「で?上手く潜入出来たはいいけどこれからどうすんだ?」

愁は高そうなスーツに身を包み、仮面を付け、片手には赤く染まった異様な匂いが漂うワイングラスを片手に壱夜に話しかける。

「さぁ?海偉が何処にいるかだよね〜」

壱夜も愁と同様にスーツと仮面で身を包みワイングラス片手に広い部屋の片隅に身を寄せていた。
ただ広い部屋にはいくつかの丸いテーブルの上には豪華な食事が並びウエイトレスが飲み物を運ぶ。皆仮面を付けており、誰が誰かなんて区別は付かない。ただ招かれているもの達は皆装飾品が豪華だった。一般人ではないのは明らかだった。

「なぁ、壱夜」
「んー?」

愁はワイングラスに入った赤い飲み物をじーっと見つめる。

「これおかしくね?」
「…だね」

血なんてここではそんな珍しいものでもない。
ただ愁はこの血だけはおかしいと思った。
通常この【リデルガ】で流通している血液は人間の血を薄めたものしかないはずだ。
血を提供してくれている人間種の健康のためにも採取する血液量は決められている。
だがそれだけでは【リデルガ】の人々の飢えは凌げない。その為血液は薄められ提供される…のだが…。

「これ、原液だぞ」

愁の一言に壱夜の顔は険しくなる。
おかしい、原液なんてこの【リデルガ】で流通している筈がない。

-ここでは何が起きているんだ?

するとパッと目の前が光り、愁も壱夜も目を細める。
目の前にはゆっくりと大きなスクリーンが現れる。

『さぁさぁ皆様お待たせ致しました!これより鬼ごっこを初めます』

部屋中に響いた声と鬼ごっこという意味深な言葉。

『プレイヤーとなり参加される方は2階、朱の間まで起こし下さい』

「…プレイヤー…?」

壱夜はボソッと呟く。

『それでは開始までもう少々お待ち下さい』

「…愁どうする?」

壱夜の言葉に愁は考える。
何が行われるか分からない以上踏み入れるのは危険なのではないか…愁は頭を悩ませる。

「私が行く」

その声に愁と壱夜は後ろを振り返る。

「…陸、玖」
「…陸玖…?なんで」

そこには陸玖の姿があった。
黒いタイトなドレスと仮面に身を包み長い髪は頭の上で1つに束ね立っていた。

「あの暴君野郎が行けって」

-暴君野郎って…御影?

「ちょっ、お前ここがどういう場所か分かってんのか!?海偉にこんな事バレたら俺ら殺されるんだけど!?」
「そうだよ!危険だ!陸玖!今すぐ帰った方が…!」
「大丈夫、私強いから。じゃっ、行ってくる」

そう言って部屋を出ていこうとする陸玖の肩を掴もうとする愁。
その瞬間パシンっと手を振り払われる。
陸玖と目が合った愁はその強い瞳に何も言えなかった。

「…はぁ…もう。」
「…愁?」
「分かった。俺が行くよ、壱夜はここで待機。俺らに何かあったら御影に連絡して」
「…俺も!」
「いや、何が起こるか分からない。ひとりはここにいた方がいいだろう」
「………」
「頼んだ」

壱夜を残し部屋を出た二人は2階へと続く階段へと急いだ。







2階へ続く階段を上り、陸玖は先程の御影との会話を思い出していた。


コンコン…
琉伽は部屋で談笑を続けていると部屋の扉を誰かがノックをした。

「はい」

琉伽が陸玖の代わりに返事をする。
キィーと遠慮がちに開いた扉の先には御影の姿があった。

「…御影」

琉伽がボソッと呟く。
御影は何も言わず部屋に入り1枚の紙を陸玖に渡した。
陸玖はその紙を受け取り、開く。
そこに書いていたのは何処かの住所と時間が記されていた。

「…これ」
「服は正装、仮面を忘れるな。」

御影の一言に琉伽は動揺を隠せない。

「御影!これ!」

御影は琉伽の言葉を気にも止めず部屋を出て行った。
陸玖は御影の背中をじっと見つめていた。

「…陸玖ちゃん、これ…」
「…ここにお兄がいるかもなんだよね」
「……っ、でも危険だよ。何が起こるか…」
「行くよ。私、行くよ」
「…陸玖ちゃん」

それ以上琉伽は何も言わなかった。


そして今陸玖は海偉がいるであろう屋敷に潜入している。何が起こっても私は絶対お兄を見つけ出し助ける。
その思いだけが陸玖がつき動かしていた。

「ついてこなくて良かったのに」
「そういう訳にもいかねーだろ。女の子ひとりで」
「…女の子って…。私ハンターの一族何だけど?」
「そりゃ分かってますよー。いや、なんかさー」
「なに?」
「ひとりで行かせたなんて知られたら琉伽に何されるか…」
「…なんであいつが出てくるの?」

その言葉に愁はきょとんとする。
その顔を見て、陸玖は眉間に皺を寄せる。

「…え、なに?どういう事?」
「…いや、なんでもねーわ。忘れて」

-こいつ何も気づいてねー!!

琉伽の陸玖に対する行動は傍から見ていたら感が良い奴はある程度分かるあからさまな行動だ。
当の本人が気づいてないとは…。
案外陸玖は鈍感なのかもしれない…と愁は思った。