都内、高層ビルが連なるオフィス街の一角。
渋い顔をしながら席を立つ男性。上司の席へ向かう。
「笹山さん。今、お時間よろしいでしょうか?」
「大丈夫だよ。なんだい高橋」
パソコンから目を離し、高橋の方を向きながら応える。
「忙しい時期に申し訳ないのですが、来月から育児休暇を取りたいと考えています」
「来月?」
「はい、よろしいでしょうか?……」
「うーん」
渋い顔しながらパソコンに視線を戻し予定を確認する。
「奥さんは育児休暇取らないの?」
「取る予定です。しかし、初めての経験なので自分も傍で支えたいと……」
「うーん、男が育児休暇ってなぁ……」
ため息交じりで応え、背もたれに寄りかかる。
ビー!
社内全体に警報が響き渡る。それと同時に白い服装に仮面を付けた人物が笹山の元へ駆けつける。手には長い銃を抱えている。
「いや、待て! 別に育児休暇を取ってはダメと言っていないだろ!」
笹山は必死に仮面を付けた人物に問いかける。
「男が育児休暇?という発言はパタニティハラスメント。育児関連の制度を利用しようとした際に受ける嫌がらせに該当いたします」
「だからっ! ダメと言っていないだろ! 高橋っ? そうだよな? 分かった分かった! 取っていいよ! 取るべきだ!」
焦る笹山を無視して仮面を付けた人物は銃を構える。
「コンプラ違反をしたので、殺します」
バンッ!という銃声とともに心臓を打たれ、笹山は倒れた。
画面の右端からスーツ姿の男性が現れ正面を向いて語り始める。
「ニューロハーベスト! 私たちは世界に新しい価値を提供致します! 脳の全てのデータを収集、蓄積、分析し、あらゆるデバイスと連携することでまったく新しい価値提供を実現致します。例えば、手足の不自由の方は、ただ手足を動かそうと思うだけで義肢がその通りに動きます。エンタメでは、例えば……そう! お化け屋敷のお客さんの脳に直接声を届けることもできるでしょう。そうなればまったく新しい恐怖体験を実現できます。あなたも我々と一緒に脳が生み出す新しい価値を提供しませんか? ニューロハーベストはあなたの参加を心よりお待ちしております!」
上着がないとまだ少し肌寒いテラス席で、私がこれから就職する企業CMの動画を親友の真奈と一緒に見ていた。再生が終わると同時に真奈が口を開く。
「凄いね。いいなー陽は」
目を輝かして私を見つめている。
「本当、嘘みたい。凄くうれしいけど緊張もしてるかな」
「ニューロハーベストなんて大企業、そう簡単に行けるところじゃないし、もう人生勝ち組ね」
真奈の笑顔が眩しい。まだ入社してないんだけど。
「そんな勝ち組だなんて……優秀な人たちばかりだから置いて行かれないようにするだけで精一杯だよ」
「いい人も見つかるんじゃない?」
「えぇ~どうかなー」
真奈と他愛もない話をしばらくして、日が暮れる前に解散した。
明日からニューロハーベスト。誰もが憧れる大企業への入社。新しい環境。楽しみと緊張と不安がぐるぐる回っている。明日に備えて今日は早めに寝よう。
翌日、慣れないスーツを身にまとい、会社へ向かった。
50階以上もある高いビルの入口に入るとエレベーターホールが4つもあり、これは慣れるまで迷子になりそう。受付を済ませ、綺麗なオフィスを通り、20人ぐらいは入れそうな広い会議室に案内された。ニューロハーベストは全国にオフィスが展開されている。なので、各オフィスでオンラインに繋ぎ入社式、研修は全国同時に行われた。途中休憩はあるものの、3時間以上研修が続いていた。初日で緊張はあるもののずっとパソコンを眺めていると少し瞼が重くなってきた。係りの人も席を外している。きっと他の人は真剣に研修を受けているんだろう。ちょっと気になり、後ろを見渡してみた。予想通りみんな真剣にパソコンを見つめて内容を聞いている様子だ。流石、ニューロハーベストに入社する人たちは違うな……隣の人も真剣に聞いているのだろうと覗いた。すると大きくあくびをしている女性と目が合った。
「あっ……」
思わず、私が声を出してしまった。周りの人たちからの視線を感じる。恥ずかしい……隣の女性は恥ずかしそうにせず、むしろ笑いをこらえている。なんだこの人は。
「あくび見られちゃったね」
私の耳元に近づき、隣の女性が小声で話しかけてきた。研修中にあくびしたり、話しかけたり自由だな。
「すいません。流石に眠くなってきますよね」
とりあえず、応える。
「半分寝てた」
えぇ……いいの?
「眠くならない?」
「まぁ……でも今やっているコンプライアンス研修も大事ですし……」
「コンプラって当たり前のことをただ言っているだけじゃない?」
「まぁ……」
思っていることをはっきり言うタイプの人なのかな。
「ごめんね。話しかけちゃって」
「いえいえ、もう少しですし、頑張りましょう」
「ありがとう」
悪い人ではなさそう……言われてみればこのコンプライアンス研修って何のためにあるんだろう。最近やたらと聞くけど、いつから言い出したんだっけ? まぁ怒鳴られたり、理不尽なこと言われなくて済むならそれに越したことはないけど。って研修聞かなきゃ。
「では、用紙にサインをお願い致します」
いつの間にか係りの人が帰って来ていた。後半全然聞いてない。この後はしっかり集中しなきゃ。
「藤田さん」
会議室の入口から入ってきた黒髪の女性が私の名前を呼んだ。
「はい」
返事をしながら立ちあがる。
「それと、小林さん」
「はい。あ」
さっきの隣の女性も立ち上がった。小林さんなんだ。私は小林さんと一緒に黒髪の女性の元へと移動した。
「私は長谷川沙織です。私があなた達に仕事を教えますので宜しくお願い致します」
私と小林さんはほぼ同時に挨拶をした。長谷川さんは絵に描いたようなキャリアウーマンで美人でかっこいい。こんな女性になりたい。
「藤田さん……だっけ?」
長谷川さんの後を歩きながら小林さんが問いかけてきた。
「あ、はい。藤田陽です」
「ハル? 可愛いね! 私は小林彩花。よろしくね」
「ありがとう小林さん。宜しくです」
「彩花でいいよ!」
笑顔がとても可愛くてさっきのあくびしていた人とは同じに思えない。もう眠気は覚めたのかな? 会議室から出てオフィスの中を少し通ったところで長谷川さんは振り向いた。目の前の机はきれいに整理されている。きっと長谷川さんの席だろう。
「改めて長谷川です。これから宜しくお願い致します」
「藤田陽です。宜しくお願い致します」
「小林彩花です。」
それから私たちは、オフィスの中を順番に案内してもらった。自分の席は用意してあるものの、ほとんどの人が自分の席ではなく、フリースペースやカフェで作業をしているらしい。カフェって何だろう? 長谷川さんの説明は簡潔で分かりやすいけど、淡々と進む感じが冗談とか通じなさそうで、少し怖いかも? 次は上司のところに案内すると言っていた。ちょっと緊張するな。
「飯塚さん。こちら今日からの藤田さんと小林さんです」
「おー! 元気そうな子達だね! 飯塚です。宜しく!」
上司と聞いてたからお堅い50代ぐらいの方と思ったけど、30代……?すぐに出世したってこと? やっぱりここの人たちは凄い方ばかりだ。私は名乗り頭を下げた。私が頭を上げた途端、小林さんは元気よく口を開いた。
「小林です! 飯塚さんっておいくつですか? お若いですよね?」
やっぱりこの人思ってること口にしちゃうタイプだ。
「31だよ」
「入社して何年になるんですか?」
「んー7年?8年かな?」
「へー凄いですね!」
「小林さん。次行きますよ?」
「はい!」
後ろで飯塚さんは笑顔で手を振ってくださっている。優しい方でよかったね。小林さん。長谷川さんの後をついていくとオフィスの雰囲気が変わったところに着いた。
「ここがカフェになります。いつでも自由に使って大丈夫です。ここで休憩やミーテイングしている人たちもいるので、あまり騒ぎすぎないように注意してください」
有名なコーヒーショップの店内みたいに解放的でテーブルも椅子もソファもオシャレでとてもオフィスの中とは思えない空間が広がっている。
「窓際にもソファあるじゃん! ちょっと行ってもいいですか?」
小林さんが目を輝かしている。長谷川さんは頷くと小林さんは私の方を見た。あなたも来いと言わんばかりの圧が目から伝わる。
「行ってみましょうか」
50階の窓から見る東京の街並みは圧巻だった。東京全体を見渡しているようなそんな錯覚を感じる。夜景もすごくきれいなんだろうな。
「夜景もすごくきれいなんだろうなーって顔だね?」
「え? そんな顔してました?」
小林さんに心を読まれた。勘が鋭いのか、いや誰でもこんな景色を見たらそう思うだろう。
「してた。してた。でも本当にすごいね! こんなところで仕事できるなんてテンションあがるね!」
「そうですね小林さん!」
「だから彩花でいいって。私もハルって呼ぶね」
笑顔いっぱいで言う小林さん……彩花さんは本当に気さくな人だな。
「わかりました。彩花さん」
私も笑顔で彩花さんに返す。後ろから長谷川さんが近づいてきた。片手にはスマホを持っていた。
「ちょっとこの辺りで待っていてください。電話が入ったので少し抜けますね」
「分かりました」
そう言って長谷川さんはすぐにカフェエリアから離れていった。やっぱり忙しいんだな。早く仕事覚えてあまり長谷川さんの迷惑をかけないようにしなきゃ。
「ねぇねぇ」
彩花さんが私の肩をたたきながら声をかけてきた。どうしたの?と応えるとカフェの奥の方を指さした。その方向には男女が話している。
「あの二人がどうしたの?」
「ナンパよナンパ」
「そんなことありますかね?」
半信半疑で二人を見ていた。すると男性が女性に近づいて話しかけてきた。二人の顔の距離は顔二つ分もない。こんなフリースペースで大胆な……
「ねぇ、あの男の人。イケメンじゃない?」
彩花さんの声のトーンが少し上がっている。高校生じゃなんだから……でもまぁ、イケメンかイケメンじゃないかと聞かれればイケメンだけど。
「そ、そうですかね……相手のこと知らないのでなんとも言えないですけど、ちょっと近づきません?」
「男の次の一手は肩に手を触れる、だな」
彩花さんは鋭い目つきで言う。こういう場面を何度も見てきたのか、経験してきたのか、恋愛経験は多そう。偏見だけど。二人の会話はこの距離では全然聞こえない。しかし、次第に女性の顔が少し戸惑っているようにも見える。大丈夫かな。
「あっ」
彩花さんが声を出した同時に男が女性の右肩に手を添えてきた。男の方も相当慣れている。
「ねぇねぇ! ちょっとやばくない!」
テンションが上がっている彩花さんも私の肩に手を添えてきた。いや叩いてきた。痛い。イケメンでも知らない人、ましてや職場で肩触られるのはあまりいい気がしないけど。女性もやっぱり困っている。
「ねぇ、女性の方、困ってません? 誰かに言った方いいと思うんですが」
「えぇーそうかな」
「そうですよ。ちょっと長谷川さん探してきます」
ビー!
