「ありがとう」
出会って最初に言われた言葉。

「なんで、」
口を開くと意識的にそう答えた。

「あの、信じてもらえないと思うんですけど、本当なんです。」
彼は言葉を続けた

「実は、僕、あなたに助けられたことがあって。もう15年以上前の話なんですけどね。」
十五年前なら、まだ私は三歳。間違いだと思った。でも、そんなことは、ない、らしい。

「僕、見た目女じゃないですか。」

「…。」
彼を見たとき、女の子、そう思ってたんだ。
でも、声をかけられたとき、「男だ」そう、わかった。

「それが、どうかした?」
おそるおそる、彼に聞いた。

「僕、普通の男の子だったんです。」

「ぁ、」
声を出そうとしてもなぜか出なかった。

「でも、僕、『女の子』っていう存在がうらやましいというか、好きというか。女の子の人生がよかったんです。現実は『男』だったんですけどね。ある日公園で、ある女の子と出会ったんです。なぜか、謎の安心感があって、その子になら、自分の胸の内を吐き出せたんです。」

「それが、私ってこと、?」
「そう、なりなりますね。そしたら、言ったんです。『好きなように、自分の好きなことして、男が女みたいだったら何がダメなの?』って。うれしかったんです。」

「どうして?」

「初めて、自分の好きなものを認めてもらえた、受け入れてくれたんだ。そう思ったからです。」

「でもさ、なんでその子が私だってわかるの?」
ずっと気になっていたことを聞いた。

「花奈。ずっと、何年たっても、忘れない名前だった。小さいころに、僕と一緒に遊んでくれたこと、家に招待してくれたこと。全部。」

それを聞いた瞬間、ずっと心の中にあったわだかまりが解けた。

「あ…。裕也君だ。」

その言葉を発した瞬間、彼は瞳に涙をためていた。

「え、あ、ちょ、どしたの?」

「僕、もう忘れられてるのかもって。思ってたから、うれしくて。」

私は息をのみこみ、一言はなった。



「あの時の約束、かなえてくれる?」



「うん」
満面の笑みで、彼は力強く言った。