あれは、私、姉、母の3人が母の実家から自宅へ帰る途中の出来事です。

夕暮れ時、空は茜色から灰色へと変わり始め、辺り一面が薄暗さを帯びていました。車内では、些細なことがきっかけで口論が始まり、言葉が刺々しく飛び交う中、重苦しい雰囲気が広がっていました。

「目的地に到着しました。」

突然、ナビがそう告げた瞬間、母はハンドルを握りしめ、慌ててブレーキを踏みました。窓越しに見えたのは、荒れ果てた神社の姿。

壊れかけた鳥居は風雨に晒されて色あせ、崩れた柱は地面に倒れたまま放置されていました。木々は無造作に伸び放題で、その影が薄暗い夕暮れの光に揺れています。

周囲には人の気配どころか生気すら感じられず、時間に取り残されたような不気味さが漂っていました。

どこか胸騒ぎを覚えながらも、母が「せっかくだから」と小さく呟き、私たちは車を降りて周囲を歩くことにしました。今思えば、なぜそんな行動を取ったのか、自分たちでも理解できません。

辺りは異様なまでに静まり返り、虫の音すら聞こえません。ただ、風の音と、私たちの足音だけが不気味に響いていました。

神社の境内を歩いているうちに、私たちは川辺にたどり着きました。そして薄暗い風景の中で、私たちは足を止めました。そこには、一輪だけ鮮やかな花が咲いていたのです。

周囲には他の植物の気配はまったくないのに、そこだけでした。その場所だけが異様なほど鮮やかな彩りを放っていました。

「記念に写真を撮ろう」と母が提案し、私たちは川の前に立って写真を撮ることにしました。ですが、シャッターを押したその瞬間、母が突然、無言のまま駆け出しました。

「お母さん?どうしたの?」
驚いて声をかける私たちを無視し、母は振り返りもせず「嫌な予感がする…!」とだけ絞り出すように言いました。その顔色は青白く、目には何かに対する恐れが宿っていました。

私も姉も無言で母を追いかけました。まるで誰かの視線を感じるような、逃げなければならない衝動に駆られたからです。

車に駆け込み、急いでドアを閉めると、母はエンジンをかけて車を走らせました。誰も何も話しません。ただ、皆の呼吸音だけが車内に響き、暗い道をひたすら走り続けました。

見えない何かに追われている感覚が消えず、私たちは無言のまま自宅にたどり着きました。

自宅の玄関に入った瞬間、母が悲鳴をあげました。「ひっ…!」震える声に私たちも駆け寄ると、目の前には信じがたい光景がありました。

スマホのアルバムに残されていたのは、私たちが川辺で撮影した一枚の写真。しかし、その中にはありえないものが写り込んでいました。私たちの背後に、小さな男の子と妹のような女の子が、無表情で立っていたのです。その小さな手は私たちの背中を押そうとしているように見えました。

その瞬間、私たちは理解しました。あの神社にいた「何か」は、私たちを追ってきていたのだと。

後に聞いた話ですが、あのように一輪だけ花が咲いている場所は特別な土壌が原因であることが多いと言います。その「特別」とは、そこに埋まった死体から流れ出る養分のことだとか…。真偽はわかりませんが、あの花が異様に目立っていた理由を思い出すと、ただ恐怖が募るばかりです。

みなさん、ナビが勝手に目的地を変える、もしくは一輪だけ花が咲いている場所には、くれぐれも注意してください。

知らずに足を踏み入れた先には、二度と戻れない場所があるかもしれませんよ…。