急に耳全体をなにかでぶつけたような襲撃の警報が鳴り響いた。なに?地震?入社初日なのに?
「彩花さん!」
彩花さんもすごく動揺している。彩花さんの手を引いて近くのテーブルの下にもぐるように促した。その時、後ろからものすごい速さで駆け寄ってくる足跡が聞こえた。この非常時に走り回るなんて。私たちの横を通るその人を横目で見た。その人物は全身白い防具福のようなものを身にまとって顔には仮面を付けている。
「え? あれは何?」
私と彩花さんはテーブルの下にはもぐらず、テーブルの高さまで腰を下ろし、あの仮面の人の行く先を見ていた。
「誰あれ? あれ何? あんなの説明にあった?」
困惑している彩花さんに私は分からないと応えた。本当に何もわからない。一体何が起こっているの?長谷川さんはまだ帰ってこないの?長谷川さんが出て行った先を見ても誰もいない。再度、仮面の人を見ると先ほどの男女のとこで止まった。どうやら男の方に用があるみたいだ。
「ねぇ、あれ……」
彩花さんが震えた声で仮面の人を指さす。私もさっき見たときに気づいていた。でも、きっと見間違いと思っていたが、今ははっきりと見える。仮面の人が持っているのは銃だ。なんで?銃?不審者?強盗?どうやって入ってきたの?
「ただ、ご飯を誘っただけだって!」
男の声がカフェ中に響き渡る。仮面の人も何か言っているが、警報がまだ鳴っているせいでうまく聞き取れない。男が必死に訴えかけている。
「これ誰かに言わないと」
彩花さんが震えた声で言う。確かに助けを呼ばないといけないけど、下手に動いたら私たちが狙われてしまう。どうしてこんなことに。私は視線を足元に落とした。その時、警報が止まった。すぐ仮面の人を見返す。仮面を人は手に持っていた銃を男の方に向けて構えた。
「コンプラ違反をしたので、殺します」
バンッ!
銃声がカフェ中に鳴り響いた。男は心臓を打たれその場に倒れた。
「あぁ……あ……」
分からない。一体何が起こっているの?あの仮面の人は何?何故男の人は撃たれたの?さっきの警報はこれのため?他の人たちは?私は助かるの?殺される?何故?疑問と恐怖が頭の中をぐちゃぐちゃにする。私を呼ぶ声がする。次は私が殺される?何故?わけもわからず殺される。私の人生っていったい。何度も何度も私を呼ぶ声がする。うるさい。死にたくない。
「藤田さん! しっかり!」
目の前には長谷川さんがいた。必死に私の両肩をゆすって声をかけていた。私を呼んでいたのは長谷川さんだった。
「藤田さん。大丈夫?」
「だ、大丈夫です……すいません……あの」
「あなた、コンプラ研修寝ていたの?」
「え?」
コンプラ研修?何故いまそれを?
「小林さん! 大丈夫ですか?」
彩花さんも私と同じように軽く気を失ってた。目の前で仮面を付けた人が現れて、銃を持っていて、男の人が打たれる。こんな状況をみたら誰だっておかしくなる。あ、さっきの男の人は?
「あの、長谷川さん!」
「ちょっと待って」
長谷川さんは彩花さんの意識が戻るのを待ってから私の問いかけに応えた。
「あなた達、さっきやったコンプラ研修ちゃんと聞いていなかったの?」
ここは正直に答えるべきだ。私は正直に話そうと言いかけたが、先に彩花さんが応えた。
「それがさっきのと関係あります?」
それは私も思っているけど。
「聞いていなかったのね」
溜息をつくように長谷川さんは応え、下を向いた。一呼吸をして真剣なまなざしでさらに続ける。
「仮面の人はコンプラ処理班と言って、社内でコンプラ違反をしたものを発見するとその者を処刑するの」
私と彩花さんは同時にえ?と言う。言っている意味が分からない。
「なにをしたかわからないけど、撃たれた男性はなにかコンプラ違反をした。だから殺された」
言っている意味が分からない。いや、言葉の意味は分かるけど、理解が追い付かない。
「ここニューロハーベストはコンプライアンスを徹底的に遵守する。そのためにコンプラ違反をしたものは処刑される。そういう会社よ」
さらに長谷川さんはこのことは社外に漏らしたら本人を含む親族全員処刑されると付け加えた。この状況を理解するのに時間がかかった。コンプラ違反をしたら殺される?そんな話がある?一体なんのために?どうして他の社員はこの状況を受け入れられるの?長谷川さんの説明を受けても疑問と恐怖が取り除かれることはなかった。
数日後、まだ気持ちが整理しきれていない中、会社へと足を運ぶ。4つもあるエレベーターホールももう迷うことはなくなった。エレベーターを待っていると遠くの方で男性の叫び声が聞こえた。まさかと思い、声をする方を見た。
「なんで!? 俺は何もやってないって! ちょっと待ってくれ!」
白い防具服に仮面を付けたコンプラ処理班が数人で一人の男性を取り囲んでいる。あの時の恐怖が蘇り、手が震えだした。男性は数人のコンプラ処理班に取り押さえられながらビルの奥に連行されていった。その間ずっと男性はもがき、叫び続けていた。しかし、周りの人たちは何もしない。ちらほら見るだけで気にも留めていない。可笑しい。この状況は明らかに可笑しい。あの男性がどのようなコンプラ違反をしたか分からないけど、やりすぎだ。エレベーターが到着したが、手が震えてとても動ける状況じゃなかった。その場で少し休み、動けるようになってからオフィスへ向かった。
「おはようーハル!」
オフィスに入るなり、彩花が挨拶してくれた。唯一の救いは彩花がいつも元気をくれること。あの件があった後でもすぐに気持ちを切り替えて仕事にも積極的に取り組み、私のフォローもしてくれた。本当に優しい人。
「おはよう。彩花」
「なんか元気ないね? どうしたの?」
「うーん。朝からコンプラ処理班を見かけちゃって……」
「そっかー。それは嫌なもの見ちゃったね」
「うん……」
「ねぇ! 今日お昼さ、最近気になっているお店あるからそこ行かない?」
私の気分転換のために誘ってくれてるのかな?ありがとう。
「うん。大丈夫! 行きたい!」
「よかった! じゃお昼に!」
そう言って彩花は会議室へ向かった。私も仕事の準備をして作業に取り掛かった。早くこの環境に慣れないといけないとわかっているものの、コンプラ違反をすると射殺される、というのは理解ができない。恐怖で人の行動を抑えるなんて、これがニューロハーベストのやり方なの?仕事中もコンプラ処理班のことが抜けなかった。
「お待たせー!」
午前中の仕事を終え、自席で彩花を待っていたところ元気よく後ろから彩花がやってきた。
「全然待っていないよ」
最低限の荷物を持って会社を出た。彩花が案内してくれたお店は会社から徒歩五分ほどの距離でパスタのお店だった。時間もお昼時なこともあり、少し行列ができていた。メニューを見てみると種類が多く、どれを食べるか悩んでしまう。
「オススメはね、このカルボナーラだよ」
「そうなんだ? もう行ったことあるの?」
「いや、ネット情報」
「食べたことないじゃん」
今の言い方だと食べたことある感じだったけどな。結局私も彩花もカルボナーラを頼んだ。
「職場には慣れた?」
先輩面する彩花が私に聞く。
「私たち同期だよね?」
「ツッコミできる元気はあるみたいだね」
「まぁ……彩花のおかげだよ」
「処理班は怖いけどさ、要はコンプラ違反をしなきゃいいってことじゃない?」
「まぁそうだけど、人の命を奪う権利はなくない?」
「きっと会社的にはコンプラ違反をするような人は、人と思ってないんでしょ。モラハラ、パワハラとか受けた人、被害者を尊重するんだよ」
「うーん」
「大丈夫! ハルはコンプラ違反をするような人じゃないから!」
「ありがとう……」
「目にしたくはないけど、会社の為。害虫処理してると思えばいいのよ」
害虫……人を害虫呼ばわりするのは抵抗がある。
「彩花は怖くないの?」
「んー怖くないって言ったら嘘になるけど、関係ないからなー」
「関係ない?」
「相手に失礼の言葉を使わなければいいだけじゃない?」
思っていること言っちゃう彩花が言うとあまり説得力ないけど。
「彩花ってさ」
テーブルに両肘をついて身を乗り出し、彩花の顔を見る。
「何?」
「何でもない」
笑ってごまかす。彩花はむすっとした顔で言う。
「え? なによ」
自分で気づいていないんだな。でも彩花のキャラなら不快になることはないとわかる。彩花を見て笑っていると、タイミングよく料理が運ばれてきた。
「美味しそう! 食べよう食べよう!」
「はぐらかしたな」
完全にすっきりした訳じゃないけど、彩花がそばにいてくれることで安心する。この職場でもやっていける気がしてくる。料理が着た後は仕事とは関係ない話をしながら食事した。休憩時間は一時間なので、食べ終わったらすぐにお店を出ることになった。
