田中力也23歳。11月2日に地元岩手から離れて夢の為に憧れの東京に上京してきた。

 幼い時からドラマや映画が大好きだった俺は、中学3年生の時、文化祭の演劇「グッドバイ・マイ」でメインキャラの黄朗を演じた。この世に生まれる前の子たちが生まれるかどうか決めるというお話は、中学生が演じるには難しい感情表現がたくさんあってとても難しかったがその分やり遂げた後の達成感がすごかった。その演劇で演じたことを機に、適当にサラリーマンになろうかなと考えていた将来の夢が『役者』になったのだ。

 そこから自分なりに沢山の作品を観て、役柄を分析して、実家の自分の部屋の中で演じてみたりもした。親や弟には「勉強していい職業についたら?」や「兄貴には無理っしょ」など言われたりもしたがそんな言葉は無視しながら、いろんな芸能事務所に応募してみた。書類審査で落とされる会社が多かった中、1社だけ最終面接に行くことが出来た。結果は合格。急いで母に電話で伝えると今までと態度を変えて喜んでいた。
 岩手と東京を行き来しながら毎月レッスンに通っていた。交通費とレッスン料そして日々の引き落としなどすべて合わせて毎月10万以上は引き落としされていた。当時は正社員ではなくフルパートそれに加えて案件なども来るのだが、交通費の問題や移動時間などもありなかなかオーディションにも行くことが出来なかった。だから俺は必死にお金を稼ぎ、ついに東京へ引っ越すことが出来た。

 東京でこれからどんなことが待っているのかと思うと、ワクワクとドキドキで胸がいっぱいになった。

 上京しても、役者としてのお仕事はほとんどなくオーディションでは落ちる日々。生活費や年金、保険料、住民税など支払いがたくさんあるということを上京して実感した俺は、お芝居で飯を食べていけるまでの間アルバイトをすることにした。

 求人サイトを見てみると、地元よりもたくさんの職業が並んでいて感動した。しかも時給も遥かに高いということに少し興奮する。
たくさんの求人があり、見るだけでも何時間もかかってしまった。最近はニュースとかで『闇バイト』というワードが話題になっている。闇バイトに応募した人たちは捕まり、ニュースに取り上げられる。絶対に普通に稼いだほうがいいのに。

悩んだ結果、結局俺は高校生の時に少し働いたコンビニで働くことになった。


 毎日の食事は、お金がないのでスーパーの安い食パンを1食1枚と決めて食べ、シフトがあるときはコンビニの廃棄のものをもらって食べていた。シフトがない時はひたすら腹が減っている状態なので、綺麗かどうかも分からない水道水を飲みながらしのいだ。

 バイト先でレジをしていると、かごいっぱいに買っている人を見て「この人はお金持ちだなぁ」と考えたり、目の前にあるおでんを見て「食べてもバレないんじゃないかな・・・」などお金のなさと空腹のせいで変なことを考えてしまう。早く普通にものが買える生活がしたいな。

 コンビニバイトを始めたのは良かったが、まだ慣れない東京での暮らしと失礼な態度の客のせいで俺のメンタルはズタボロになっていった。

「夢の為・・・・・夢の為に我慢。」
そう自分に言い聞かせながらシフトに入れる日は働き、芸能事務所から来た案件にはできるだけすべてに応募した。

 役者のお仕事はほとんどはエキストラの仕事だったが、プロの演技を間近で見ることが出来るというチャンスなので、出番が少しでも勉強の為。と思いながら参加をしていた。
 エキストラの仕事はほとんどが待ち時間。ロケ弁をもらうことが出来る現場だと食費が浮くのでとてもありがたいが、ロケ弁が出ないお仕事だと、他のエキストラのみんなは近くのコンビニに行きお弁当やカップ麺、お菓子などを各自で買って食べる。だが俺はそのお金ももったいないので我慢する。でもそんなときに限って拘束時間が長いのだ。
 今日の現場はハズレのパターン。お昼の12時集合と聞いて6時くらいには終わるかなと思っていたら夜の10時までかかってしまった。先日バイト先で先輩からもらったグミを持ってくるんだったと後悔をした。

 これだけ拘束時間が長くても、給料はせいぜい2000円程度なのだ。現場に行ってわかるのは、プロの演者の方はやっぱりすごいということ。疲れたとしてもそんな顔は一切せず、俺らエキストラや周りのスタッフさん達にまで気を使うことのできる優しさ。撮影が始まったらその場が飲み込まれてしまうほどの演技。学ぶとこしかないその姿をみて、将来の自分の姿を重ねてみる。
 「俺も、もっと頑張るぞ!」想像した自分はとてもキラキラしていてカッコよかった。




 上京して4か月が経った。
 この間に受けたドラマや映画のオーディションは全て落ちてしまった。その間も必死にコンビニでバイトをしているが、働いたお金はほとんど月々の支払いに消えてしまう。スーパーでは半額になっている商品や、期限が近いおつとめ品をなどを買い、バイト先では廃棄をもらうという生活のままだった。食べる量も少ないせいか顔や身体の肉が無くなりすっかりやせ細ってしまった。事務所の人には痩せすぎと言われ、コンビニに来たお客さんには小さい声で「気持ち悪い・・・」とつぶやかれるようになってしまった。
このままだとオーディションには受かるはずがない。
地元では優しい子と言われてたのに、上京してからは毎日のようにイライラしている。
「このままじゃダメだ、変わらなきゃ!」


 お金・・・・
 お金がもっとあれば生活も心も豊かになるはず。





「そうだ、バイトの掛け持ちをしよう」





 俺はそう決めた。