(しずく)「父上よ、そろそろ学校に行く時間だ。」

暁斗(あきと)「ん…もう少し…。」

ハァ…、我が父ながら子供かと思うぞ?

雫「スゥ…せいっ!」

布団を父上ごとひっくり返す。

暁斗「いってて…。なんで俺ごとひっくり返すんだよ〜。」

雫「その割にはしっかりと受け身を取っていたがなァ?」

さすが忍びの身のこなしだ。

雫「さあ父上、早く準備したまえ。このままでは私たちも遅れてしまう。
…あ、父上を置いていけばよいのか。」

暁斗「今さらっとひどいこと言ったよね!?というか、まだ寝てたい〜!!」

雫「なっ、子供か!駄々をこねるでない父上!みっともないぞ!!」

暁斗「その前に、悠人(はると)はもう起きてるの?」

雫「当たり前であろう。私も兄上もすでに学校の準備が整い、制服に着替えたところだ。」

暁斗「えぇ…、早いよ2人とも」

雫「嘆いている暇などない。早く起きろ。」

暁斗「嫌だぁ!」

雫「もう、めんどくさいな!!本当に!」

これでも父上は私たちが通う暁星学園の3代目理事長なんだよなァ?
もっと威厳がないと我が父として情けない。
このままでは空気の抜けた風船と同然!
嗚呼っ、武田信玄公よ…今こそ我が父を叩き上げ、貴方さまのお力を証明するときにございますぞっ!

“コンコン”

悠人「父さーん、起きてる?」

暁斗「おー、悠人か。おはよう、起きてるよ。」

アァ?
まだ起きていないよなァ?
布団の取り合い中だというのに何という嘘を…!

悠人「は?おはよう、じゃないよね!?早く準備してくれないかな!母さん呼んでくるよ!?」

暁斗「ひえっ、それはダメですぅ!!(超高速で布団をたたみ、スーツに着替える)
はい!布団もたたんだし、服も着替えた!準備終わったよっ。」

“ガチャ”

暁斗「よし、2人ともご飯食べに行こっか!」

雫「…うむ、了解した。
兄上、最初からこの速さで動いてほしいものだよな。」

悠人「ね、ほんと。母さんの影響力恐るべし、だね。」




−リビング−

咲夜(さくや)「おはよう、3人とも。」

暁斗「お、おはようございます…っ。」

雫&悠人「「おはよう。」」

咲夜「雫、悠人。聞きたいのだが、暁斗は1人で起きれたかね?」

雫「うむ!見事に起床時刻を過ぎていたぞっ。」

悠人「うんうん。俺と雫が起こしたよ。」

咲夜「そうであったか。かたじけない…。」

雫「礼はいらぬぞ、母上。我々は朝の日課を達成したのと同然。それに礼を言うのはこちらの方だ。今日は見事に寝坊をしたが、昨日きちんと起きれたのは母上の根回しがあってこそ。本当にかたじけない。」

咲夜「ふふ、我が娘からそう礼を言われるのは嬉しいことよ。
…さて、暁斗。なにか言い遺すことはあるかい?」

母上が殺人鬼の如き瞳をしているぞ…っ?
哀れなり父上。

暁斗「もっ、もももも申し訳ございませんでしたぁ!!
昨日、夜遅くまで上の仕事をしていたんです。それでっ、寝たのが深夜2時なんですよ!起きる時間は4時!!睡眠時間はなんと!!驚愕の2時間っ!!!!もう無理です…っ!!ごめんなさぁぁぁい!!!」

ハハハ…ついに父上が泣き崩れた。
大丈夫かね、この人…。
一応、風魔家を含む4家の代表だよな…?

咲夜「ハァ…大の大人が泣き崩れないでくれるか、みっともない。まあ、上の仕事をしていて寝る時間が遅くなり、疲労による寝坊、というのであれば見逃してやろう。だが、定時で稽古も終わり睡眠時間もちゃんとあるというのに寝坊したとなれば例外だからな。」

暁斗「さ、咲夜さま…っ!!本当にありがとう!!!!」

むふ、さすが母上だ!
寛大な心により、父上は今日も平和に1日を迎えることができるなっ。




雫「では母上、行って参る。」

咲夜「うむ。気をつけて行ってくるのだよ。
ところで…悠人と暁斗はどうしたのかね?」

雫「はて、どうしたのだろうか。
父上、兄上!!まだであろうか!早くしないと置いていくぞ!」

悠人「ごめんって、雫!もうちょっとだけ待ってくれる?
俺は準備終わってるのに、父さんがネクタイを探し回ってるんだよ〜!」

雫「記憶力がなさすぎだろう…。
父上、昨日ネクタイは自室の棚の1番上に入れておくと申していたではないか!」

暁斗「あっ、そうだった!!ありがとう、雫〜!」


悠人「お待たせ、雫。主は父さんだけど…。」

暁斗「ごめんね待たせて…!お待たせっ。」

雫「よし、やっと揃ったか。では、今度こそ行って参る。」

悠人「行ってきます。」

暁斗「行ってくるね、咲夜さん。」

咲夜「行ってらっしゃい。」






−暁星学園−

暁斗「じゃあ、俺は理事長室に行くね。」

雫「うむ、承知した。」

悠人「まだ教師もそんなに来てない時間から仕事?」

暁斗「そうなんだよ〜!いつもならまだゆっくりできるんだけどね…。」

雫「そんなに忙しいのか。…もしや、文化祭関係の手配か?」

暁斗「よくわかったね。2人にだけ教えちゃうけど…文化祭ではとあるスペシャルゲストを呼ぼうと思ってる!
楽しみにしててっ!!」

悠人「それ、教えちゃっていいやつなの…?いくら自分の子供だからってダメでしょw」

暁斗「まあまあ〜、細かいことは気にせずに!」

雫「理事長ともあろう父上がそう言って良いのか…?w
…ぬ?なあ、あそこにいるのはうちの生徒だよなァ?こんな早くから登校してくる生徒がいたかね、兄上。」

悠人「いないはずだけどなぁ?…あ、でも雫のクラスに来るの早い子いなかったっけ?男子生徒で。」

雫「否。その生徒は女子生徒なり。」

悠人「あれっ、女子だったか。父さん、あの生徒誰か知ってる?」

暁斗「ん〜、知らないなぁ。でもどこかで見たような気が…。」

父上でも知らん生徒か…。
だが、どこかで見たことがある…?
むむっ?
なぜか我々の方に向かって来ていないか?

??「貴女はもしかして風魔 雫さん、ですか?」

なっ、私の名前を知っているだとぉ!?