学校に行けなくなって3ヶ月。今日は少しだけ、少しだけ我慢する日。2学期最後のテストを受けるために、教室に入る日。

 わかってはいたけど、やっぱりお腹が痛くなった。山倉桃香は電車の中で暗い顔をしている。夏休み頃から不登校になって、テストのために久しぶりに乗る電車は、揺れが強く感じた。お母さんに車で送ってもらえばよかったと、後悔しながら窓の外を眺める。
(大丈夫、大丈夫。きっとなんともない)
不安な気持ちを抑えるように、心の中で呟いていると、目的の駅に止まった。ガタンッ。桃香はよろけてしまう。家に引きこもって怠けた体幹は、衝撃に耐えられなかった。恥ずかしい。しかし、恥ずかしさでモタモタしている暇はない。早く降りなければ、後ろの人の迷惑になってしまう。もしそんなことになったら、学校に行くどころじゃない。そのまま反対方向の電車に乗って、家に帰りたくなってしまう。桃香は思考を停止して、扉が開いた瞬間にササッと降車した。

ひらひらと落ちるイチョウの葉を踏みながら、駅まで来れたことに安堵する。今年はずっと暑かったからか、イチョウは去年より遅れて染まっていく。一年生のときに比べたら私も、だいぶ遅れている。だんだんネガティブになってきて、せっかく得た少しの達成感は、風に吹かれてどこかに行ってしまった。
(はあ…)
ため息を吐きながら足を動かす。すると、誰かが桃香を追い越した。桃香より速く歩いて、前に進んでい く人はいくらでもいたけれど、その子はやけに目についた。同じ制服だったからだ。
(嘘だ。なんで?)
よく見ると、クラスメイトの男の子だ。桃香は絶望した。電車が止まったとき、よろけてしまったところとか、下を向いて鬱々としていたところとか、見られていたらどうしよう。みんなと時間が被らないように、遅めに家を出たのに。そりゃ、同じ学校の人がいる可能性は頭にあった。でも、同じクラスの人なんて、運が悪い。