木製のスプーンをシチューに沈めてみると、見た目以上に具がゴロゴロしているのがわかる。
にんじんに大根、ゴボウにレンコン、お肉は豚肉で、さらにはブロッコリーや豆腐も入っている。
(本当に具沢山だ……)
今回は西京味噌でアレンジしていると猫神様が言っていた。
私が普段食べているシチューとは似ても似つかなくて、一体どんな味がするのだろうかと期待が高まる。
ほかほかと湯気の立つそれをスプーンですくい、何度か息を吹きかけてからようやく口へ流し込む。
すると、まろやかなシチューの奥にほんのりと甘いお味噌を感じて、たまらず笑顔になった。
「……おいしい!」
もはやこの場所で何度口にしたかわからないワード。
猫神様の手料理をご馳走になる度、私はいつも同じ反応で幸せを噛み締める。
「お口に合って何よりです。……ところで、三毛猫さんのご飯なんですが。野菜とお肉を茹でてみたんですが、いかがでしょう?」
猫神様はポンッと白煙を上げて、まるで手品のようにそれを手元に出現させた。
プラスチック製の丸いお皿に、細かく刻んだにんじんや豚肉の茹でたものが乗せられている。
三毛猫はちらりとそれを一瞥すると、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。どうやらお気に召さなかったらしい。
あらら……と私が肩をすくめていると、座卓の向こうから犬神様の声が届く。
「そいつは現世で売られているキャットフードじゃないと食べんぞ。それもちょっと値が張るものを要求してくる」
言いながら、彼は懐から一つの缶詰めを取り出した。
途端に三毛猫はピコンと両耳を立てて犬神様の顔を見上げる。
「すごい。早速反応してますね」
缶詰めのパッケージを見ただけで、この食いつきよう。
猫神様は手元のお皿をポンッと白煙とともに消失させると、「最近の猫さんは贅沢ですね」と珍しく不服そうだった。
犬神様が缶詰めの中身をお皿に移していると、三毛猫は待ちきれない様子で私の膝をふみふみする。
「できたぞ。食え」
犬神様はそうぶっきらぼうに言って、畳の上にお皿を置く。
対する三毛猫はじっとそれを見つめてはいるものの、私の膝の上から動こうとしない。
「どうしたの。お腹空いてないの?」
私が問いかけると、三毛猫はお皿を見つめたまま「なぁん」と一声鳴いた。
「お皿をもっと近くへ持ってこい、と言うてますね」
隣から猫神様が代弁して、私はびっくりした。
「えっ。猫神様、もしかして猫ちゃんの言葉がわかるんですか?」
「私も猫ですからね」
言われてみればそうか、と思いつつ、三毛猫の横柄な態度に改めて驚かされる。
「三毛猫ちゃん、自分で動く気はないんですね。私、ちょっとだけ足がしびれてきちゃったかも……」
あはは、と苦笑する私の隣で、猫神様は依然として不満そうな顔で三毛猫を見下ろしていた。