「カルボナーラ凄く美味しかった! また行きたい!」
「それはよかった。また行こう!」
彩花に感謝を伝えつつ、オフィスに戻り自分の席へ向かう。そんな中、彩花が口を開く。
「コンプラ処理班に疑問があるなら私たちが変えたらいいじゃん!」
「え? どういうこと?」
彩花は急に突拍子もないことを言い出した。
「私たちが出世して社長になってコンプラ処理班を廃止するように制度を変えればいいんだよ!」
「そんな無理に決まっているでしょー」
きっと私を元気付けるための冗談を言っているのだろう。謎に自信たっぷりな顔がその証拠だ。
「いや、できるできる! とりあえず、飯塚さんを出し抜くか」
「出し抜くって……」
「話してみると意外に抜けてるところあるよ。マネージャーであれって大丈夫かなと思うよ」
今の発言はちょっとまずい気がする……
「ちょっと彩花……」
ビー1
あの警報が鳴り響いた。悪い予感がして周りを見渡す。すると私たちのところにコンプラ処理班がやってきた。
「えっ……」
悪い予感は的中し、コンプラ処理班は彩花の前に立ち止まった。
「待って! 彩花は何も悪いことしてないです! さっきの発言はほんの冗談なんです!」
私は彩花とコンプラ処理班の間に入り強く説得する。コンプラ処理班を近くで見ると恐ろしく怖い。仮面の柄は見たこともない模様で気色悪い。
「ハル、離れて!」
「だって!」
私は彩花に肩を押されて床に倒れてしまった。
「私が何したっていうの?」
彩花は強気にコンプラ処理班に言う。
「マネージャーであれって大丈夫か、という発言は個人に対する侮辱表現。これはモラルハラスメント。モラハラに該当します」
「モラハラも何も私は事実を言ったまでよ!」
彩花はさらにコンプラ処理班に自分の主張を続ける。私はいつ銃を構えられるのか、彩花が殺されてしまうのか、不安で会話の内容が全く入らない。誰かに助けを求めようと周りを見渡しても誰一人こっちに来ようとせず、ごく普通に過ごしている。私が彩花を守らないと……
「彩花……逃げようよ!」
「もう駄目ね」
「え?」
彩花が下を向いた。コンプラ処理班は彩花に銃を構え始めた。彩花が殺される。
「待って!お願い!ダメ!」
「ハル!」
彩花が私の方を見る。
「ごめん」
バンッ!
私の目の前で彩花は心臓を撃たれ倒れた。私を元気づけるための発言が彩花を死に追いやった。私のせいで……コンプラ処理班は彩花を持ち上げ、回収しようとしている。
「いや……いや、いやー!」
彩花を取り返そうとしたとき、私の身体を長谷川さんが引っ張った。
「離してください。長谷川さん! 彩花が彩花が!」
「落ち着きなさい! 藤田さん」
こうしている間にも彩花をどこか連れて行こうとしている。人を殺して死体を回収して何がコンプラ処理班だ。ただの人殺しじゃないか。
「長谷川さん!」
「コンプラ処理班に歯向かっても殺されるだけよ!」
「でも……でも……」
長谷川さんは私を抱きしめた。私はただ、泣くことしかできなかった。
コンプラ処理班が一体何のために存在するのか、何故コンプラ違反をしたものを殺す必要があるのか、死体をどうするのか、家族にはどう連絡をするのか、こんな環境で仕事をする人たちは一体どんな気持ちで仕事をしているのか、ニューロハーベストって一体どんな会社なのか、何が目的なのか、ずっと頭の中であの時の光景がフラッシュバックしている。
「ねぇ?聞いている?」
今日は休日で真奈と近くのカフェに来ていた。お互い就職してからの進捗報告をしようと話になり、昼過ぎから会っている。
「あ、ごめん。なんだっけ?」
「先輩に仕事を押し付けられてるのよ。後輩ができたことを良いことにほとんどの仕事を私に押し付けて、もう忙しすぎてずっと残業だよ」
「それは辛いね」
真奈も真奈で大変なんだな。でも……
「まぁ……新人だからこんなものと割り切っているよ。それより陽の方が心配」
「え?」
「だって今日ずっと上の空だよ。本当に大丈夫?」
真奈にも心配かけちゃったな。
「ごめん。ごめんん。私の方も結構忙しくてさ」
「仕事やっぱりきつい?」
「うーん。それもある」
「怖い人とかいるの?」
脳裏にコンプラ処理班の仮面が浮かび上がる。とっさに体が動いてしまった。
「ねぇ!? 本当に大丈夫?」
「ごめんごめん。ただ疲れているだけだよ」
「辛いことがあるなら話してもいいんだからね?」
コンプラ処理班のことを社外に話した場合、自分も含め親族全員殺されるという長谷川さんの言葉を思い出す。長谷川さんが冗談を言うはずもないし、きっと全員殺されるだろう。さらに、コンプラ処理班を知った真奈ももしかしたら殺されるかもしれない。絶対に話すことはできない。
「大丈夫だよ。ごめんね心配かけて」
私の異変を悟ってくれたのか、カフェを出た後は解散することになった。何かあったらすぐに呼んでね、と最後声をかけてくれた。真奈だけは絶対迷惑をかけたくない。
こんな調子じゃだめだ。分かってはいるけど、全然気持ちが整理できない。この短期間に人の死を二回も見てしまった。彩花とはこれから一緒に仕事をしていくはずだったのに、私のせいで死に追いやってしまった。コンプラ処理班に対する嫌悪感と自分の不甲斐なさによる自己嫌悪の負のサイクルになっている。この負のサイクルから抜け出すにはコンプラ処理班。まず、これについて調べないといけない。
数日後、仕事に関する相談と言い、オフィス内のカフェに長谷川さんを呼んだ。
「すいません。お忙しい時に」
テーブルを挟んで向かい側に長谷川さんが来たので、立ち上がり挨拶をした。長谷川さんは軽く会釈し、何に困っているの?と早速本題に入ろうとした。私は一息を飲んでから応えた。
「コンプラ処理班についてお聞きしたいです」
長谷川さんの目つきが少し鋭くなった。なにか知っているのか?
「コンプラ処理班の詮索をしようとしている?」
「詮索というか何者なのか知りたいんです」
「私も詳しくは知らないわ」
「いつからいるんですか?」
「ずっと前からよ。私が入社する前からいるわ」
ずっと前から……世間的にコンプラって言われる前から?
「小林さんのことは辛いけど、きっとこの先、先輩や後輩が殺されるところを見ることになるから今のうちに慣れることね」
少し長谷川さんの声のトーンが下がった。
「長谷川さんも身近な人が?」
「えぇ」
「そうだったんですか……」
長谷川さんも同じ経験を。
「コンプラ処理班の目的って一体なんでしょうか?」
「前にも言ったでしょ。コンプラ違反をしたものを処理することよ」
「どうしてコンプラ違反をしただけで殺されなきゃいけないんですか?」
「被害者を守るためよ」
「遺体はどうしているんですか?家族にはどう説明するんですか?」
「……」
長谷川さんが黙った。何かを考えているのか、それとも。
「長谷川さん?」
「私が分かるはずないでしょ。むやみに詮索するとあなたも狙われるわよ」
長谷川さんの冷たい声が私の身体を固める。詮索するだけで狙われる?殺されるってこと?
「あの…」
「ごめんだけど、これ以上は話せないわ。とりあえず今は目の前の業務をやりなさい」
そう言って長谷川さんは立ち上がり、席を離れた。何か確実に隠している。コンプラ処理班を詮索するだけで殺されるのであれば、それはもうコンプラ処理班ではない。なにか裏の目的があって、それを隠すためにコンプラ処理班っていう形で人殺しをしているに過ぎない。一体なんのために人殺しをしているの?長谷川さんは何故それを知っておいて何もしないんだろう。なんで今話せないんだろう。なぜそれを隠す?疑問を解消するために長谷川さんに聞いてみたが、余計に疑問が増えている。ニューロハーベストは何かを隠している。会社に対して不信感を抱き始めた。コンプラ処理班に対する嫌悪感と会社に対する不信感により私の仕事へのモチベーションは低下する一方だった。その影響か入社してから二か月が過ぎた頃から小さなミスを連発するようになった。
「藤田さん。また、ここの資料が間違ってるよ?」
数日後、仕事をしていたら飯塚さんに呼ばれて、先週提出した資料の不備を指摘された。
「申し訳ございません」
「藤田さん。最近ミスが目立つけど、大丈夫?」
「はい。申し訳ございません。次から気を付けます」
飯塚さんはため息交じりで、次から気を付けてね、と言った。私は頭を下げて、自分の席に戻った。完全に集中力がかけていた。いまだにコンプラ処理班に対して疑問を抱いているけど、目の前の仕事を疎かにして飯塚さんや他の方に迷惑をかけてはならない。私は一度深呼吸をして続きの仕事に取り掛かった。コンプラ処理班のことは仕事が一段落したときに考えればいい。
ビー!
