「坂巻さん。またでしたね」
「ああ。まただったな」
樫村さんの取材を終え彼女を見送った後、坂巻さんと二人、ぽつりと声をこぼした。ボイスレコーダーとカメラの電源を落として、まだ半分以上が残ったアイスコーヒーに口をつける。横目で坂巻さんも同じ動きをしているのが見えた。
「取材した行方不明者の4人中4人が結婚相談所に入っていた。なあ巳波、これって偶然か?」
「んー……。最近は結婚相談所もメジャーではありますからね。対象者の年齢が20代後半から30代なので、偶然という可能性も無きにしも非ずかと。ただ、全員が同じ結婚相談所の会員というのは……これで樫村さんが登録していた相談所が『くるみマリッジ』だったら、正直偶然とは思えません」
これより前に行方不明者3名のご家族の取材を終えていた。その際、3名全員が結婚相談所 くるみマリッジの会員であることが分かった。
「ご家族からの取材内容を警察に伝えて、くるみマリッジを調べてもらうことはできないんですかね?」
私の問いかけに、坂巻さんは渋い表情を浮かべる。
「これだけじゃ事件性があるか分からないから難しいだろうな。さっき樫村さんも言ってたけど、国内の行方不明者は五万といるわけだし」
「ですよね……」
「言い方は悪いけど、遺体が出ない限り警察は動いてくれないと思う」
沈む空気の中、もう一度アイスコーヒーに口をつける。
「くるみマリッジねえ……」と呟いた坂巻さんは、リュックの中からタブレットを取り出した。
「大手なら会員数も多いだろうからこういう偶然もあり得るのかもしれないけど、ここは個人の相談所なんだよなあ。結婚相談所で検索かけても上位でヒットしてこないし」
坂巻さんの言う通り、くるみマリッジは大手ではないし知名度も低い。マイナーな結婚相談所だ。だからこそ、余計に偶然だとは考えにくい。
考え込むように小さく唸った坂巻さんは、机の上にタブレットを置いた。
その画面には、くるみマリッジのホームページが映っている。