けれど結果は同じだった。
何度点火しようとしても空振りを繰り返す。
「お願いついて。お願いだから!」
懇願するようにきつく目を閉じてライターを点火する。
その瞬間たしかなぬくもりを指先に感じて息を飲み、目を開けた。
ライターの先からオレンジ色の炎が上がっている。
「火だ……」
男の子が呟くのが聞こえてきた。
真由はその火を決して消さないように大切に枯れ葉に近づけていく。
枯れ葉はすぐに燃え上がり、それは大きな炎になって子どもたちを暖めはじめた。
「あぁ、あったかい」
「あったかい」
「あったかいねぇ」
そんな声があちこちから聞こえてくる中、真由は振り向いて大翔を見た。
大翔は倒れていて動かない。
「大翔」
呟いてそばへよろうとしたとき、急に視界が揺らめいた。
その場に立っていることができなくなって倒れ込む。
そして意識を手放したのだった。
「うぅ……」
あまりの頭痛にうめき声を上げて目を覚ましたのは真由だった。
うっすらと目を開いた真由の視界に最初に飛び込んできたのはオレンジ色の光で、それがなにか理解するまで少しの時間が必要だった。
「ここ、テントの中?」
上半身を起こしてみると狭いテントがガサガサと音を立てる。
横を見ると海パン姿の大翔が横になっていた。
「大翔、ねぇ起きて!」
肩を揺さぶると異様な冷たさを感じてすぐに手を引っ込めた。
「ねぇ、大丈夫なの?」
そっと顔を近づけたとき、大翔の長いまつげが揺れた。
「真由?」
大翔もひどい頭痛がしているのか、顔をしかめて自分の額を押さえた。
「ここってテントの中だよね? 私達いつの間にこっち側に戻ってきたの?」
混乱しながら質問するが、大翔も記憶がないようで左右に首をふるだけだった。
頭痛が治まるのを待ってからテントの外へ出ると、外はまだ明るくて木々の間から太陽のゆらめきが落ちてきている。
「玲央奈と泰河は?」
テントの外を歩いてみてもふたりの姿は見当たらない。
「捜さないと」
大翔がそう呟いて荷物の中からスマホを取り出す。
と、そのときだった。
川の対岸へ目を凝らしていた真由が「あれ!!」と、大きな声を上げた。
「どうした?」
「村が……」
そう言ったきり絶句してしまう。
川の向こうにあった簡素な村は跡形もなく消え去り、そこには古い木が何本も地面から突き出ていた。
そのひとつひとつになにか書かれているようだけれど、ここからじゃ読み取ることはできなかった。
「あれって、墓じゃないか」
「うそ……」
家があった場所に立つ簡素な墓の間に玲央奈と泰河が倒れているのが見えた。
「玲央奈!!」
咄嗟に川に入ろうとする真由の腕を大翔が掴んでとめた。
「向こうに行っちゃダメだ」
強い口調で言われて息が止まる。
次にあの村へ足を踏み入れれば、今度こそ戻って来られなくなるかもしれない。
「こっち側は電波がある。警察を呼ぼう」
大翔は静かな声でそう言ったのだった。
☆☆☆
ふたりの大学生が山の中で変死したニュースは一時世間を騒がせた。
真由と大翔のところにも何人ものマスコミがつめかけてきて、しばらく大学へ行けない日が続いたほどだ。
それもどうにか収まったころ、ふたりは並んで構内を歩いていた。
「今度の論文テーマ決めた?」
「あぁ、一応な」
「私も決まった。じゃあ、せーので発表しようよ」
「いいよ。せーのっ『大麻の常習性とその怖さについて』」
「『自己愛性パーソナリティについて』」
互いに目を見交わせて笑い合う。
「真由はもうSNSをやめたんだろ?」
「うん。さすがにあんな経験のあとじゃ続ける気がしなくて。今でもあんな風に捨てられてる子がいるかもしれないと思うと……」
「だよな。俺もこの論文を書き終わったら、薬物更生施設に入ろうと思ってる」
「でも、それってあの子たちに教えられたことだから、他にもやるべきことがあるよね」
「それってなんだ?」
「あの山で起きた子どもたちの悲劇を風化させないこと。そのために私は論文を2作品作るつもり」
よく晴れた空の下、ふたりは外へと歩き出したのだった。
END