その時、少し遠くの方で警報が鳴るのが聞こえた。すぐに彩花の顔が蘇り、手が震えだした。またあの悪夢が……頭の中であの時の光景、彩花の声が繰り返し流れてくる。
バンッ!と銃声が聞こえた。あぁ……誰かがまた殺されたんだ。コンプラ処理班の警報が鳴る頻度はばらばらで一日に二回鳴るときもあれば一週間、一度も鳴らないときもあった。コンプラ違反に該当した時にしか作動しないのは本当らしい。しかし、その基準は一体どこにあるのか。いや、今は考えるのをやめよう。私は仕事に集中した。しかし、そう簡単に気持ちが切り替えることもできず、夕方にまた飯塚さんに呼び出された。
「藤田さん。ここ今日の朝、注意したとこだけど?」
私は知らず知らずのうちに同じミスをしていた。
「申し訳ございません! すぐに修正致します」
頭を深く下げた。
「明日の会議で使う資料なんだよ。もう後は俺がやるから」
そう言い、飯塚さんはパソコンに視線を移し、作業に取り掛かった。私はもう一度頭を下げ謝罪した。
「本当に申し訳ございません!」
「はぁ……小林さんの方がうっ……いや」
小林さんの方が動けた、そう言おうとしたのか?それより、その発言は。
ビー!
あの警報が鳴った。違う。これは全て私が悪い。殺されるなら私だ。もういい。ここで私が死ねば。私はコンプラ処理班が来るのを待ち構えた。
「まじかよ……おい……」
後ろで飯塚さんが悶えている。無理もない。私のミスでイラつかせてしまったのだから。すぐにコンプラ処理班が目の前にやってきた。
「待ってください。今回は私の責任です。殺すなら私を殺してください」
「どけ」
コンプラ処理班に左肩を捕まれ、突き飛ばされてしまった。
「待ってください!」
もう一度コンプラ処理班の前に立とうとするが、邪魔だと言われてすぐに飛ばされてしまう。とてもじゃないけど、力では勝てない。
「おいおいおい……待ってくれよ……ふざけるなよ!」
「小林さんの方が、という発言はモラハラであり、上司から部下に対する発言なのでパワハラにも該当致します」
コンプラ処理班が銃を構える。私は叫びながら銃を持っている腕をつかむ。しかし、すぐに振り払われてしまう。あぁ……ダメ。また殺される。私のせいで……
「コンプラ違反をしたので、殺します」
コンプラ処理班が引き金に指をかける。
「お前のせいだからなっ! 藤田! お前のミスの」
バンッ!
飯塚さんは心臓を撃たれ倒れた。涙は出なかった。悲しみよりショックが大きかったからか、自分のせいだからか、最後の飯塚さんの言葉のせいなのか。私はしばらくその場に座り込んでいた。曖昧な意識の中でコンプラ処理班が飯塚さんを抱え運んでいる様子が見えた。その奥から長谷川さんが駆けつけて私を呼んでいる。その後の記憶はほとんどない。
気が付くと私は自分の家にいた。あの後、長谷川さんが助けてくれて早退扱いにしてくれたのだろう。今日はもう何もしたくない。ベッドに横になり、目をつぶった。しかし、すぐに思い浮かぶのは彩花の顔と飯塚さんの顔だった。
「ハル。またあなたの周りの人が死んだね」
やめて。
「藤田。俺の人生を終わらせてくれたな」
ごめんなさい。
「自分だけ生きてて楽しい?ハル?」
「小林さんの方がすぐに仕事覚えてたよ。処理されるなら藤田がよかったな」
やめて。やめて。
「あんたのせいで人生めちゃくちゃだよ!」
やめて!頭の中で二人が私に詰め寄ってくる。勢いよく飛び起きても誰もいるわけもなく。部屋には私しかいない。両手で頭を抱えた。するとかなりの髪の毛が手についてきた。ぞっとしてすぐに横になり目をつぶったが、またあの二人の声が聞こえてくる。結局、この日は一睡もできなかった。
朝になり、出社する時間になったが、とても会社に行ける状態ではなかったので、長谷川さんにお休みの連絡をした。ずっと飯塚さんの最後の言葉が頭に引っかかる。
「お前のせいだからなっ! 藤田! お前のミスの」
今まであんなに人に怒鳴られたことも恨まれたこともない。
もう気づけば外は日が落ちかけていた。昨日の夜から何も食べていないことに気づく。しかし、まったく食欲はない。それでもなにか食べなきゃと思い、台所にあったカップ麺を開けた。3分経って蓋を開け、口にする。その瞬間、拒絶でもするかのように吐き気がした。すぐにトイレに駆け込んだ。苦しい。もう限界だ。私はニューロハーベストを辞めることにした。
次の日、髪のセットも化粧もせず会社に向かい、長谷川さんの元へと向かった。
「藤田さん。凄く顔色悪いけど、大丈夫?」
私は黙って辞表届を提出した。
「藤田さん……」
「ごめんなさい。もう限界です」
私は頭を下げ、自分の荷物をまとめた。幸い、まだ数か月のこともあり、ロッカーに物は少なかった。もう一度最後に長谷川さんに挨拶を済ませ、オフィスを出た。正直この先、どうするか何も考えていない。新しい就職先も見つかっていないし、そもそも今働ける状態でもない。でも、とにかくここでは働けない。身体が拒絶しているのが分かる。ごめんね彩花。ごめんなさい飯塚さん。お世話になりました長谷川さん。
オフィスの入口に向かって深く頭を下げた。エレベーターに乗り、一階に着いた時、どこからともなく、コンプラ処理班が数人出てきた。私は何がなんだかわからずに避けるように進んだ。しかし、コンプラ処理班は私を取り囲んだ。
「待ってよ……なんでよ! 私何もしてないじゃない!」
私の言葉は届かず、数人のコンプラ処理班に取り押さえられ、連行された。そのまま気を失ってしまった。
気が付くと見たこともない部屋にいた。実験室のような雰囲気で、奥にパソコンやモニターが見える。手首と足首が固定されている。頭も固定されていて自由に周りを見ることができない。どこかに監禁されている!?この状況はなに?確かコンプラ処理班に捕まって……
「おはようございます」
目の前の奥の扉が開きスーツ姿の男の人が出てきた。直接会ったことはないが、見覚えがある人物。ニューロハーベストの企業CMに登場していたこの会社の社長だ。何故社長がこんなところに?
「この状況が全く理解できない。そうですよね」
「こんなの犯罪ですよ!外してください!」
手足を激しく動かしたがピクリともしない。完全に拘束されている。
「落ち着いてください」
「こんな状況で落ち着ける訳ないでしょ!」
社長が私に近づいてきた。やめて!
「コンプラ処理班についてご説明しますよ」
「え?」
社長は少し離れ、私の周りを回りながら説明し始めた。
「ニューロハーベストはどんな会社か知っていますか? 脳の全てのデータを収集、蓄積、分析し、新しい価値を提供する会社ですよ」
何故、今更そんな話を?
「脳の全てのデータの収集って意味分かりますか?」
悪い予感がした。もしかして……
「そうです! コンプラ処理班が殺した従業員から脳を摘出し、実験に利用しているのです。だから他の企業が何年かかっても実現できないような脳と連携するデバイスを発明できているんですよ」
会社の発展のために人殺しを?これがニューロハーベストの正体。私も実験に利用される!やだ!なんとかここを出ないと!手足を強く動かしてもピクリとも動かない。
「コンプラ処理班という形でコンプラ違反する者を処理すれば社内の環境はよくなる。そして、処理した人の脳を使って新たな技術開発のための実験をする。会社としても従業員としてもWINWINな関係と思うんですけどね」
次第にこの社長に嫌気が指した。
「馬鹿じゃないの!この人殺し!」
私の言葉に何も動揺せず、ただ鼻で笑うだけだった。その後、社長は私の前で立ち止まった。
「世間には公表していないここだけの技術を紹介しましょう」
社長の言葉と同時に機械音が鳴り響き、私の頭の上に装置が下りてきた。その装置は私の頭を取り囲むように迫ってくる。何?やっぱり私殺される。
「何する気!」
社長は笑みを浮かべて応える。
「洗脳ですよ」
部屋全体に響き渡る機械音が次第に大きくなっていく。洗脳?洗脳って何?私に何をさせるの?やめて?もう私は会社を辞めたのよ!
