「君は恒星、僕は惑星」(題)
「君はまるで恒星、いや、僕の恒星だ」
ノートの隅にペンを走らせた。二席と少し先の黒板の前から、先生の声が聞こえる。
だが僕は黒板ではなく、前の席に座っているあの人の後ろ姿を見つめていた。
手を伸ばせば届くほどの、短い距離。そのはずなのに、あの人の背中は何億光年も先にあるような気がした。
窓からは夏の太陽の光が差し込んでいる。
机に落ちた消しゴムの影はノートの筆跡よりも濃い。
ふと太陽のほうに目をやると、空の一部が切り取られたように真っ白な太陽が見えた。
本当の姿が見えないくらいに、輝いている。
そう思った束の間、目の奥に鋭い痛みが走る。思わず視線をノートに逃がす。さっきまで太陽を見ていた視界は、緑や青に揺れていた。
いつ見ても慣れない視界と、こんな幼稚なことをしている自分にため息をつく。
虚しさを感じながら黒板を見ると、日本語で書かれているはずなのに、まるで意味が追い付かない文章が、黒板一面に書かれていた。
小学校の頃は、もっと授業が楽しかったはずなのに。
黒板の字がどんどんと遠のいていく。ただ、距離の埋め方や、なぜ離れていくのかはわからず、この距離はあの人と僕との距離とは違うものだ。ただ、それだけしかわからなかった。
ただ一人、僕だけが広い宇宙を漂う感覚だった。
宇宙旅行や、土星の環でピクニック! なんかの楽しいほうじゃない。
果てのない宇宙は途方もなく膨らみ続けているとか、40億年以内にアンドロメダ銀河と天の川銀河はくっつくとかの、僕が死んでもずっといつまでも続いていく世界の中に、ポツンと僕がいる。そっちのほうだった。
気がつくと終わりのチャイムが教室に響いている。いつの間にそんな時間がたっていたのか。
「気を付け、礼」
雲がない青い空に、煌々と光る太陽が浮かんでいる。教室には「ありがとうございました」が響く。
学期末が近づいているということで、今日の学校はこれで終わり。帰宅部の僕は30度を超える空の下、家路につかなえればいけない。
途中でコンビニなんかに寄って涼もうか。なんて考えながらリュックに荷物をつめていると、
「カチャン」
と、何かが落ちる音がした。前のほうからだ。
筆箱でも落としたかな、と音がしたほうに回り込むと、筆箱が落ちていた。デパートで見覚えのある、最近の筆箱。
誰かが通った時に落ちたのかな、と思いつつ、拾い上げたその時だった。
これ、あの人の筆箱だよな。
静電気がピリッと起きた時のように、突然思い出した。
こんな手で触っていいのか?
まず思い浮かんだのはそれだった。恒星みたいなあの人の筆箱に触って、僕の手は溶けないのか。
果たして自分のて手は、存在を保てているのだろうか。不思議でいっぱいだ。
「あ、それ私のだ」
夢にまで聞いた声に、顔をばっと上げると、あの人の黒い瞳が目に飛び込んできた。
「拾ってくれたの? ありがとう」
何か言おう。何かを言おうとするが、喉の変なところに力が入り、言葉が出ない。
筆箱を渡す震える手に、あの人の指先が一瞬かすめた。それはうまく働かない脳でも、はっきりと海馬に刻み込んだ。
いい夢見だと思った。これが現実だったら、僕は明日死ぬんじゃないか。
夢なんだ、これは。そう思って腕をつねると、痛かった。どうやらこれは現実らしい。
さっきの授業まで考えていた宇宙に一人でどうこう、なんてことはどうでもよくなった。君がきっと、僕の漂う宇宙ごと照らしてくれる。
僕は君の惑星だ。
「君はまるで恒星、いや、僕の恒星だ」
ノートの隅にペンを走らせた。二席と少し先の黒板の前から、先生の声が聞こえる。
だが僕は黒板ではなく、前の席に座っているあの人の後ろ姿を見つめていた。
手を伸ばせば届くほどの、短い距離。そのはずなのに、あの人の背中は何億光年も先にあるような気がした。
窓からは夏の太陽の光が差し込んでいる。
机に落ちた消しゴムの影はノートの筆跡よりも濃い。
ふと太陽のほうに目をやると、空の一部が切り取られたように真っ白な太陽が見えた。
本当の姿が見えないくらいに、輝いている。
そう思った束の間、目の奥に鋭い痛みが走る。思わず視線をノートに逃がす。さっきまで太陽を見ていた視界は、緑や青に揺れていた。
いつ見ても慣れない視界と、こんな幼稚なことをしている自分にため息をつく。
虚しさを感じながら黒板を見ると、日本語で書かれているはずなのに、まるで意味が追い付かない文章が、黒板一面に書かれていた。
小学校の頃は、もっと授業が楽しかったはずなのに。
黒板の字がどんどんと遠のいていく。ただ、距離の埋め方や、なぜ離れていくのかはわからず、この距離はあの人と僕との距離とは違うものだ。ただ、それだけしかわからなかった。
ただ一人、僕だけが広い宇宙を漂う感覚だった。
宇宙旅行や、土星の環でピクニック! なんかの楽しいほうじゃない。
果てのない宇宙は途方もなく膨らみ続けているとか、40億年以内にアンドロメダ銀河と天の川銀河はくっつくとかの、僕が死んでもずっといつまでも続いていく世界の中に、ポツンと僕がいる。そっちのほうだった。
気がつくと終わりのチャイムが教室に響いている。いつの間にそんな時間がたっていたのか。
「気を付け、礼」
雲がない青い空に、煌々と光る太陽が浮かんでいる。教室には「ありがとうございました」が響く。
学期末が近づいているということで、今日の学校はこれで終わり。帰宅部の僕は30度を超える空の下、家路につかなえればいけない。
途中でコンビニなんかに寄って涼もうか。なんて考えながらリュックに荷物をつめていると、
「カチャン」
と、何かが落ちる音がした。前のほうからだ。
筆箱でも落としたかな、と音がしたほうに回り込むと、筆箱が落ちていた。デパートで見覚えのある、最近の筆箱。
誰かが通った時に落ちたのかな、と思いつつ、拾い上げたその時だった。
これ、あの人の筆箱だよな。
静電気がピリッと起きた時のように、突然思い出した。
こんな手で触っていいのか?
まず思い浮かんだのはそれだった。恒星みたいなあの人の筆箱に触って、僕の手は溶けないのか。
果たして自分のて手は、存在を保てているのだろうか。不思議でいっぱいだ。
「あ、それ私のだ」
夢にまで聞いた声に、顔をばっと上げると、あの人の黒い瞳が目に飛び込んできた。
「拾ってくれたの? ありがとう」
何か言おう。何かを言おうとするが、喉の変なところに力が入り、言葉が出ない。
筆箱を渡す震える手に、あの人の指先が一瞬かすめた。それはうまく働かない脳でも、はっきりと海馬に刻み込んだ。
いい夢見だと思った。これが現実だったら、僕は明日死ぬんじゃないか。
夢なんだ、これは。そう思って腕をつねると、痛かった。どうやらこれは現実らしい。
さっきの授業まで考えていた宇宙に一人でどうこう、なんてことはどうでもよくなった。君がきっと、僕の漂う宇宙ごと照らしてくれる。
僕は君の惑星だ。



