死臭漂う崩れた図書館で、生徒会長は通常運転に続ける。

「それでは、次の会場に移りましょう」

 そう言っている間に、グニャリと視界が歪み、続いて場所が変わる。
 次の場所は、机の並んでいる教室のようだった。ホワイトボードにペンが立ててある教室。それにニコリと生徒会長が笑う。

「次の色を上げましょうか」
「……待ってください」
「はい、どうぞ」

 生徒会長に言われ、望月はおずおずと口にする。

「……ここ、教室ですけど。もし色を探しに行く際、廊下の外に出て大丈夫なんでしょうか?」

 そう言ったのも他ではない。最後の作戦で、どうにかして生徒会長を無力化させないといけないのだが、教室はとてもじゃないけれど狭過ぎて、色を見つけてない場合は全員刺殺されてもおかしくはなかったのだから。

(せめて距離を稼いでおきたいんだけど……それにあの十六夜くんの死体……)

 十六夜と居待になにがあったのかはわからないが。十六夜は居待に足さえ掴まれていなかったら、生徒会長の無力化に王手がかかっていた。つまりは、生徒会長の無力化はできるということだ。
 なら、無力化した上で鬼の権限を剥奪、その上で生き残った三人だけでも生還というのがベターな選択だろう。
 望月の必死な懇願の中、生徒会長は「そうですね」と言った。

「廊下までは出ることはよしとしましょう。ただし、階段を使うこと、他の教室に入ることは禁じます」
「……っ、わかりました」

 これでは十中八九色を見つけることはできない。だからこそ、手持ちの物を使ってでも、今回でこのゲームを終わらせないといけない。
 望月は必死に朧と弓月を見る。朧はダウナーな雰囲気を既に四人亡くしている今でも拭うことがなく、弓月は既に焦燥が見えた。望月はぎゅっと拳を握った。

(……しっかりしないと。もうこれ以上クラスメイトを殺せないし……死んだ皆の無念を晴らすことだってできない)

 望月が震える中、生徒会長は続けた。

「次の色は、赤です。それではカウント数えますよ。いーち、にーい……」

 生徒会長がカウントをはじめたので、急いで望月は走り出した。
 赤はいくらでもあるが、次の場所に移動したら、もう生徒会長を捕まえる方法がなくなるのだから、必死に頭を回転させながら、一緒に教室から逃げてきた朧と弓張に尋ねる。

「どうしよう……今回で生徒会長から鬼の権限を奪わないと、また殺されちゃう……」
「だとしたら、赤を見つける訳にはいかないか」
「……生徒会長は運動神経が異様にいいし、正攻法がどれだけ聞くのかわからない……」

 廊下の長さは五クラス分。元の新校舎よりも教室の数が多いような気がするが、深く考えるのはやめた。
 弓張は少し口を開く。

「生徒会長は運動神経はよくても、多分一度くらいならば避けられる。その間に捕まえることができれば」
「捕まえる……せめて引っ掛けるとか」

 そう言っている中。廊下の突き当たりの掃除道具置き場が目に留まった。廊下用の掃除道具だ。そこの中を開けると、新校舎と同じようなラインナップで、モップが三本ほど入っているのが確認できた。
 それをそれぞれ三人は手に取る。

「……一回まではなんとかなるとして、問題は二回目だ」

 十六夜を刺殺できたのも、なんらかの理由で二回目が回ってきてしまったからだろうと、皆はうっすらと察した。朧の言葉に、望月と弓張も頷く。

「ここで決めよう」

 全員がそれぞれ、元の教室のほうへと走って行った。
 カウントを終えた生徒会長が、勢いを付けて走ってきた。
 廊下の端で、望月は長いモップで廊下を遮る。ちょうど足首に引っ掛けやすい距離で。生徒会長は走ってきて、望月の構えていたモップの柄を踏んづけて笑う。

「あら、赤いものを持っていませんね。失格です」

 そのまま望月にナイフを振りかぶろうとした、そのとき。
 生徒会長目がけて朧が大きくモップを振りかぶった。望月はモップを持ったまま必死で踏んづけた生徒会長をこけさせようと力を込める。生徒会長の足がもつれ、同時に朧の振りかぶったモップが彼女の肩を殴打した。生徒会長は廊下でガツンと倒れる。
 朧がぜいぜいと息を切らす。殺されかけた望月は、今になって生徒会長が手放したナイフを見て、ガタガタと震えが止まらなくなる。

「俺たちは赤いものを持ってない。鬼になるから鬼の権限をよこせ」
「あらあら……三人も鬼になるのは認められません」

 生徒会長は肩をひどく殴打され、モップを構えた三人に見下ろされてもなお、全く調子を崩してはいなかった。