「やめて! 離して! 帰してよ!」
機械音が耳元まで迫ってくる。グイーーンという鈍い音が頭全体に響き入ってくる。次第に意識も遠くなってくる。このまま私は洗脳され……て……
「あなたにはここ新宿第二オフィスを担当してもらいます」
「承知しました」
ビュシューという機械音とともに拘束していた機械がすべて外れた。
「ではこれを」
渡された仮面を顔につけた。
「コンプラ違反したものを殺す。社内デスゲームを始めます」
渋い顔をしながら席を立つ男性。上司の席へ向かう。
「笹山さん。今、お時間よろしいでしょうか?」
「大丈夫だよ。なんだい高橋」
パソコンから目を離し、高橋の方を向きながら応える。
「忙しい時期に申し訳ないのですが、来月から育児休暇を取りたいと考えています」
「来月?」
「はい、よろしいでしょうか?……」
「うーん」
渋い顔しながらパソコンに視線を戻し予定を確認する。
「奥さんは育児休暇取らないの?」
「取る予定です。しかし、初めての経験なので自分も傍で支えたいと……」
「うーん、男が育児休暇ってなぁ……」
ため息交じりで応え、背もたれに寄りかかる。
ビー!
社内全体に警報が響き渡る。それと同時に白い服装に仮面を付けた人物が笹山の元へ駆けつける。手には長い銃を抱えている。
「いや、待て! 別に育児休暇を取ってはダメと言っていないだろ!」
笹山は必死に仮面を付けた人物に問いかける。
「男が育児休暇?という発言はパタニティハラスメント。育児関連の制度を利用しようとした際に受ける嫌がらせに該当いたします」
「だからっ! ダメと言っていないだろ! 高橋っ? そうだよな? 分かった分かった! 取っていいよ! 取るべきだ!」
焦る笹山を無視して仮面を付けた人物は銃を構える。
「コンプラ違反をしたので、殺します」
バンッ!という銃声とともに心臓を打たれ、笹山は倒れた。
画面の右端からスーツ姿の男性が現れ正面を向いて語り始める。
「ニューロハーベスト! 私たちは世界に新しい価値を提供致します! 脳の全てのデータを収集、蓄積、分析し、あらゆるデバイスと連携することでまったく新しい価値提供を実現致します。例えば、手足の不自由の方は、ただ手足を動かそうと思うだけで義肢がその通りに動きます。エンタメでは、例えば……そう! お化け屋敷のお客さんの脳に直接声を届けることもできるでしょう。そうなればまったく新しい恐怖体験を実現できます。あなたも我々と一緒に脳が生み出す新しい価値を提供しませんか? ニューロハーベストはあなたの参加を心よりお待ちしております!」
上着がないとまだ少し肌寒いテラス席で、私がこれから就職する企業CMの動画を親友の真奈と一緒に見ていた。再生が終わると同時に真奈が口を開く。
「凄いね。いいなー陽は」
目を輝かして私を見つめている。
「本当、嘘みたい。凄くうれしいけど緊張もしてるかな」
「ニューロハーベストなんて大企業、そう簡単に行けるところじゃないし、もう人生勝ち組ね」
真奈の笑顔が眩しい。まだ入社してないんだけど。
「そんな勝ち組だなんて……優秀な人たちばかりだから置いて行かれないようにするだけで精一杯だよ」
「いい人も見つかるんじゃない?」
「えぇ~どうかなー」
真奈と他愛もない話をしばらくして、日が暮れる前に解散した。
明日からニューロハーベスト。誰もが憧れる大企業への入社。新しい環境。楽しみと緊張と不安がぐるぐる回っている。明日に備えて今日は早めに寝よう。
翌日、慣れないスーツを身にまとい、会社へ向かった。
50階以上もある高いビルの入口に入るとエレベーターホールが4つもあり、これは慣れるまで迷子になりそう。受付を済ませ、綺麗なオフィスを通り、20人ぐらいは入れそうな広い会議室に案内された。ニューロハーベストは全国にオフィスが展開されている。なので、各オフィスでオンラインに繋ぎ入社式、研修は全国同時に行われた。途中休憩はあるものの、3時間以上研修が続いていた。初日で緊張はあるもののずっとパソコンを眺めていると少し瞼が重くなってきた。係りの人も席を外している。きっと他の人は真剣に研修を受けているんだろう。ちょっと気になり、後ろを見渡してみた。予想通りみんな真剣にパソコンを見つめて内容を聞いている様子だ。流石、ニューロハーベストに入社する人たちは違うな……隣の人も真剣に聞いているのだろうと覗いた。すると大きくあくびをしている女性と目が合った。
「あっ……」
思わず、私が声を出してしまった。周りの人たちからの視線を感じる。恥ずかしい……隣の女性は恥ずかしそうにせず、むしろ笑いをこらえている。なんだこの人は。
「あくび見られちゃったね」
私の耳元に近づき、隣の女性が小声で話しかけてきた。研修中にあくびしたり、話しかけたり自由だな。
「すいません。流石に眠くなってきますよね」
とりあえず、応える。
「半分寝てた」
えぇ……いいの?
「眠くならない?」
「まぁ……でも今やっているコンプライアンス研修も大事ですし……」
「コンプラって当たり前のことをただ言っているだけじゃない?」
「まぁ……」
思っていることをはっきり言うタイプの人なのかな。
「ごめんね。話しかけちゃって」
「いえいえ、もう少しですし、頑張りましょう」
「ありがとう」
悪い人ではなさそう……言われてみればこのコンプライアンス研修って何のためにあるんだろう。最近やたらと聞くけど、いつから言い出したんだっけ? まぁ怒鳴られたり、理不尽なこと言われなくて済むならそれに越したことはないけど。って研修聞かなきゃ。
「では、用紙にサインをお願い致します」
いつの間にか係りの人が帰って来ていた。後半全然聞いてない。この後はしっかり集中しなきゃ。
「藤田さん」
会議室の入口から入ってきた黒髪の女性が私の名前を呼んだ。
「はい」
返事をしながら立ちあがる。
「それと、小林さん」
「はい。あ」
さっきの隣の女性も立ち上がった。小林さんなんだ。私は小林さんと一緒に黒髪の女性の元へと移動した。
「私は長谷川沙織です。私があなた達に仕事を教えますので宜しくお願い致します」
私と小林さんはほぼ同時に挨拶をした。長谷川さんは絵に描いたようなキャリアウーマンで美人でかっこいい。こんな女性になりたい。
「藤田さん……だっけ?」
長谷川さんの後を歩きながら小林さんが問いかけてきた。
「あ、はい。藤田陽です」
「ハル? 可愛いね! 私は小林彩花。よろしくね」
「ありがとう小林さん。宜しくです」
「彩花でいいよ!」
笑顔がとても可愛くてさっきのあくびしていた人とは同じに思えない。もう眠気は覚めたのかな? 会議室から出てオフィスの中を少し通ったところで長谷川さんは振り向いた。目の前の机はきれいに整理されている。きっと長谷川さんの席だろう。
「改めて長谷川です。これから宜しくお願い致します」
「藤田陽です。宜しくお願い致します」
「小林彩花です。」
それから私たちは、オフィスの中を順番に案内してもらった。自分の席は用意してあるものの、ほとんどの人が自分の席ではなく、フリースペースやカフェで作業をしているらしい。カフェって何だろう? 長谷川さんの説明は簡潔で分かりやすいけど、淡々と進む感じが冗談とか通じなさそうで、少し怖いかも? 次は上司のところに案内すると言っていた。ちょっと緊張するな。
「飯塚さん。こちら今日からの藤田さんと小林さんです」
「おー! 元気そうな子達だね! 飯塚です。宜しく!」
上司と聞いてたからお堅い50代ぐらいの方と思ったけど、30代……?すぐに出世したってこと? やっぱりここの人たちは凄い方ばかりだ。私は名乗り頭を下げた。私が頭を上げた途端、小林さんは元気よく口を開いた。
「小林です! 飯塚さんっておいくつですか? お若いですよね?」
やっぱりこの人思ってること口にしちゃうタイプだ。
「31だよ」
「入社して何年になるんですか?」
「んー7年?8年かな?」
「へー凄いですね!」
「小林さん。次行きますよ?」
「はい!」
後ろで飯塚さんは笑顔で手を振ってくださっている。優しい方でよかったね。小林さん。長谷川さんの後をついていくとオフィスの雰囲気が変わったところに着いた。
「ここがカフェになります。いつでも自由に使って大丈夫です。ここで休憩やミーテイングしている人たちもいるので、あまり騒ぎすぎないように注意してください」
有名なコーヒーショップの店内みたいに解放的でテーブルも椅子もソファもオシャレでとてもオフィスの中とは思えない空間が広がっている。
「窓際にもソファあるじゃん! ちょっと行ってもいいですか?」
小林さんが目を輝かしている。長谷川さんは頷くと小林さんは私の方を見た。あなたも来いと言わんばかりの圧が目から伝わる。
「行ってみましょうか」
50階の窓から見る東京の街並みは圧巻だった。東京全体を見渡しているようなそんな錯覚を感じる。夜景もすごくきれいなんだろうな。
「夜景もすごくきれいなんだろうなーって顔だね?」
「え? そんな顔してました?」
小林さんに心を読まれた。勘が鋭いのか、いや誰でもこんな景色を見たらそう思うだろう。
「してた。してた。でも本当にすごいね! こんなところで仕事できるなんてテンションあがるね!」
「そうですね小林さん!」
「だから彩花でいいって。私もハルって呼ぶね」
笑顔いっぱいで言う小林さん……彩花さんは本当に気さくな人だな。
「わかりました。彩花さん」
私も笑顔で彩花さんに返す。後ろから長谷川さんが近づいてきた。片手にはスマホを持っていた。
「ちょっとこの辺りで待っていてください。電話が入ったので少し抜けますね」
「分かりました」
そう言って長谷川さんはすぐにカフェエリアから離れていった。やっぱり忙しいんだな。早く仕事覚えてあまり長谷川さんの迷惑をかけないようにしなきゃ。
「ねぇねぇ」
彩花さんが私の肩をたたきながら声をかけてきた。どうしたの?と応えるとカフェの奥の方を指さした。その方向には男女が話している。
「あの二人がどうしたの?」
「ナンパよナンパ」
「そんなことありますかね?」
半信半疑で二人を見ていた。すると男性が女性に近づいて話しかけてきた。二人の顔の距離は顔二つ分もない。こんなフリースペースで大胆な……
「ねぇ、あの男の人。イケメンじゃない?」
彩花さんの声のトーンが少し上がっている。高校生じゃなんだから……でもまぁ、イケメンかイケメンじゃないかと聞かれればイケメンだけど。
「そ、そうですかね……相手のこと知らないのでなんとも言えないですけど、ちょっと近づきません?」
「男の次の一手は肩に手を触れる、だな」
彩花さんは鋭い目つきで言う。こういう場面を何度も見てきたのか、経験してきたのか、恋愛経験は多そう。偏見だけど。二人の会話はこの距離では全然聞こえない。しかし、次第に女性の顔が少し戸惑っているようにも見える。大丈夫かな。
「あっ」
彩花さんが声を出した同時に男が女性の右肩に手を添えてきた。男の方も相当慣れている。
「ねぇねぇ! ちょっとやばくない!」
テンションが上がっている彩花さんも私の肩に手を添えてきた。いや叩いてきた。痛い。イケメンでも知らない人、ましてや職場で肩触られるのはあまりいい気がしないけど。女性もやっぱり困っている。
「ねぇ、女性の方、困ってません? 誰かに言った方いいと思うんですが」
「えぇーそうかな」
「そうですよ。ちょっと長谷川さん探してきます」
ビー!
