【スマホ録音アプリ 2025/2/14】


2月14日、金曜日。

原田真美と源由衣ついて調べてみたら、ふたりとも行方不明になったという記事がでてきた。
原田真美は10月11日、源由衣は1月10日に失踪している。

両方とも、健くんの持っていたレシートの日付と一致する。
今自分はコンビニのトイレに入っていて、外では健くんが待ってる。

これからレストランへ行く予定。
今度は○×△□レストラン。

これもレシートにあった店名で、調べたところ前に連れて行かれた#’%$レストランとは系列店であることがわかってる。
レストランに入る予定だからこっそり録画に切り替えて記録する。



周囲はオレンジ色に染まり、照明によって○×△□レストランの看板が浮かび上がっている。
私の前を歩く健くんは振り返って「この前は体調大丈夫だった?」と質問してきた。
私は「うん、心配かけてごめんね」と、苦笑いを浮かべる。

私が健くんにうつつを抜かしているときなら、そんな違和感もなかっただろう。
「さ、入って」
健くんがレストランのドアを開けてくれる。

ここに入ればもう二度と出てこられないんじゃないかという恐怖心をどうにか押し込めて、私は店内へ足を踏み入れた。
その瞬間「いらっしゃいませー!」と、元気な声が聞こえてきて少しだけ安堵する気持ちが芽生えた。

男性店員に連れられて店内奥の二人席へと座る。
席の近くには従業員用入り口があり、席の横にある窓には大きなメニューポスターが張られていて目隠しになっている。

「俺はサラダとスープにしようかな」
メニュー表を開きもせずにつぶやく健くんに私は首をかしげた。

「どうして? いつもはもっと沢山食べるのに」
「今日はあまり食欲がないんだ」
「それなら今日はもう帰ろうよ」
「せっかく入ったんだから食べてからでいいよ」

健くんが苦笑いを浮かべて返事をする。
いつもならこれも優しさだと感じるけれど、今は不信感が募っていく。
盗んだレシートの内容を思い出す。



○×△□レストラン
○○店
電話0000-××-××××
2025年1月10日

アスパラサラダ 480
チーズハンバーグ セット 880
野菜あんかけチャーハン スープ付き 680

女性1名 500000

合計 -497960


#’%$レストラン

○×店
電話番号 0000-○○-○○○○
レジ責任者番号 3344887
ご来店日時 2024年10月11日

野菜たっぷりスープとパンセット 780
たまごのカレー サラダ付き 880
いちごタルト 450

女性1名 540000
合計 -537890



食べ物の欄だけ見ると一見普通だけれど、どちらも野菜しか使われていないメニューが入っている。
私は勝手な思い込みで健くんがハンバーグとカレーを食べたのだと思っていたけれど、これは違うのかもしれない。

普段肉料理でも普通に注文している健くんが、肉料理を避けて食べたんだ。
「それなら私もサラダにしようかな」

「イズミは遠慮しなくていいよ。ここは肉料理が絶品なんだ」
その言葉にレシートにあった【女性1名】という言葉が浮かんでくる。

そしてその横に書かれた金額。
あれは、まさか……。
喉の奥に苦いものがこみ上げてきて必死で飲み下す。

「ごめん。ちょっとトイレ」
そう声をかけて立ち上がったとき、目の前の従業員用入り口が開いていた。
同時に私の行く手を阻むように健くんが立ち上がる。

その鼻の頭のキズはホクロを除去したものなの?
この前のデートでそう質問したとき、健くんは激怒した。
だから私は確信したんだ。

この人が私の友達、弥生失踪に関わっているって。
それだけじゃない、原田真美や源由衣についても同じだ。
それに、あのレシートの量を思い出すともっともっと大勢の女の子たちがいなくなっているはず。

「イズミ、トイレはあっちだ」
健くんが指差した方向には今出てきた従業員がいる。
手に大きな包丁を握りしめた屈強な男の右手が、叫ぼうとした私の口を塞いだ。

「うーっ!」
スマホを落とさずに済んだのは、胸のポケットにこっそり忍ばせていたからだ。
私の体はズルズルと引きずられて厨房の奥へと進んでいく。
嬉しそうに微笑む健くんがそれについて従業員入り口から入ってきた。

けれどそれを咎める人はいない。
「今回の女もいい値段になるだろう?」
「ちょっと痩せすぎだな。もう少し肉付きがよくないと食べる部位がない」
従業員と健くんはそんなやりとりを始めている。

やっぱり、ここの店は女性の人肉を提供していたんだ!
それを知らずに食べているお客さんたちの姿を思い出し、また吐き気がこみ上げる。
「こいつはせいぜい400000万ってところだ」
「40!? 嘘だろ、そんなに安いのかよ」

「嫌なら返すよ、ほら」
従業員が私の背中を押して健くんへと突き出した。

健くんが咄嗟に横に避けたことで私は冷たい厨房の床に両手をつく格好になった。
「なにすんだよ!」
健くんの怒号が響く。

私は咄嗟に上体を起こして一番近いドアへと走った。
重たいドアを無理やりこじ開けた瞬間冷気が体を包み込む。

「はははっ。お嬢ちゃんそこは冷凍庫だよ」
従業員が無知な私を笑う声が聞こえてきた。
この冷凍庫の中には……逆さ釣りにされている女性たちの冷凍保存がギュウギュウに詰め込まれていた。

手前の女性は腹部を切られて内蔵をくり抜かれている。
その横にいる女性はすでに頭だけになっていて、髪の毛をフックにひっかけて吊るされている。

どの女性の顔も苦悶が浮かんでいて、相当苦しんで死んだことがわかった。
その中に、弥生の顔を見つけた。
弥生の体はまだキズがつけられていない状態で、両足首をロープで結ばれて逆さ吊りにされていた。

その顔もまた、苦痛に歪んでいた。