タイトルは[好きという感情の正体]とかにしよう。少々くすぐったいくらいがいいだろうから。久々に原稿用紙にペンを滑らせる。久しぶりだからちょっと緊張してきたな、緊張なんてしなくてもいいはずなのに。
さぁ、書こう。

あれほど好意という感情から避けて、逃げ続けて来たのにその結果がこれだと少し味気ない。二年以上も恋から逃げてきた。

私は、もうわからない。恋する気持ちも恋される気持ちも。
他人の目なんか気にしないで生きていきたいのに。
私はまた助言を人に与えては成就を願う。
また私だけ置いていかれる。仕方ないことだ、自分から送り出しているんだから。
別にこれが間違っているとは思わないし悪いことじゃないと思う。幸せになってほしいと願っているから。相談役を務めては傷口に絆創膏を貼り付けて言葉で和らげる。そうしている私もそろそろ報われてもいいんじゃないかと思わないでもないわけで。恋仲になんてなれなくたって別にいいんだけどって言ってみるけれど、やっぱり寂しいんだよね。他人が幸せになれて私は独りだねって夜な夜な考え続けて眠れないんだよ。
そして、考えついた答えが憧れと尊敬。

好きという情の答え=憧れと尊敬それと純粋な好意じゃないのかな。
"好きで好きでたまらないあなたのことが本当に好きなのか分からなくなっちゃったけれど、私はあなたを嫌いになれそうにありません。あなたに関心をなくしてしまったようです。人に興味を持たなくなり私は空っぽで次は誰を好きになるのでしょうか。「好き」というの感情の答えを私に教えてください。"

私は原稿用紙に好きだった人を自分から遠ざけた過去の自分を悔いながらあの頃に口から発した言葉を一言一句違わず綴った。


これは亜紀ちゃんに黙って始めた執筆活動の一環で私の本心は関係ないはず。彩世楓<あやせかえで>の話だから。
あの頃の間違いを正すことはできないけれどまた探していきたい、彩世の仮面を被って恋愛のあれこれを見つけていきたい。
十七歳になった今ならもう一度向き合えるはずだから。
あの日秋の夕暮れに感じた「いいな」の気持ちを忘れなければまた前を向ける気がする。


これは序章にすぎないよ。綾瀬楓梛が彩世楓として恋心をもう一度探していく。恋が来ないならこっちからお迎えに行ってあげましょう。
今度の恋愛は一期一会の奇跡よりもっと先に進みたい。