急に耳全体をなにかでぶつけたような襲撃の警報が鳴り響いた。なに?地震?入社初日なのに?
「彩花さん!」
彩花さんもすごく動揺している。彩花さんの手を引いて近くのテーブルの下にもぐるように促した。その時、後ろからものすごい速さで駆け寄ってくる足跡が聞こえた。この非常時に走り回るなんて。私たちの横を通るその人を横目で見た。その人物は全身白い防具福のようなものを身にまとって顔には仮面を付けている。
「え? あれは何?」
私と彩花さんはテーブルの下にはもぐらず、テーブルの高さまで腰を下ろし、あの仮面の人の行く先を見ていた。
「誰あれ? あれ何? あんなの説明にあった?」
困惑している彩花さんに私は分からないと応えた。本当に何もわからない。一体何が起こっているの?長谷川さんはまだ帰ってこないの?長谷川さんが出て行った先を見ても誰もいない。再度、仮面の人を見ると先ほどの男女のとこで止まった。どうやら男の方に用があるみたいだ。
「ねぇ、あれ……」
彩花さんが震えた声で仮面の人を指さす。私もさっき見たときに気づいていた。でも、きっと見間違いと思っていたが、今ははっきりと見える。仮面の人が持っているのは銃だ。なんで?銃?不審者?強盗?どうやって入ってきたの?
「ただ、ご飯を誘っただけだって!」
男の声がカフェ中に響き渡る。仮面の人も何か言っているが、警報がまだ鳴っているせいでうまく聞き取れない。男が必死に訴えかけている。
「これ誰かに言わないと」
彩花さんが震えた声で言う。確かに助けを呼ばないといけないけど、下手に動いたら私たちが狙われてしまう。どうしてこんなことに。私は視線を足元に落とした。その時、警報が止まった。すぐ仮面の人を見返す。仮面を人は手に持っていた銃を男の方に向けて構えた。
「コンプラ違反をしたので、殺します」
バンッ!
銃声がカフェ中に鳴り響いた。男は心臓を打たれその場に倒れた。
「あぁ……あ……」
分からない。一体何が起こっているの?あの仮面の人は何?何故男の人は撃たれたの?さっきの警報はこれのため?他の人たちは?私は助かるの?殺される?何故?疑問と恐怖が頭の中をぐちゃぐちゃにする。私を呼ぶ声がする。次は私が殺される?何故?わけもわからず殺される。私の人生っていったい。何度も何度も私を呼ぶ声がする。うるさい。死にたくない。
「藤田さん! しっかり!」
目の前には長谷川さんがいた。必死に私の両肩をゆすって声をかけていた。私を呼んでいたのは長谷川さんだった。
「藤田さん。大丈夫?」
「だ、大丈夫です……すいません……あの」
「あなた、コンプラ研修寝ていたの?」
「え?」
コンプラ研修?何故いまそれを?
「小林さん! 大丈夫ですか?」
彩花さんも私と同じように軽く気を失ってた。目の前で仮面を付けた人が現れて、銃を持っていて、男の人が打たれる。こんな状況をみたら誰だっておかしくなる。あ、さっきの男の人は?
「あの、長谷川さん!」
「ちょっと待って」
長谷川さんは彩花さんの意識が戻るのを待ってから私の問いかけに応えた。
「あなた達、さっきやったコンプラ研修ちゃんと聞いていなかったの?」
ここは正直に答えるべきだ。私は正直に話そうと言いかけたが、先に彩花さんが応えた。
「それがさっきのと関係あります?」
それは私も思っているけど。
「聞いていなかったのね」
溜息をつくように長谷川さんは応え、下を向いた。一呼吸をして真剣なまなざしでさらに続ける。
「仮面の人はコンプラ処理班と言って、社内でコンプラ違反をしたものを発見するとその者を処刑するの」
私と彩花さんは同時にえ?と言う。言っている意味が分からない。
「なにをしたかわからないけど、撃たれた男性はなにかコンプラ違反をした。だから殺された」
言っている意味が分からない。いや、言葉の意味は分かるけど、理解が追い付かない。
「ここニューロハーベストはコンプライアンスを徹底的に遵守する。そのためにコンプラ違反をしたものは処刑される。そういう会社よ」
さらに長谷川さんはこのことは社外に漏らしたら本人を含む親族全員処刑されると付け加えた。この状況を理解するのに時間がかかった。コンプラ違反をしたら殺される?そんな話がある?一体なんのために?どうして他の社員はこの状況を受け入れられるの?長谷川さんの説明を受けても疑問と恐怖が取り除かれることはなかった。
数日後、まだ気持ちが整理しきれていない中、会社へと足を運ぶ。4つもあるエレベーターホールももう迷うことはなくなった。エレベーターを待っていると遠くの方で男性の叫び声が聞こえた。まさかと思い、声をする方を見た。
「なんで!? 俺は何もやってないって! ちょっと待ってくれ!」
白い防具服に仮面を付けたコンプラ処理班が数人で一人の男性を取り囲んでいる。あの時の恐怖が蘇り、手が震えだした。男性は数人のコンプラ処理班に取り押さえられながらビルの奥に連行されていった。その間ずっと男性はもがき、叫び続けていた。しかし、周りの人たちは何もしない。ちらほら見るだけで気にも留めていない。可笑しい。この状況は明らかに可笑しい。あの男性がどのようなコンプラ違反をしたか分からないけど、やりすぎだ。エレベーターが到着したが、手が震えてとても動ける状況じゃなかった。その場で少し休み、動けるようになってからオフィスへ向かった。
「おはようーハル!」
オフィスに入るなり、彩花が挨拶してくれた。唯一の救いは彩花がいつも元気をくれること。あの件があった後でもすぐに気持ちを切り替えて仕事にも積極的に取り組み、私のフォローもしてくれた。本当に優しい人。
「おはよう。彩花」
「なんか元気ないね? どうしたの?」
「うーん。朝からコンプラ処理班を見かけちゃって……」
「そっかー。それは嫌なもの見ちゃったね」
「うん……」
「ねぇ! 今日お昼さ、最近気になっているお店あるからそこ行かない?」
私の気分転換のために誘ってくれてるのかな?ありがとう。
「うん。大丈夫! 行きたい!」
「よかった! じゃお昼に!」
そう言って彩花は会議室へ向かった。私も仕事の準備をして作業に取り掛かった。早くこの環境に慣れないといけないとわかっているものの、コンプラ違反をすると射殺される、というのは理解ができない。恐怖で人の行動を抑えるなんて、これがニューロハーベストのやり方なの?仕事中もコンプラ処理班のことが抜けなかった。
「お待たせー!」
午前中の仕事を終え、自席で彩花を待っていたところ元気よく後ろから彩花がやってきた。
「全然待っていないよ」
最低限の荷物を持って会社を出た。彩花が案内してくれたお店は会社から徒歩五分ほどの距離でパスタのお店だった。時間もお昼時なこともあり、少し行列ができていた。メニューを見てみると種類が多く、どれを食べるか悩んでしまう。
「オススメはね、このカルボナーラだよ」
「そうなんだ? もう行ったことあるの?」
「いや、ネット情報」
「食べたことないじゃん」
今の言い方だと食べたことある感じだったけどな。結局私も彩花もカルボナーラを頼んだ。
「職場には慣れた?」
先輩面する彩花が私に聞く。
「私たち同期だよね?」
「ツッコミできる元気はあるみたいだね」
「まぁ……彩花のおかげだよ」
「処理班は怖いけどさ、要はコンプラ違反をしなきゃいいってことじゃない?」
「まぁそうだけど、人の命を奪う権利はなくない?」
「きっと会社的にはコンプラ違反をするような人は、人と思ってないんでしょ。モラハラ、パワハラとか受けた人、被害者を尊重するんだよ」
「うーん」
「大丈夫! ハルはコンプラ違反をするような人じゃないから!」
「ありがとう……」
「目にしたくはないけど、会社の為。害虫処理してると思えばいいのよ」
害虫……人を害虫呼ばわりするのは抵抗がある。
「彩花は怖くないの?」
「んー怖くないって言ったら嘘になるけど、関係ないからなー」
「関係ない?」
「相手に失礼の言葉を使わなければいいだけじゃない?」
思っていること言っちゃう彩花が言うとあまり説得力ないけど。
「彩花ってさ」
テーブルに両肘をついて身を乗り出し、彩花の顔を見る。
「何?」
「何でもない」
笑ってごまかす。彩花はむすっとした顔で言う。
「え? なによ」
自分で気づいていないんだな。でも彩花のキャラなら不快になることはないとわかる。彩花を見て笑っていると、タイミングよく料理が運ばれてきた。
「美味しそう! 食べよう食べよう!」
「はぐらかしたな」
完全にすっきりした訳じゃないけど、彩花がそばにいてくれることで安心する。この職場でもやっていける気がしてくる。料理が着た後は仕事とは関係ない話をしながら食事した。休憩時間は一時間なので、食べ終わったらすぐにお店を出ることになった。
