えない人間の女と二人で暮らしていた』とのことです」
「い、意外と渋い口調なんですね」
自分のことを『吾輩』だなんて、まるで『吾輩は猫である』の主人公みたいだ。名前は付けられてるみたいだけど。
「家の中の様子を聞く限り、マンション暮らしのようだな」
と、今度は犬神様が言った。
「えっ。犬神様も猫ちゃんの言葉がわかるんですか?」
「当たり前だろう」
どうやら聞き取れないのは私だけらしい。
猫神様には申し訳ないけれど、マーブルくんの話の内容が私にもわかるよう、続きも通訳してもらうことになった。
曰く、マーブルくんはこれまで一度も家の外に出たことがなかったそうで、自分の住んでいた場所がどの辺りになるのかは見当もつかないという。
「そうなんだ。……あれ? でもそれじゃあ、天狗に攫われた時はどういう状況だったの?」
私が尋ねると、猫神様が間に入って通訳してくれて、三毛猫がまたうにゃうにゃと答える。
彼を攫った天狗は無類の猫好きで、たまたま窓際で丸くなっていたマーブルくんに一目惚れしたらしい。
誘拐は計画的なものではなく、あくまでも衝動的に行われたもののようだった。
「……『一緒に住んでいたあの女は、色恋どころか友人とも無縁の寂しい女だった。きっと今頃、吾輩がいなくなってさぞ寂しい思いをしていることだろう。早く帰ってやらねばならん』」
飼い主さんを安心させてあげたい気持ちは私も同じだった。
けれど、それまで黙って話を聞いていた犬神様が横から茶々を入れる。
「わからんぞ。その人間の女も案外諦めが早くて、今頃は別の猫を家に迎えているかもしれん。あるいは人間の男を招き入れている可能性だってあるぞ」
そんな意地悪な意見とともにフッと鼻で笑った犬神様に、マーブルくんは「フーッ!」と毛を逆立てて威嚇する。
犬神様がなぜマーブルくんに嫌われているのか、その理由がよくわかるやり取りだった。



