「山を登ってきたあとのコーヒーなんて最高だね」
玲央奈がインスタントコーヒーを美味しそうに口に含む。

いつも飲んでいる安物と同じものでも、場所を変え、一緒に飲む人を変えればこんなにも美味しくなる。
真由は設営されたテントと手元のコーヒーをスマホで撮影し、ふふっと微笑む。

真由の密やかな楽しみは自分の日常を切り取ってSNSに投稿することだった。
【大学の友人と山キャンプ! 自然豊かな場所で友情を深めてきました】
なんて見出しはどうだろう。

「ねぇ、川へ行ってみる?」
投稿したときの見出しを考えていると玲央奈がそう提案してきた。

体の疲れも随分取れてきたことだし、ここをキャンプ地として選んだ一番の理由がきれいな川が近くにあるからだった。

最近は雨も振っておらず、水はおだなかに違いない。
「そうだな。さっそく泳ぎに行くか」

真由の提案に大翔がすぐに立ち上がる。
正直言って、ここまで来ただけで全身汗でビッショリだった。