「カルボナーラ凄く美味しかった! また行きたい!」
「それはよかった。また行こう!」
彩花に感謝を伝えつつ、オフィスに戻り自分の席へ向かう。そんな中、彩花が口を開く。
「コンプラ処理班に疑問があるなら私たちが変えたらいいじゃん!」
「え? どういうこと?」
彩花は急に突拍子もないことを言い出した。
「私たちが出世して社長になってコンプラ処理班を廃止するように制度を変えればいいんだよ!」
「そんな無理に決まっているでしょー」
きっと私を元気付けるための冗談を言っているのだろう。謎に自信たっぷりな顔がその証拠だ。
「いや、できるできる! とりあえず、飯塚さんを出し抜くか」
「出し抜くって……」
「話してみると意外に抜けてるところあるよ。マネージャーであれって大丈夫かなと思うよ」
今の発言はちょっとまずい気がする……
「ちょっと彩花……」
ビー1
あの警報が鳴り響いた。悪い予感がして周りを見渡す。すると私たちのところにコンプラ処理班がやってきた。
「えっ……」
悪い予感は的中し、コンプラ処理班は彩花の前に立ち止まった。
「待って! 彩花は何も悪いことしてないです! さっきの発言はほんの冗談なんです!」
私は彩花とコンプラ処理班の間に入り強く説得する。コンプラ処理班を近くで見ると恐ろしく怖い。仮面の柄は見たこともない模様で気色悪い。
「ハル、離れて!」
「だって!」
私は彩花に肩を押されて床に倒れてしまった。
「私が何したっていうの?」
彩花は強気にコンプラ処理班に言う。
「マネージャーであれって大丈夫か、という発言は個人に対する侮辱表現。これはモラルハラスメント。モラハラに該当します」
「モラハラも何も私は事実を言ったまでよ!」
彩花はさらにコンプラ処理班に自分の主張を続ける。私はいつ銃を構えられるのか、彩花が殺されてしまうのか、不安で会話の内容が全く入らない。誰かに助けを求めようと周りを見渡しても誰一人こっちに来ようとせず、ごく普通に過ごしている。私が彩花を守らないと……
「彩花……逃げようよ!」
「もう駄目ね」
「え?」
彩花が下を向いた。コンプラ処理班は彩花に銃を構え始めた。彩花が殺される。
「待って!お願い!ダメ!」
「ハル!」
彩花が私の方を見る。
「ごめん」
バンッ!
私の目の前で彩花は心臓を撃たれ倒れた。私を元気づけるための発言が彩花を死に追いやった。私のせいで……コンプラ処理班は彩花を持ち上げ、回収しようとしている。
「いや……いや、いやー!」
彩花を取り返そうとしたとき、私の身体を長谷川さんが引っ張った。
「離してください。長谷川さん! 彩花が彩花が!」
「落ち着きなさい! 藤田さん」
こうしている間にも彩花をどこか連れて行こうとしている。人を殺して死体を回収して何がコンプラ処理班だ。ただの人殺しじゃないか。
「長谷川さん!」
「コンプラ処理班に歯向かっても殺されるだけよ!」
「でも……でも……」
長谷川さんは私を抱きしめた。私はただ、泣くことしかできなかった。
コンプラ処理班が一体何のために存在するのか、何故コンプラ違反をしたものを殺す必要があるのか、死体をどうするのか、家族にはどう連絡をするのか、こんな環境で仕事をする人たちは一体どんな気持ちで仕事をしているのか、ニューロハーベストって一体どんな会社なのか、何が目的なのか、ずっと頭の中であの時の光景がフラッシュバックしている。
「ねぇ?聞いている?」
今日は休日で真奈と近くのカフェに来ていた。お互い就職してからの進捗報告をしようと話になり、昼過ぎから会っている。
「あ、ごめん。なんだっけ?」
「先輩に仕事を押し付けられてるのよ。後輩ができたことを良いことにほとんどの仕事を私に押し付けて、もう忙しすぎてずっと残業だよ」
「それは辛いね」
真奈も真奈で大変なんだな。でも……
「まぁ……新人だからこんなものと割り切っているよ。それより陽の方が心配」
「え?」
「だって今日ずっと上の空だよ。本当に大丈夫?」
真奈にも心配かけちゃったな。
「ごめん。ごめんん。私の方も結構忙しくてさ」
「仕事やっぱりきつい?」
「うーん。それもある」
「怖い人とかいるの?」
脳裏にコンプラ処理班の仮面が浮かび上がる。とっさに体が動いてしまった。
「ねぇ!? 本当に大丈夫?」
「ごめんごめん。ただ疲れているだけだよ」
「辛いことがあるなら話してもいいんだからね?」
コンプラ処理班のことを社外に話した場合、自分も含め親族全員殺されるという長谷川さんの言葉を思い出す。長谷川さんが冗談を言うはずもないし、きっと全員殺されるだろう。さらに、コンプラ処理班を知った真奈ももしかしたら殺されるかもしれない。絶対に話すことはできない。
「大丈夫だよ。ごめんね心配かけて」
私の異変を悟ってくれたのか、カフェを出た後は解散することになった。何かあったらすぐに呼んでね、と最後声をかけてくれた。真奈だけは絶対迷惑をかけたくない。
こんな調子じゃだめだ。分かってはいるけど、全然気持ちが整理できない。この短期間に人の死を二回も見てしまった。彩花とはこれから一緒に仕事をしていくはずだったのに、私のせいで死に追いやってしまった。コンプラ処理班に対する嫌悪感と自分の不甲斐なさによる自己嫌悪の負のサイクルになっている。この負のサイクルから抜け出すにはコンプラ処理班。まず、これについて調べないといけない。
数日後、仕事に関する相談と言い、オフィス内のカフェに長谷川さんを呼んだ。
「すいません。お忙しい時に」
テーブルを挟んで向かい側に長谷川さんが来たので、立ち上がり挨拶をした。長谷川さんは軽く会釈し、何に困っているの?と早速本題に入ろうとした。私は一息を飲んでから応えた。
「コンプラ処理班についてお聞きしたいです」
長谷川さんの目つきが少し鋭くなった。なにか知っているのか?
「コンプラ処理班の詮索をしようとしている?」
「詮索というか何者なのか知りたいんです」
「私も詳しくは知らないわ」
「いつからいるんですか?」
「ずっと前からよ。私が入社する前からいるわ」
ずっと前から……世間的にコンプラって言われる前から?
「小林さんのことは辛いけど、きっとこの先、先輩や後輩が殺されるところを見ることになるから今のうちに慣れることね」
少し長谷川さんの声のトーンが下がった。
「長谷川さんも身近な人が?」
「えぇ」
「そうだったんですか……」
長谷川さんも同じ経験を。
「コンプラ処理班の目的って一体なんでしょうか?」
「前にも言ったでしょ。コンプラ違反をしたものを処理することよ」
「どうしてコンプラ違反をしただけで殺されなきゃいけないんですか?」
「被害者を守るためよ」
「遺体はどうしているんですか?家族にはどう説明するんですか?」
「……」
長谷川さんが黙った。何かを考えているのか、それとも。
「長谷川さん?」
「私が分かるはずないでしょ。むやみに詮索するとあなたも狙われるわよ」
長谷川さんの冷たい声が私の身体を固める。詮索するだけで狙われる?殺されるってこと?
「あの…」
「ごめんだけど、これ以上は話せないわ。とりあえず今は目の前の業務をやりなさい」
そう言って長谷川さんは立ち上がり、席を離れた。何か確実に隠している。コンプラ処理班を詮索するだけで殺されるのであれば、それはもうコンプラ処理班ではない。なにか裏の目的があって、それを隠すためにコンプラ処理班っていう形で人殺しをしているに過ぎない。一体なんのために人殺しをしているの?長谷川さんは何故それを知っておいて何もしないんだろう。なんで今話せないんだろう。なぜそれを隠す?疑問を解消するために長谷川さんに聞いてみたが、余計に疑問が増えている。ニューロハーベストは何かを隠している。会社に対して不信感を抱き始めた。コンプラ処理班に対する嫌悪感と会社に対する不信感により私の仕事へのモチベーションは低下する一方だった。その影響か入社してから二か月が過ぎた頃から小さなミスを連発するようになった。
「藤田さん。また、ここの資料が間違ってるよ?」
数日後、仕事をしていたら飯塚さんに呼ばれて、先週提出した資料の不備を指摘された。
「申し訳ございません」
「藤田さん。最近ミスが目立つけど、大丈夫?」
「はい。申し訳ございません。次から気を付けます」
飯塚さんはため息交じりで、次から気を付けてね、と言った。私は頭を下げて、自分の席に戻った。完全に集中力がかけていた。いまだにコンプラ処理班に対して疑問を抱いているけど、目の前の仕事を疎かにして飯塚さんや他の方に迷惑をかけてはならない。私は一度深呼吸をして続きの仕事に取り掛かった。コンプラ処理班のことは仕事が一段落したときに考えればいい。
ビー!
