◯
翌朝も、まだ雨が降っていた。
落葉を促す冷たい雫は、京の街全体を冷気で満たしていく。
予報では昼過ぎごろから晴れ間が見えてくるらしい。
雨が上がったら、猫神様が私を迎えに来てくれることになっている。
正午過ぎ。自宅で昼食を済ませると、私は部屋の窓越しに外を眺めた。
一面灰色だった空も、今朝に比べればわずかに光を取り戻しつつある。
(もうそろそろかなぁ)
そっと窓を開けて手を差し出してみると、小粒の雨が肌の表面を打った。
あともう少し。
いつでも外出ができるように、私は身支度を整える。体が冷えないように、温かい上着を羽織って、その上から例のストールを首に巻く。
猫神様にもらった白いストールだ。やわらかな肌触りで、お日様の匂いがする。
(いいにおい……)
猫神様の背中に乗ったときに感じる、干したてのお布団みたいな匂い。
彼のふわふわの体毛に包まれているときのことを思い出して、それだけで胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
「あ……」
再び視線を上げると、窓越しに見える雲の切れ間から、幾筋もの光が差し始めた。
天から地上へと降り注ぐ、光の柱たち。
「……きれい」
雲の向こうから、太陽光線が放射状に漏れている。
この美しい光景を、昔の人は『天使の梯子』と名付けたらしい。
そんな神秘的な景色につい見惚れていると、やがて視線の先に、見覚えのある獣の姿が現れた。
白い体毛に覆われたその巨獣は、猫神様だ。
「猫神様!」
彼が迎えに来てくれたのが嬉しくて、私は窓から身を乗り出して手を振る。
すると、彼の背中から緋彩さんがぴょこりと顔を出して、上品な動作でこちらに手を振り返してくれた。
雨上がりの空を優雅に駆けるその美しい姿は、まるで聖獣に乗った天女のようだった。
◯
京都の上空を浮遊しながら、私は昨夜茜さんと話した内容を二人に伝えた。
「西山ですか。なるほど……」
猫神様は私と緋彩さんを背中に乗せたまま、納得したような声を出す。
私の隣で話を聞いていた緋彩さんはまだ状況が飲み込めていないようで、不思議そうに瞬きを繰り返していた。
そんな彼女に、私は語りかける。
「緋彩さん。前世のあなたは、重い病を抱えていたんですよね。それにあなたが捜している男性も……。なら、あなたたち二人が一緒に出かけようとしていたのは、できるだけ静かに紅葉を鑑賞できる場所だったんじゃないですか? 体に負担がかからないように、人混みを避けて、紅葉の名所の中でも穴場と呼ばれるスポットに行こうとしていたんじゃないでしょうか」
そう話している間にも、猫神様は西に向かって進んでいく。
遥か遠い地上では、少しずつ緑の割合が増えていく。



