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四条大橋を渡り終えてすぐ、北へ入ったところに先斗町はある。
幅が二メートル程しかない石畳の道。その両脇には紅殻格子の美しい京町家が並んでいる。
その途中、とある角を右へ曲がると、現世と幽世との境目である『狭間の空間』へとたどり着く。
猫神様がいつもいるのは、この不思議な場所だった。
「お昼にシチューを煮込んだんです。たっぷりあるんで、お二人ともよかったら召し上がってってください」
長い路地の先に待っていた格子戸を開け、猫神様は私たちを中へ招き入れた。
まるで老舗旅館のような広い土間へ足を踏み入れると、途端にクリーミーで美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。
「洋食……って、珍しいですね?」
猫神様の手料理は和食のイメージが強い。
シチューを作るのは意外だと思って、私は彼の顔を見上げた。
「今はクリスマスシーズンですからね。桜さんにも喜んでもらえるかと思って、色々とアレンジしたものを作ってみてたんです」
私が喜ぶかと思って——そんな殺し文句のようなことをさらりと言われて、私は妙に意識してしまう。
きっと、彼の言葉にはそこまで深い意味はないのだろう。
なのに変な勘違いをしてしまいそうになっている自分が恥ずかしくて、私は頭を振った。
「そ、そうだったんですね。私もシチューは大好物なんです!」
「それは良かった。今日は西京味噌でアレンジしてますが、お口に合えば嬉しいです」
猫神様が変わらぬ調子でふわりと微笑んだので、私は内心ホッと息を吐いた。
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通された座敷で、私は三毛猫を抱えたまま座布団の上に腰を下ろした。
座卓を挟んだ向かい側には犬神様がどかりと胡座をかく。
しばらくすると、ほかほかと湯気の立つ盆を持った猫神様が部屋に入ってきた。
「熱いんで気をつけてくださいね。特に犬神様は猫舌でしたっけ?」
「貴様にだけは言われたくないな、猫」
冗談なのかそうでないのかわからない二人のやり取りを耳にしながら、私は膝に乗せた三毛猫の頭を撫でていた。
それまでゴロゴロと喉を鳴らしていた三毛猫は、部屋に充満したまろやかな香りにすんすんと鼻をひくつかせる。
テーブルの上に並んだのは、白い湯気の立つ具沢山のクリームシチューと、赤と緑の色が映えるサラダ、それからこんがりと焼き色のついたフランスパンのスライスとターキーレッグ。
いかにもクリスマスらしいラインナップに、私のお腹もすでに浮き立っている。
「どうぞ。冷めないうちに召し上がれ」
猫神様の穏やかな声を合図に、私と犬神様は同時に「いただきます」と手を合わせた。