その時、少し遠くの方で警報が鳴るのが聞こえた。すぐに彩花の顔が蘇り、手が震えだした。またあの悪夢が……頭の中であの時の光景、彩花の声が繰り返し流れてくる。
バンッ!と銃声が聞こえた。あぁ……誰かがまた殺されたんだ。コンプラ処理班の警報が鳴る頻度はばらばらで一日に二回鳴るときもあれば一週間、一度も鳴らないときもあった。コンプラ違反に該当した時にしか作動しないのは本当らしい。しかし、その基準は一体どこにあるのか。いや、今は考えるのをやめよう。私は仕事に集中した。しかし、そう簡単に気持ちが切り替えることもできず、夕方にまた飯塚さんに呼び出された。
「藤田さん。ここ今日の朝、注意したとこだけど?」
私は知らず知らずのうちに同じミスをしていた。
「申し訳ございません! すぐに修正致します」
頭を深く下げた。
「明日の会議で使う資料なんだよ。もう後は俺がやるから」
そう言い、飯塚さんはパソコンに視線を移し、作業に取り掛かった。私はもう一度頭を下げ謝罪した。
「本当に申し訳ございません!」
「はぁ……小林さんの方がうっ……いや」
小林さんの方が動けた、そう言おうとしたのか?それより、その発言は。
ビー!
あの警報が鳴った。違う。これは全て私が悪い。殺されるなら私だ。もういい。ここで私が死ねば。私はコンプラ処理班が来るのを待ち構えた。
「まじかよ……おい……」
後ろで飯塚さんが悶えている。無理もない。私のミスでイラつかせてしまったのだから。すぐにコンプラ処理班が目の前にやってきた。
「待ってください。今回は私の責任です。殺すなら私を殺してください」
「どけ」
コンプラ処理班に左肩を捕まれ、突き飛ばされてしまった。
「待ってください!」
もう一度コンプラ処理班の前に立とうとするが、邪魔だと言われてすぐに飛ばされてしまう。とてもじゃないけど、力では勝てない。
「おいおいおい……待ってくれよ……ふざけるなよ!」
「小林さんの方が、という発言はモラハラであり、上司から部下に対する発言なのでパワハラにも該当致します」
コンプラ処理班が銃を構える。私は叫びながら銃を持っている腕をつかむ。しかし、すぐに振り払われてしまう。あぁ……ダメ。また殺される。私のせいで……
「コンプラ違反をしたので、殺します」
コンプラ処理班が引き金に指をかける。
「お前のせいだからなっ! 藤田! お前のミスの」
バンッ!
飯塚さんは心臓を撃たれ倒れた。涙は出なかった。悲しみよりショックが大きかったからか、自分のせいだからか、最後の飯塚さんの言葉のせいなのか。私はしばらくその場に座り込んでいた。曖昧な意識の中でコンプラ処理班が飯塚さんを抱え運んでいる様子が見えた。その奥から長谷川さんが駆けつけて私を呼んでいる。その後の記憶はほとんどない。
気が付くと私は自分の家にいた。あの後、長谷川さんが助けてくれて早退扱いにしてくれたのだろう。今日はもう何もしたくない。ベッドに横になり、目をつぶった。しかし、すぐに思い浮かぶのは彩花の顔と飯塚さんの顔だった。
「ハル。またあなたの周りの人が死んだね」
やめて。
「藤田。俺の人生を終わらせてくれたな」
ごめんなさい。
「自分だけ生きてて楽しい?ハル?」
「小林さんの方がすぐに仕事覚えてたよ。処理されるなら藤田がよかったな」
やめて。やめて。
「あんたのせいで人生めちゃくちゃだよ!」
やめて!頭の中で二人が私に詰め寄ってくる。勢いよく飛び起きても誰もいるわけもなく。部屋には私しかいない。両手で頭を抱えた。するとかなりの髪の毛が手についてきた。ぞっとしてすぐに横になり目をつぶったが、またあの二人の声が聞こえてくる。結局、この日は一睡もできなかった。
朝になり、出社する時間になったが、とても会社に行ける状態ではなかったので、長谷川さんにお休みの連絡をした。ずっと飯塚さんの最後の言葉が頭に引っかかる。
「お前のせいだからなっ! 藤田! お前のミスの」
今まであんなに人に怒鳴られたことも恨まれたこともない。
もう気づけば外は日が落ちかけていた。昨日の夜から何も食べていないことに気づく。しかし、まったく食欲はない。それでもなにか食べなきゃと思い、台所にあったカップ麺を開けた。3分経って蓋を開け、口にする。その瞬間、拒絶でもするかのように吐き気がした。すぐにトイレに駆け込んだ。苦しい。もう限界だ。私はニューロハーベストを辞めることにした。
次の日、髪のセットも化粧もせず会社に向かい、長谷川さんの元へと向かった。
「藤田さん。凄く顔色悪いけど、大丈夫?」
私は黙って辞表届を提出した。
「藤田さん……」
「ごめんなさい。もう限界です」
私は頭を下げ、自分の荷物をまとめた。幸い、まだ数か月のこともあり、ロッカーに物は少なかった。もう一度最後に長谷川さんに挨拶を済ませ、オフィスを出た。正直この先、どうするか何も考えていない。新しい就職先も見つかっていないし、そもそも今働ける状態でもない。でも、とにかくここでは働けない。身体が拒絶しているのが分かる。ごめんね彩花。ごめんなさい飯塚さん。お世話になりました長谷川さん。
オフィスの入口に向かって深く頭を下げた。エレベーターに乗り、一階に着いた時、どこからともなく、コンプラ処理班が数人出てきた。私は何がなんだかわからずに避けるように進んだ。しかし、コンプラ処理班は私を取り囲んだ。
「待ってよ……なんでよ! 私何もしてないじゃない!」
私の言葉は届かず、数人のコンプラ処理班に取り押さえられ、連行された。そのまま気を失ってしまった。
気が付くと見たこともない部屋にいた。実験室のような雰囲気で、奥にパソコンやモニターが見える。手首と足首が固定されている。頭も固定されていて自由に周りを見ることができない。どこかに監禁されている!?この状況はなに?確かコンプラ処理班に捕まって……
「おはようございます」
目の前の奥の扉が開きスーツ姿の男の人が出てきた。直接会ったことはないが、見覚えがある人物。ニューロハーベストの企業CMに登場していたこの会社の社長だ。何故社長がこんなところに?
「この状況が全く理解できない。そうですよね」
「こんなの犯罪ですよ!外してください!」
手足を激しく動かしたがピクリともしない。完全に拘束されている。
「落ち着いてください」
「こんな状況で落ち着ける訳ないでしょ!」
社長が私に近づいてきた。やめて!
「コンプラ処理班についてご説明しますよ」
「え?」
社長は少し離れ、私の周りを回りながら説明し始めた。
「ニューロハーベストはどんな会社か知っていますか? 脳の全てのデータを収集、蓄積、分析し、新しい価値を提供する会社ですよ」
何故、今更そんな話を?
「脳の全てのデータの収集って意味分かりますか?」
悪い予感がした。もしかして……
「そうです! コンプラ処理班が殺した従業員から脳を摘出し、実験に利用しているのです。だから他の企業が何年かかっても実現できないような脳と連携するデバイスを発明できているんですよ」
会社の発展のために人殺しを?これがニューロハーベストの正体。私も実験に利用される!やだ!なんとかここを出ないと!手足を強く動かしてもピクリとも動かない。
「コンプラ処理班という形でコンプラ違反する者を処理すれば社内の環境はよくなる。そして、処理した人の脳を使って新たな技術開発のための実験をする。会社としても従業員としてもWINWINな関係と思うんですけどね」
次第にこの社長に嫌気が指した。
「馬鹿じゃないの!この人殺し!」
私の言葉に何も動揺せず、ただ鼻で笑うだけだった。その後、社長は私の前で立ち止まった。
「世間には公表していないここだけの技術を紹介しましょう」
社長の言葉と同時に機械音が鳴り響き、私の頭の上に装置が下りてきた。その装置は私の頭を取り囲むように迫ってくる。何?やっぱり私殺される。
「何する気!」
社長は笑みを浮かべて応える。
「洗脳ですよ」
部屋全体に響き渡る機械音が次第に大きくなっていく。洗脳?洗脳って何?私に何をさせるの?やめて?もう私は会社を辞めたのよ!
「やめて! 離して! 帰してよ!」
機械音が耳元まで迫ってくる。グイーーンという鈍い音が頭全体に響き入ってくる。次第に意識も遠くなってくる。このまま私は洗脳され……て……
「あなたにはここ新宿第二オフィスを担当してもらいます」
「承知しました」
ビュシューという機械音とともに拘束していた機械がすべて外れた。
「ではこれを」
渡された仮面を顔につけた。
「コンプラ違反したものを殺す。社内デスゲームを始めます」
