みんなと同じが良かった。
ただそれだけだった。
同じように朝起きて朝日を浴びる、顔を洗って歯を磨いて朝食を食べて元気よく学校へと登校する。

何気ない変わらない毎日をただ友達とくだらない話をして、時に恋をして10代ならではの青春を送る。ただそれだけが欲しかった。
特別な事はいらない。
他の子と同じように普通に生きてみたかった。

私はずっと゛普通゛に憧れては゛普通゛に目を瞑る。
それが私に出来る唯一の生き方だった。

(つばさ)、どうか気をつけて」

もう、何度目だろうか。彼女がこの言葉を聞くのは。物心ついた時にはもうこの言葉を腐るほど聞いた。彼女の場合、母親が子どもの身を案ずるよう言い聞かす言葉ではなかった。

゛彼女゛が他の子どもを危険に晒さないよう心配された言葉だった。
(つばさ)はもうその事が分かっていた。
いつの日からか、気づいてしまっていた。
だからもうその言葉には反応しなくなっていた。

「…行ってきます」

(つばさ)は玄関で靴を履き、玄関のドアノブの手をかける。
後ろには見送る母親の姿があったが、(つばさ)は振り向きもせず光の中へと足を踏み入れた。どうせ、見送るの母の顔を見ても良いことはないから…。

家から一歩外へ出ると、自然の空気が鼻を掠める。見上げた空は青く太陽の光が煌々とさしていた。鳥が気持ち良さそうに舞う。
自由に空を翔ける鳥は何処までも行ける翼があって羨ましい。
(つばさ)は鳥を眺め思っていた。

あと何回この青い空を見上げる事が出来るのだろうか…と。

「…ぁ」

(つばさ)は小さな声を上げる。
自由気ままに空を謳歌していた鳥はバチンッという音ともに落下した。
何処までも行けるなんてお門違いだ。
ここは゛鳥籠゛区切られた片方の世界だ。

ここは世界を二つに分けた境界線付近、見えない壁、通称結界によって隔てられている。
その結界に触れると電気が走ったような衝撃により負傷する。最悪鳥のように命を落とす事となる。

その隔てられた人間種側の世界を通称【リアゾン】
人間は向こう側を通称【リデルガ】と呼んでいた。交わることの無いふたつの世界。
【リデルガ】に住んでいるのは吸血種(ヴァンパイア)のみだからだ。

世界は今、人間種と吸血種(ヴァンパイア)によって二分されていた。