朽ちない薔薇は夜に舞う

悪夢。

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(ここは……)

「おい! 聞いてんのか! なぁ゛!!」

「、っ゛……」

身体が動かない。

目の前にいる父親から、目を逸らすことすらできなかった。

「お前は風楽(フェイレン)と違って出来損ないで!!」

ボコッ゛!!

「ぁ゛、っ……!!」

衝撃に身体が揺れる。

「ゴホッ……ゲホッ、ゴホッゴホッ……」

「生きてるだけで無意味なんだよ! 消え失せろよ!」

右手の指を捕まれた。

「や、め゛っ……」

「お前にはこれくらいが丁度いいだろ」

父親の手によって、指が反対側へと無理やり曲げられる。

ボキッ゛!!!

「う、ぁあ゛……っ、ぁああ!!!」

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「は、……ッ゛、は……ッ゛」

飛び起きた。

見慣れた寝室。

けれど、夢の中の感覚は、まだ身体にまとわりついていた。

「最、……っ悪……」

心臓が激しく脈打っている。

冷や汗が止まらない。

荒い呼吸を繰り返しながら、俺は額に手を当てた。

「……消えたい、……」

小さく呟いた言葉は、誰にも届くことなく消えていった。

冷や汗を拭い、着替える。

洗濯機を回し、少しでも気を紛らわせようと地下の訓練所へ向かうことにした。

廊下に出て、ぼんやりと歩いていると――

トンッ。

肩に軽い衝撃が走った。

その感覚に、意識が現実へと引き戻される。

「ごめん、風翠。前見てなかった」

白夜だった。

「いいよ笑 俺もごめんね。考えごとしてた……って、白夜、怪我してる?」

「あー、少しね。敵に撃ち抜かれちゃって……でも、よく分かったね!」

「肩の動きが不自然だったから」

「すっご! よく見てるね」

「ほぼ無意識だけど。さっき歩いてても、白夜にぶつかれなかったら、白夜がいることに気づかなかったもん」

「えー、ひどい笑」

「笑」

短い会話を交わす。

「じゃあ、そろそろ俺は自分の部屋に戻るね。零が心配しちゃうから」

「うん。またね笑」

「またね〜」

白夜と別れ、再び歩き始めた。

エレベーターに乗り、地下の訓練所まで降りる。

扉が開いた。

「誰もいない……まぁ、いっか」

静まり返った訓練所。

俺は装備を整え、動く的の電源を入れた。

耳に入ってくるのは、機械の作動音と、自分の呼吸だけ。

バァン゛!! バァン゛!!!

銃声が響く。

(……一個、中心命中。もう一個は逸れた)

的を見つめ、次の弾を装填する。

(もっと……速く動かないと)

バァン゛!!

バァン゛!!!

バァン゛!!!!

延々と撃ち続けた。

何度も、何度も。

それなのに、撃てば撃つほど、なぜか怒りが込み上げてくる。

(足らない……)

引き金を引く。

(もっと……)

また、引き金を引く。

(もっと、もっと……)

そのときだった。

グラッ――。

突然、視界が歪んだ。

「、っ゛……」

足元がふらつく。

身体を支えきれず、地面に倒れそうになった瞬間。

誰かが俺の身体を掴んだ。

「大丈夫? 風翠」

「……星架? なんで、」

「一回、銃置いて。ゆっくり座って。危ないから」

「うん……」

言われるままに銃を置き、ゆっくりと腰を下ろす。

星架は俺の顔を覗き込んだ。

「最近、ちゃんと寝れてる……? 隈できてるよ」

「寝れてるよ笑 星架と違って」

「寝れてないでしょ……」

「……え?」

「顔が疲れきってるし……手の震え、それに冷たい」

そう言って、星架は俺の手に視線を落とした。

「手が冷たいのは、元々冷え性だから。しかも、この部屋寒いし。震えは今、動いたばっかりだから……もう、いいじゃん笑」

「良くないよ」

「っ、」

思わず言葉に詰まる。

星架は、いつものように笑って流してはくれなかった。

「最近、食べてる? ちゃんと」

「……食べれてない。食欲ないから」

「最後に食べたのはいつ?」

「覚えてない。あ、でも、食べれそうなときにちょこちょこ色々食べてるよ」

「例えば?」

「カロリーバーだったり……色々。あ、でも、最後にちゃんと食べたの、うーちゃんが怪我して帰ってきたときだ」

「一週間前ね」

「……そんなに前だっけ?」

「うん」

一週間。

言われて初めて、そんなに時間が経っていたことに気づいた。

「星架、今何時?」

「夜中の一時過ぎ。夜食、食べる?」

「要らない」

「要らないって……夜ご飯、食べてないでしょ。ほら、行こ」

「……分かった」

そう言って、星架に連れられるまま上へ戻った。

向かった先は、星架の部屋だった。

「いーよ、座ってて」

「うん……」

ソファーに腰を下ろす。

「眠くないの?」

「眠くないよ」

本当は、眠りたくなかった。

目を閉じれば、またあの夢を見るかもしれない。

眠ったところで、休まるとは限らないから。

ガチャッ――。

「星架、これ頼まれたやつ」

華が部屋に入ってきた。

「ありがと」

星架が受け取る。

「風翠」

「ん?」

華が俺のそばまで来て、湯たんぽを手渡してくれた。

じんわりとした温かさが、手のひらに伝わる。

「寝ない? 寝れない? どっち?」

「……」

すぐには答えられなかった。

けれど、華は急かさずに待ってくれていた。

「……寝れても、夢で起きる……」

ようやく口を開く。

「だから、寝たくない……。寝たほうが、後からしんどくなる」

眠ることが、怖かった。

眠ったところで、あの頃から逃げられるわけじゃない。

目を覚ませば、また同じ苦しさが待っている。

「そっか……」

華は静かに頷いた。

「なんとなく分かってはいたが……誰かが隣にいた方がいい、とかある?」

「ない……」

「今、食べたいものは?」

「ない……。ぁ、」

「ん?」

「……プリン。食べたいかも」

口にしてから、自分でも少し驚いた。

食べたいものなんて、ずっと考えていなかったから。

「分かった。朝、買いに行ってくる」

「いいよ、別に……」

そう言いかけて、ふと顔を上げる。

「……なんか、いい匂いする」

「うどん作ったけど、食べれる?」

星架がそう尋ねた。

「……食べる。せっかく作ってくれたし」

「別に、残してもいいからな」

「うん。いただきます」

差し出されたうどんを口に運ぶ。

温かかった。

そして、久しぶりに美味しいと思えた。

一人で過ごしていると、食事を作ることすら面倒になる。

無駄なエネルギーを使いたくない。

それなら、何も食べなくてもいい。

そんなふうに考えて、食事を後回しにすることが増えていた。

けれど、今は違った。

温かい食事が、ゆっくりと身体に染み込んでいく。

「……美味し……」

ぽつりと零した言葉に、星架が笑った。

「良かった笑」

そして、少し懐かしそうに目を細める。

「なんか、小さい頃のこと思い出すなぁ……笑」

「あー……確かにね笑」

俺も小さく笑った。